特集

特集
2020年12・2021年1月 No.524

withコロナ時代に建設業はどう変わっていくか~新しい「物語」をつくろう~

佐々木: なるほど、よく分かりました。次に現下の最大の懸案事項といってもいいと思うのですが、「建設キャリアアップシステム」について、その意義や局長の思いなどを改めて教えていただけますか。

青木: 建設キャリアアップシステムについては、これまで建設産業を見つめ、担い手確保を進めてきた大きな流れの中で必然的に出てきたものです。まず、技能者の給与引き上げの流れを絶対に止めないということが目的としてあります。ここ8年ほどで技能者の給与は約2割上がっていますが、市場を考えるともっと上がって然るべきです。また、給与の中にマネジメント能力への評価が含まれていないのではないかという見方があります。40代前後で賃金カーブのピーク時期が到来するという今の状況は、やはりよくないものと考えます。それに関連して、若い世代に給与とキャリアパスの見通しを示していくことが非常に大事な課題になります。賃金において、年齢やキャリア・資格・経験・技能などを考慮した相場観が、正直言って乏しかったんじゃないかと思います。経営者の中で建設キャリアアップシステムという取り組みにご賛同いただけない方には「給与をどうするかは、職人個々の能力をいちばんよく知っている経営者が決めるもの」という声もあります。それをあえて強くは否定しませんが、目指しているのはダンピングや安値競争が起こらない市場構造をみんなでつくっていこうよということ。でなければ、いくら高く評価すべき人材がいても、やむなく給与を下げねばならない状況に陥ることになりかねません。

これまで日本の建設業界では、海外のようにユニオンなどが経営者と交渉して賃金を上げていくというスタイルはあまり根付いていませんし、今すぐにそれをやろうというのも非現実的なことだと思います。先ほど労務単価で申し上げたように、労使で協調・連携して給与を上げていくスパイラルをつくる、建設キャリアアップシステムを整えてダンピングや安値競争が起こらない市場を形成する、そうして個別の給与の引き上げを行い、若い世代にキャリアを示していくといったことが、目指すべき本質的な形ではないかと思います。

また、この取り組みを積み重ねていくことで、相当なビッグデータも蓄積されます。すでに今年から労務費調査でも建設キャリアアップシステム登録者の賃金実態を調査するなど、それによりさまざまな分析も可能になってきています。さらにデータを活かしていけば、生産性の向上、給与の向上といった建設産業の課題に対する大きな武器になり得ます。積年の課題である雇用関係の明確化にも力を発揮していけると思いますね。

思えば建設産業もひと昔前は単純作業がかなりのウエイトを占める部分があり、世間にもそうした印象が強いかもしれません。そうした仕事がゼロになったわけではないですが、もう未経験者が一朝一夕で戦力になれるような世界ではなくなりました。あらゆる面で機械化が進み、職人の方もしっかりとした経験の積み重ねが必要な世界になっています。マネジメント手法なども含めて、建設産業は大きく進化しています。日本のゼネコンが海外においても高い評価を受けているのはそのためです。建設キャリアアップシステムが標準装備され、さらに働き方改革が進んでいけば、建設産業の景色が一変する可能性は大いにあります。女性の活躍もより大きく広がっていくでしょうし、ICTなどの技術を駆使した進んだ業界であるという、新しい物語も生まれていくでしょう。建設キャリアアップシステムは、そんな物語の重要なファクターになるものと思います。

1 2 3 4 5

関連記事

しんこう-Webとは
バックナンバー
アンケート募集中
メールマガジン配信希望はこちら