特集

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2023年12月・2024年1月 No.554

持続可能な建設業にむけて

資材価格の高騰が及ぼすリスクに向き合う

谷脇:ありがとうございます。基本問題小委員会で議論された内容としては大きく3つありますね。「1.請負契約の透明化による適切なリスク分担」「2.適切な労務費等の確保や賃金行き渡りの担保」「3.魅力ある就労環境を実現する働き方改革と生産性向上」とのことですが、まさに担い手確保や人材育成につながるものですし、これまでなかなか対応できていなかった部分にもチャレンジされているように見受けました。これらの趣旨について教えていただけますか?

塩見:まず「1.請負契約の透明化による適切なリスク分担」ですね。もしも資材価格が高騰した場合、その高騰分を誰が負担するかは契約上の大きなリスクになりますが、明確なルールが無いのが現状です。ただ、受注産業である建設業界では、得てして弱い立場にある受注側にしわ寄せが行きがちです。先ほどお話ししたように、このしわ寄せが働いている方の処遇の引下げにつながりかねないため、交渉時のルールをより具体化し、しわ寄せが起こりにくいようにしようというのが大きな狙いです。発注者と元請・下請、元請と下請の間で、それぞれ納得のいく形で相談や協議をしていただくのが基本であり、交渉の方法やルールを定め、よりよい結論を導けるよう交渉環境を整えていくことが大切です。例えば、契約前に資材価格が上がる可能性をあらかじめ相手方に伝え、実際に資材価格が上がった際の協議がしやすくなるよう注意喚起をしておくこと、そして資材価格が高騰した際の対処の仕方を契約上でも明確化しておくことなどです。高騰分の吸収について契約段階からルール化しておくというのが、今回の大きな柱です。もうひとつの柱は「当事者間のコミュニケーションと請負契約の適正化」です。当事者間でよくご相談いただくということに尽きるわけですが、受注側か注文側か一方の責任問題というよりは、お互いをパートナー同士・運命共同体として認識した上で、相手方と交渉相談をしていく基本姿勢を持っていただきたいという趣旨です。様々なことを誠実に協議していただきたいという理念を法律上においても明らかにしていきたいと思います。さらに、相談してくださいというだけでは実効性が十分ではないので、場合によっては行司役である行政が動き、不適切なものがあれば注意をする・変更をお願いするということも法律上の制度として整え、安心して交渉できる環境をつくっていきたいと思います。

 

最前線の処遇改善につながる動きへ

谷脇:発注者・元請・下請それぞれが交渉しやすい環境づくりというのは、担い手確保にもつながる大きな意味がありますね。続いて「2.適切な労務費等の確保や賃金行き渡りの担保」についてはいかがでしょうか?

塩見:これはまさに、最前線で働かれている技能者の方にどう賃金を届け、処遇を改善するかという内容です。かつては社会保険加入の徹底や設計労務単価を上げることで、現場の賃金引上げをお願いするという努力を重ねてきました。その試みは功を奏し、労務単価の引上げが現場の賃金上昇につながり、それがまた次の労務単価設定につながるという良い循環を生み出すことができました。その流れは今後も継続できればと思いますが、労務費の行き渡りには課題があるとお聞きしています。また、建設業者の皆さまとしても、賃金を上げたい想いがあっても、他社との競争の中でどうしても賃上げの原資が確保できないとの事情があると思います。発注者から元請へ、元請から下請と、それぞれ段階を経るに従って労務費が徐々に目減りすることで、結果的に労務費相当分が縮減し、賃金原資が十分に確保できないという問題が各方面から指摘されているわけです。これに対し、今回検討しているのは、まずは国から労務費の目安となるもの、標準的な労務費を示したい。発注者から元請へ、元請から下請と段階を経ても労務費が目減りしないような方策を検討していきます。そして労務費を削り取るような契約に対しては国の側から注文をつけ、強く是正をお願いするといった仕組みを設けることで、賃金・労務費の切り下げを起こりにくくしていきたいと考えます。

谷脇:これは業界全体が避けて通ることができない課題ですね。労務費を下支えする仕組みは他の国においては取り入れられていたかと思いますが、日本では制度的なものが整っておらず、国からはお願いベースでしか働きかけはできていませんでしたね。今回は日本型の労務費を下支えする仕組みを新たな制度として設けられようとする、非常に大きな取り組みだと感じます。今後いかに具体化していくかが大事かと思いますが、どのような段取りで進めていくのでしょうか?

塩見:大事なのは建設業界の皆さまの納得感です。制度を作っても守られない・使われないのでは意味がありません。一緒に考え、一緒に行動する体制が重要だと思っています。基本問題小委員会のように、様々な分野を交え、多岐にわたる検討体制を作り、業界の皆さまが納得できる標準労務費の設定の仕方を考える必要があります。また、望ましくない典型的なケースや、違反となるパターンなどを具体的に示していくことで、皆さまにご理解いただくことが大事かと思っています。

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