特集

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2020年12・2021年1月 No.524

withコロナ時代に建設業はどう変わっていくか~新しい「物語」をつくろう~

青木: 私が思うに、まずは今後人口が減っていく中で、かねてより問題になっている“担い手の確保”が大変重要な課題になります。これまで取り組んできたことからも明確ですが、「給与の引き上げ」「働き方改革」「生産性向上」、この3つをセットでやっていかなければならない。ではどうやっていくのかと考えると、先ほど挙がったようなインフラの整備を含めた街づくり・地域のリニューアル・民間設備投資など、そうしたものを建設業が支えているということが広く世の中に共有されていかなければならないと思うんです。

建設産業と聞くと、いまだに「公共事業は建設業者のためにあるんじゃないか」という言い方をされる方もいます。ただ一方で、被災地などでの復興事業やインフラ整備に建設産業の方々が活躍してきたこと、していることについては、かなり認知が広がってきたようにも思います。これは多分に各企業の献身的な努力が大きいですし、行政との連携や制度の充実などもその後押しにもなっていると考えています。企業・行政、それぞれが大小さまざまな物事に取り組んでいますが、それがモザイクのように組み合わさり積み重なることで、より大きな流れとなって多くの方に知っていただけるようになっているのではと感じています。大切なのは、そうしたひとつひとつの物事を結んだ「物語」ではないでしょうか。「物語」というとフィクションのようなイメージで捉えられるかもしれませんが、そうではなく、データやファクト、個別エピソードなどを1つにつなげた魅力的なストーリーという意味合いのものです。

かつて建設産業は「3K」と言われ、ある意味で「負の物語」を背負ってきた歴史があります。また、残念ながら公共事業悪玉論のようなものも世の中に広く共有されていました。これは、談合問題や違法な就労形態などが公共事業と結び付けられ語られたということも大きいかと考えます。私たちが将来をどう切り拓いていくかということを考えると、現場での企業個別の取り組みや事業者団体個々の取り組み、行政の取り組みなどそれぞれを単発的に進め、語り、紹介するのではなく、「こういった意味があることなんだ」という大きな物語として語っていくことが、世の中の考え方や働き手となる方々をはじめ人々の行動を変えていくことにつながる。このことをこれから意識すべきではないかと思っています。

佐々木: 「物語」という言葉は非常に印象的ですね。物語を紡いでいくというと哲学的な響きもありますが、魅力的な物語が人を動かすと考えると、なるほどと感じます。非常にいい言葉ですね。そうした物語を紡いでいくためには、業界や企業だけでなく、発注者側にも役割を担ってもらう意識が大事になるかと思います。「担い手3法」はまさにそうした発注者としてどうしていくかという提案がなされているものだと思いますが、「担い手3法」の目指すところ、そして今後の施行の方針を教えていただけますか。

青木: 「担い手3法」を語る際にも、やはり過去から続く流れを意識すべきと思います。特に建設産業は10年ほど前、業界として非常に厳しい時期にありました。平成4年からわずか20年弱で、市場が84兆から42兆へと半減したんです。技術革新によりその産業が不要になったというならともかく、世の中から常に必要とされている産業にも関わらず市場が半減したというのは、尋常なことではありません。その中でダンピングが起き、給与が下がり、優良な企業でも経営が苦しくなり、担い手がいなくなる、といったことが起きていたのが事実です。そうした状況を約10年で立て直してきたということも、ひとつの大きな物語と言えます。

最初は「社会保険の未加入対策」に取り組んだことが原点だったと記憶しています。これにより下請の力が向上し、今に至る“売り手市場に持っていく”ことの始まりとなり、労務単価を引き上げるキーになったと思います。その後、設計労務単価と給与の引き上げを連動させるよう働きかけをおこないました。これは、給与を引き上げると労務単価が上がる、すると予定価格も上がり、企業の利潤も増えるという労使協調でWin-Winの好循環をつくることにつながりました。そうした流れの中で出てきたのが「担い手3法」です。かつては“安ければいい”という物語があり、多くの方がその虜になっていました。また、公共事業は建設産業を儲けさせるものという物語も確かにありました。そうした物語から決別するために「担い手3法」は非常に大きな役割を果たしたと思っています。ひとつには、現在および将来の公共工事の品質確保のためには中長期的な担い手の確保が必要ということ、そしてそのためには、適切な利潤を確保することが必要と定めたことです。担い手の育成のための利潤確保が法律として認められ、かつ発注者としての責務だと定められたのは、以前の負の物語とは真逆のもので、大変意義深いものと考えます。また、適正な予定価格やダンピング防止、多様な入札・契約方式なども条文に盛り込まれました。つまり、談合や不適切な手段ではなく、正々堂々と担い手確保のために利潤を追求すべしと位置づけ、運用指針という発注者共通のルールを設けました。これは業界の負の物語を変えていく転換となるものでした。

さらに、現在の働き方改革につながるような事柄も意識されていました。当時から無理のある工期設定は問題化していましたし、若い働き手にとっては給与も休暇も残業抑制も大切ということはわかっていました。政府全体も働き方について強い問題意識を持っていた中で、「担い手3法」は「新・担い手3法」として改正され、技術者制度の見直しという構造的な部分にもメスが入り、将来を見通した動きが出てきました。

こうした大きな流れ、大きな物語をいかに継続して発展させるか──新しい制度を“つくっておわり”にせず、しっかりと現場に定着させると共に、中身をより向上させる・スパイラルアップさせていくという試みが大切だと思っています。

企業それぞれのチャレンジや事業者団体と行政との話し合いを積極的に進めていくことが、大きな物語をつくり、現場や制度を変え、将来を切り開くことにつながると考えています。

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