かわいい土木

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2024年9月号 No.561

技術者の情熱を伝える赤い屋根の給水塔

東山給水塔 愛知県名古屋市千種区

Photo・Text : フリーライター 三上 美絵
大成建設広報部勤務を経てフリーライターとなる。「日経コンストラクション」(日経BP社)や土木学会誌などの建設系雑誌を中心に記事を執筆。
広報研修講師、社内報アワード審査員。著書『土木技術者になるには』(ぺりかん社)、本連載をまとめた『かわいい土木 見つけ旅』(技術評論社)


名古屋市の東部の丘陵地帯に、サイロのような赤いとんがり屋根の塔がある。昭和初期に建設された配水塔で、現在の名は「東山給水塔」だ。この遠くからでも目立つ、ドボかわいい給水塔は、名古屋市の水道敷設に力を尽くした技術者たちの足跡を今に伝えている。

円塔の上にちょこんと載った赤いとんがり屋根。外壁の一部にはツタが絡まり、メルヘンチックな趣がある。名古屋市東部に位置する東山給水塔は、その見た目から「ムーミンの家みたい」として人気を集めている。

この連載で配水塔を取り上げるのは、水戸市水道低区配水塔、駒沢給水所配水塔、野方配水塔に続いて今回が4回目。古い配水塔にはドボかわいいものが多いのだ。

水戸市水道低区配水塔(かわいい土木第1回しんこうweb ▶︎ https://www.shinko-web.jp/series/200/ )

駒沢給水所配水塔(かわいい土木第31回しんこうweb ▶︎ https://www.shinko-web.jp/series/5732/ )

野方配水塔(かわいい土木第43回しんこうweb ▶︎ https://www.shinko-web.jp/series/10126/ )

ちなみに、東山給水塔は1930年(昭和5年)に完成した当時、「東山配水塔」という名称だった。

配水塔とは、高台に建てた塔のタンクに貯めた水を、落差を利用して低い位置にある家や施設へ自然流化させるためのもの。ポンプの性能が向上した今では、配水管に高い圧力をかけて直接配水する方式に置き換わったところが多い。

古い配水塔の中には、配水施設としての役割を終え、災害時の応急給水施設になっているものもある。東山給水塔もその一つだ。1973年(昭和48年)まで配水塔として使われた後、1979年(昭和54年)に応急給水施設となり、名称も配水塔から給水塔に変わっている。

▲東山配水場は道路を隔てた両側にまたがっており、「天満すいどうはし」という連絡橋でつながっている。右側に見えるのが東山給水塔。

お雇い外国人技師バルトンから
教え子が引き継いだバトン

名古屋は地勢的に地下水に恵まれず、古くから井戸水の水質もよくなかった。このため、明治時代になると衛生的な近代水道を望む声が高まり、1891年(明治24年)、衛生工学技師バルトンに水道の調査を委託している。

バルトンはその2年前にイギリスから来日し、帝国大学衛生工学初代教授と内務省衛生局顧問技師を兼任。いわゆる「お雇い外国人」として東京や横浜、名古屋などの上下水道の調査・設計・工事を手掛けた。

だが、バルトンの水道計画案は、当時の名古屋市の財政上の理由により実現しなかった。それから10年近くたった1902年(明治35年)、新たに水道計画の作成を依頼されたのが、愛知県技師だった上田敏郎だ。上田は東京帝大の学生時代、バルトンの講義を受けている。

上田は、バルトンの案を基に調査を開始。水源を木曽川に定め、現在の犬山市で取水し、浄水場で濾過した水をポンプで東山村山頂に設けた配水池へ圧送、各戸へ配水する計画を立てた。これを基に工事が始まり、1914年(大正3年)に給水が開始。名古屋市水道技師長として工事を指揮した上田は、竣工を前に、過労に倒れ、帰らぬ人となったという。

命の水を届ける上水道を
命がけでつくった技術者たち

その後、名古屋市の人口は増え続け、水道の使用量も増加。市は水道の拡張を重ねていった。第三期拡張事業の一環として、配水池の敷地内に建てられたのが東山配水塔だ。東部の丘陵地帯に住宅が増え、水圧が低下して配水池の高さでは心許なくなったため、約38mの高さの配水塔を建て、高いところから流すことで水圧を補ったわけだ。設計と施工は、名古屋市技手だった成瀬薫が手掛けた。成瀬もまた、上田と同じ東京帝大の出身だ。

取材時、東山給水塔の近くにある「水の歴史資料館」に寄った。展示されている竣工当時の配水塔の模型を見て、少しとまどう。写真のように、シンボルマークの「赤いとんがり屋根」がないのだ。じつは、赤い屋根の部分は、配水塔としての役目を終えてからタンクの周りに設けられた展望通路だという(現在は非公開)。

名古屋市上水道は今年で110周年。猛暑の中を歩いてたどりついた資料館で飲ませてもらった冷水は、まさに甘露だった。人々に安全で美味しい水を届けるために命をかけた土木技術者たちを思いながら、ありがたく飲み干した。

▲赤いとんがり屋根がチャーミングな東山給水塔。5階の上に水を貯める直径8.4m、高さ7.2mの貯水タンクが載っている。ここに、313m3の水を貯め、高台の住宅へ配水していた。現在は一般公開されていない。

▲赤い屋根の内部は展望通路になっている。ガラス越しに鋼製タンクが見える。

▲竣工時の姿を表す模型。上部のタンクの様子がよく分かる。水の歴史資料館で撮影。

 

●アクセス

名古屋市営地下鉄東山線覚王山駅から徒歩約15分。

 
 

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