特集

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2020年12・2021年1月 No.524

withコロナ時代に建設業はどう変わっていくか~新しい「物語」をつくろう~

INTRODUCTION

2020年、世界中が直面した新型コロナウイルスの感染拡大。日本社会や経済・産業にも大きな影響を及ぼす中で、3密の回避やマスク・手洗いの励行など「withコロナ時代」に向けた継続的な取り組みがなされています。新たな時代の転換期を迎えた建設産業の現状と未来について、国土交通省 青木不動産・建設経済局長にお話を伺いました。

 

国土交通省 不動産・建設経済局長
青木 由行 氏…………………………………(以下、青木)

一般財団法人 建設業振興基金 理事長
佐々木 基…………………………………(以下、佐々木)

 

佐々木: 新年を迎え建設産業の将来を見据えたテーマについてお聞きしたいと思うのですが、正直言ってこのような時代が来るとは思ってもいませんでした。近年、建設産業全体はおおむね好調な気運だったと認識しているのですが、昨年からのコロナ禍の影響により不動産や建設投資の動きにも変化が生じていると感じています。建設産業に従事されている方の中にも不安や心配の声があるかと思うのですが、そのあたりはいかがでしょうか?

青木: 国内で新型コロナウイルスの脅威が本格的に叫ばれはじめたのが、2020年の2月・3月の頃でしたね。当初は一部の工事を止めるといった動きもありました。ただ幸いにして、建設産業は他の業界に先んじて3密回避などの対策がとられたように思います。各事業者団体や企業でも自主的に対策をとる動きがありましたが、5月の連休明けには「建設業における新型コロナウイルス感染予防対策ガイドライン」をもとに対策がとられ、いち早く予防に努めることができたと考えます。室内・内装工事などの閉鎖的な空間での作業時にはさらに留意すべきという声もあったり、危惧していたとおり感染者もゼロではありませんが、やはり他と比較すると建設産業はうまく対応してきたという認識です。逆に言えば、コロナ禍により他の産業が落ち込んでいる中で日本のGDPを支え、経済の一助として機能してきたとも言えますね。

ただ、民間設備投資の面では、特に工場や店舗といった発注の減少が数字としても見えてきています。どうしても受注が先細る時というのは、ダンピングが起き、下請の企業や技能者の方の大きな負担につながってしまう心配があります。近年は「間違ってもダンピングをしない」「下請たたきをしない」「しっかりと技能者の方に給与を払う」「それが利潤につながる」という良いスパイラルが続いていたので、その流れはなんとしても途絶えさせたくないと思っています。

佐々木: コロナ禍の中で、新しい生活様式も注目されています。暮らしだけでなく働き方の面でも「withコロナ」はどうなるか、どう向き合っていくかといったことがこれからの大きな課題ですが、そんな中で建設業の役割についていかがお考えでしょうか。

青木: 以前より国土交通省でも他の省庁と共にリモートワーク導入を呼びかけてきましたが、なかなか進みませんでした。しかしながら、コロナ禍で否応なく適応せねばならないという状況下で取り組む中で、「これはこれでありだな」という認識が生まれ、定着してきました。直接顔をあわせずとも会議や打合せができ、日程調整も円滑になるなど、リアルとリモートのハイブリッドの形で仕事が回り始め、リモートワークが定着しつつあります。ポジティブに解釈するなら、コロナ禍により“将来実現されるべきことが前倒しされている”と捉えることがいちばんしっくりくるのかなと思います。以前から進められてきた働き方改革──例えばオフィスについても、ターミナル駅の近くにサテライトオフィスをつくったり、旧来のお役所のようなレイアウトではなく創造性のあるオフィスの形が考えられていたりもしました。また地方への移住や複数の拠点でのデュアルライフ、改修された古民家にIT企業が入るといった事例も地方創生の議論の中で以前から起きていました。それらがコロナ禍により、前倒しになっていくのかなと考えます。

その上で今後必要となってくるのは、街や地域といったものの「リニューアル」ではないかと思います。コロナ禍による外出機会の減少は、多くの弊害も生じさせます。独居の高齢の方であれば運動量が落ちたり、買い物に出られないことで食事のレベルが落ちたり、人に会えないことで認知症リスクの増大やコロナ鬱なども心配されます。そうした懸念についても以前から叫ばれていて、各地で取り組みも始まっていました。居心地がよく歩いて楽しいウォーカブルな街や多様性のあるコミュニティといったキーワードをもとに、オープンスペースや公共スペースを人が集まりたくなる魅力的な空間にし、よりイノベーティブな活動、心身の健康に寄与するような街をつくり、孤独や孤立も防ごうといった動きはコロナ禍以前から始まっていました。

そんな「人と会う空間」をつくっていく動きが、コロナ禍により減退しないだろうかと危惧していましたが、実際は逆ではないでしょうか。もちろん3密を避けるといった考慮すべきことは増えているのですが、ある意味、リモートワークが広がり浸透してきたからこそ、「リアル」に会う価値や重要性が実感を持って見つめ直されているようにも感じます。

そうしたことを踏まえると、やはり将来的にはインフラも含めて街や地域をつくりなおしていくことが大切になってきます。建設産業の方々がその担い手になるのは、まず間違いありません。特にそれぞれの地域に根ざして活躍する建設産業の方々は、施工力や技術力はもちろん、さまざまなアイデアも豊富に持っているため、大きく貢献していただけるだろうと期待を寄せています。

佐々木: そのとおりですね。ある調査では、建設産業というのは非常にコロナに強い産業であるという結果が出たとも聞きましたが、コロナ禍が、これからの建設産業の在り方や働き方、マネジメントなどを改めて見つめるための機会になるともいえそうですね。

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