連載

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2023年11月号 No.553

二つのまちの縁をつなぐトレッスル橋

Photo・Text : フリーライター 三上 美絵
大成建設広報部勤務を経てフリーライターとなる。「日経コンストラクション」(日経BP社)や土木学会誌などの建設系雑誌を中心に記事を執筆。
広報研修講師、社内報アワード審査員。著書『土木技術者になるには』(ぺりかん社)、本連載をまとめた『かわいい土木 見つけ旅』(技術評論社)


江戸時代にはいずれも南部藩に属していた岩手県二戸市と青森県三戸町。二つのまちの交流は明治以降も続き、県境の川を渡る橋の存在が欠かせなかった。トレッスル橋脚を有する青岩橋は、洪水による度重なる落橋の末、地元の人々が待ち望んだ恒久橋だ。

岩手県と青森県の県境を流れる馬淵まべち川。国道4号の旧道がこの川を渡るところに架かっているのが、青岩橋だ。「青森」と「岩手」から一文字ずつ取って命名されたものだと聞くが、字面が「青い岩」を思わせ、馬淵川の清流が目に浮かぶ、なかなか風流な名称だ。

江戸時代から続く二戸と三戸の交流の歴史

青岩橋が竣工したのは、昭和10年(1935年)。前身の木橋が大正3年(1914年)に洪水で流されて以来、20年以上のあいだ仮橋の状態が続いた後、ようやく現在の鉄橋が架けられた。

『鉄の橋百選―近代日本のランドマーク』(成瀬輝男編、東京堂出版)によれば、木橋の時代には、青森と岩手が20年ごとに交代で橋を建設し、その期間中に流失した場合には、建設した県が再建する取り決めだったという。橋を挟んで対岸に位置する二戸と三戸は、江戸時代にはいずれも南部藩の領内にあり、文化交流があったのだ。

それだけに、相互に行き来のしやすい橋、しかも丈夫な鉄の橋を求める地元の声は大きかったのだろう。国道の橋なので、工事は当時の内務省直轄で行われたものの、工事費は地元が負担した。請願によって架けられた経緯から、青岩橋の「せいがん」という音にかけて「請願橋」とも呼ばれたらしい。

青岩橋の竣工を報じた『土木建築工事画報』の昭和10年11月号には、竣工式に来賓約300人のほか、数千人の見物人が集まったことが記されており、期待の高さがうかがえる。花火を合図に始まった渡り初めでは、神官の先導で「青森岩手両県の3夫婦2組」と参列者一同が橋を渡った、とある。

余談ながら、江戸時代から各地の橋の渡り初め式には、長老一家の3世代(親・子・孫)の夫婦が、行列の先頭を歩く風習があったようだ。青岩橋でも、両県から3世代の夫婦が各1組、選出されたのかもしれない。長寿で仲睦まじい夫婦にあやかり、橋の完成に川の両岸を末永くつなぐ願いを込める。両方のまちの人々の絆の深さを感じさせるエピソードだ。

現存する日本で最長のレッスルの橋

この橋のドボかわいいところは、何と言っても「トレッスル橋脚」にある。脚立を開いたようにも見える、鉄塔に似た橋脚だ。山陰本線の余部あまるべ鉄橋(2010年に廃止、一部保存)や、以前にこの連載で紹介した東急池上線五反田駅の高架橋(かわいい土木第47回しんこうweb https://www.shinko-web.jp/series/12036/ )にもトレッスル橋脚が使われている。

▲開いた脚立の上に桁を乗せたような独特の見た目がドボかわいい。

トレッスル橋脚は、欧米で1860年から鉄道が谷を渡る個所に多く建設された後、工業品として海外に輸出されるようになった。日本は、明治時代半ば以降にこうした製品を輸入して鉄道橋に使用。国産化が可能になってからも、トレッスル橋脚が使われたのはほとんどが鉄道橋で、青岩橋のように道路橋に採用された例は珍しいという。

青岩橋の橋長は189m。国土交通省の十和田国道維持出張所のサイトには、「余部橋梁が供用を停止してからは、青岩橋が日本最長のトレッスル橋である」とある。土木学会は、この橋を2006年度の選奨土木遺産に選出した。

国道4号は現在、バイパスが整備されており、馬淵川を渡る個所には、新たに「青岩大橋」が架けられた。旧道の青岩橋は、数年前まで人道橋として地元の人々に使われ続けていたと聞くが、私が訪れた2023年5月下旬には、全面的に通行止めになっていた。橋脚や桁も、傷みが感じられる状態だ。

川の両岸の二つのまちの交流の歴史と、橋梁技術の歴史を体現するこの貴重な橋を、後世へ継承する手立てはないものか。このまま朽ちさせてしまうのは、あまりにも惜しいように思われる。

▲国道4号青岩バイパスの青岩大橋から見た青岩橋の全景。 トレッスル橋脚の高さは12.78mもある。

▲自動車道の役割をバイパスに譲った後も人道橋として供用されていたが、取材時は全面通行止めになっていた。

▲桁の形式は鋼プレートガーダー。長さ20mの鋼板を9本連ねてある。

▲親柱には「青岩橋」と橋名が彫られているのがかろうじて見える。

 

●アクセス

いわて銀河鉄道目時駅から徒歩約20分。JR東北新幹線二戸駅から車で約20分。

 
 

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