特集

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2019年10月号 No.512

「新・担い手3法」と 建設産業の未来

なぜ今、働き方改革が必要なのか?

佐々木 働き方改革については、「建設産業の今までのやり方では困難ではないか」という企業からの声をよく耳にします。改めて、働き方改革に取り組む意義、あるいは今後の方向性についてお聞かせください。

青木 建設産業としての働き方改革は、あくまでも担い手対策の「手段」です。法改正があったから、法律を守ればいいと、そのこと自体が目的ではないんですね。長時間労働の是正や休暇の取得促進などの働き方改革と一体として、給与の引き上げと生産性の向上を実現する。この3点を一緒に進めていくことが大切だと私は思っています。

佐々木 そうですね、本当の目的が何かを把握することがまずは必要ですね。

青木 建設業課長をさせていただいていたとき、前回の担い手3法の改正に携わっていましたが、担い手対策として、社会保険、給与の問題が重要項目でした。しかし実は、若者を引き付けるためには給与だけではなく、休暇を十分に取得できることも非常に大切だとその頃も言われていましたし、長時間労働の是正についても、行政・業界共に課題として認識していました。当時もかなり議論したのですが、残念ながらなかなか前に進めることができなかった。今、政府全体の政策課題の一大テーマとして働き方改革が浮上し、建設業は重点的に取り組むべき分野になりました。建設産業の自発的な動きだけではここまでの動きは作れなかったのではないでしょうか。現在の流れの中で行われている取り組みは、期限を切っていることもあり、確かに現場にとってはかなり厳しいこともあると思います。だからこそ、「発注者の理解」をきちんと得ながら進める必要がありますが、政府全体で発注者側に対して協力を求めている流れにあわせて、この4、5年で一定レベルまで到達させることが重要ではないでしょうか。どんなに厳しくても、ここは頑張ってやらなければいけないと思います。

佐々木 発注者を巻き込んでいくことに、政府全体として取り組んでいく意味があるということですね。では、行政は発注者にどのような姿勢で臨まれるのでしょうか?

青木 建設産業の現場で担い手がいなくなると、さまざまな社会資本整備、民間設備投資がこれまでの質とスピードでできなくなります。担い手の問題は、受注者と発注者がお互い交渉相手という立場ではなく、パートナーシップをもって取り組まなければならないと思います。建設産業側も発注者に理解を求めつつ取り組みを進めなければなりません。一方で、短期的な目の前の利害に影響を受けやすい個社同士の交渉だけに解決を委ねてはなかなかうまくいかないと思います。そこで、行政と受発注者の事業者団体が中長期的な見通しや取り組みの必要性、受発注者双方お互いの事情を共有することが重要ではないでしょうか。こうした取り組みを継続的に行い、信頼関係と交渉のルールをともに築いていく取り組みを粘り強くやっていく地道な努力が必要です。そのために行政もできることをしっかりとやっていきたいと思っています。

佐々木 発注者とのパートナーシップというのは、非常に新鮮なご意見ですね。確かにこれからの世の中は、そのような姿勢でいることが大事だと思います。

今、行政はいまだかつてないほど積極的に、これからの建設産業をどうするかという観点から取り組んでいただいています。特に昨今、働き方改革、技能評価、建設業キャリアアップシステムなど改革の進度が急過ぎて、理解が追いつかないというご意見を専門工事業者の方々からいただきます。そういった業界の不安に対して、ひと言いただけますか。

青木 ここのところ、さまざまな取り組みが急速な展開を見せていることは事実です。また、専門工事業のみなさんが自発的に取り組もうと決意してから動いていることばかりではなく、戸惑う気持ちがあることも理解できます。担い手対策については、制度の改善も必要ですが、実際の現場が変わっていかないと、制度改善の実は上がらず、成果につながらないと思うんですね。そこで重要なのが、事業者団体の役割です。事業者団体の中でさまざまな課題を、現場目線で納得するまで徹底的に議論していただく。そのうえで、意見集約していただくことが非常に大切だと思っています。そして、行政と事業者団体で十分な意思疎通を行っていく。社会保険はまさにそのプロセスだったと記憶しています。議論を重ねるなかで、お互いにできることのレベルをスパイラル的に向上させていくことが重要ではないでしょうか。

佐々木 専門工事業者も確かに改革が急でついていけないという声がありながらも、今のままではダメなんだという認識も持っていますね。おっしゃるように議論を尽くしていけば、行政、専門工事業者双方が同じ方向を向いていけるのではないかと期待します。

青木 専門工事業の方々が元請けや行政を突き上げるくらいの動きがないと、建設産業はよくならないと思います。行政にも率直に意見を言ってほしいですし、我々としても、その中から次のアイデアや新しい動きのきっかけを作っていきたいと思います。

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