特集

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2024年12月・2025年1月号 No.564

第三次・担い手3法の施行に向けて

第三次・担い手3法の施行に向けた取組は?

谷脇:2024年度、「第三次・担い手3法」が成立し、順次現場に適用するよう施行されることになると思います。大きく分けると「担い手確保」「生産性向上」「地域における対応力強化」の3つがポイントになると見受けました。まずは「担い手確保」の点について伺いたいと思います。特に「労務費の基準」については、業界内の関心も非常に高いと捉えますが、検討の方向性はいかがでしょうか?

平田:はい。今般成立した「第三次・担い手3法」は、国民生活や経済活動を支える建設業が将来にわたって“地域の守り手”としての重要な役割を果たしていけるよう取り組もうとするものです。政府提出の建設業法及び入契法の改正においては、国が適正な「労務費の基準」を作成・勧告し、資材高騰分の転嫁ルールを定めることで、技能者の賃上げ原資となる労務費の確保と行き渡りを図ることなどとしています。「労務費の基準」については、中央建設業審議会にワーキンググループを設置し、昨年9月から議論を開始しています。公布から1年6ヶ月以内に予定されている施行のため、現場においてしっかりと活用されるものとなるよう検討を進めているところです。ワーキンググループでの議論や多方面から伺うお話の中でも、各業界・立場により皆様の考え方は異なるものがあります。「労務費の基準」が活用されていくためには、労務費部分の内訳を具体的に示し、下請から元請に対してしっかりと請求できるよう新しい商慣習を作っていく必要があると考えています。ただ、これは上流から下流へ価格を決めてきた商慣習、従来からの材工一式の商慣習とは異なるものですので、業界全体・各関係者の方に深く理解していただきながら進める必要があると思っています。

谷脇:今後の建設業のために、意識の変化を含め、業界全体として取り組まなければいけないですね。

平田:ワーキンググループだけでなく、それぞれの専門工事業団体やゼネコンの皆様などにもお声がけし、議論を進めていく必要があります。

谷脇:ぜひとも現場にとって良いものとなってほしいです。資材高騰分の転嫁ルールについても伺えますか?

平田:価格転嫁については、契約変更の協議円滑化ルールに関して、契約締結前に受注者から注文者に通知すべき事項や、契約変更協議の申出に対する注文者の誠実な対応のあり方など、制度運用上の様々な留意点をガイドラインとして取りまとめたところです。こちらをマニュアルとして有効に活用していただくなど、本制度の実効性を高められるよう図っていきたいと思います。

谷脇:ありがとうございます。続いて「生産性向上」の点ではいかがでしょうか?

平田:はい。就業者数が減る中でも建設業がその役割を果たし続けていくためには、現場やバックオフィスでの生産性向上が必要不可欠です。これまで、ICTを活用した建設現場における生産性向上に向けた取組事例を取りまとめ・横展開しているほか、書類の簡素化やASPの活用による書類の電子化に取り組むよう、ガイドラインやリーフレットなどを各地方整備局において策定または改訂し、受発注者への浸透を図ってきたところです。昨年末には、第三次・担い手3法に規定されたICTを活用した現場管理のガイドラインとなる「指針」を策定しました。この指針では、一定の工事についての専任技術者の配置要件の合理化であったり、元請・下請間の書類などのやり取りの合理化、CCUSや建退共電子申請方式の積極的活用のほか、建設現場において導入すべきICTに関する具体的事例をまとめており、とりわけ特定建設業者や公共工事の受注者に取組を進めていただきたいと考えています。さらに、現場管理の効率化・生産性の向上のためには、特定建設業者のみならず、あらゆる建設業者がその経営規模などに応じたICT化を進めるとともに、ICTを活用した施工管理を担う人材育成の取組を進めることも重要です。国土交通省としては、指針の内容も踏まえつつ、業界全体のICT化を一層推進していきたいと考えています。

谷脇:現場での生産性向上のみならず、バックオフィス業務や行政との書類のやりとりなど、効率化の必要性を強く感じます。特に下請においては元請ごとに書類形式が変わることがあるほか、元請においても自治体ごとに異なる書類形式などで苦労されている声も耳にしますね。

平田:速やかに解決できるものとそうでないものがあると思いますが、多くのスタートアップ企業も建設業に目を向けはじめるなど、AIやデジタル分野などでの新技術の活用が、新たな効率化のソリューションにもなり得ることでしょう。
また、改正品確法においては、基本理念として公共工事の品質確保にあたり、新技術の活用が価格のみを理由として妨げられることの無いよう配慮されなければならないこととされました。発注にあたっては、価格のほか、工期、安全性、生産性、脱炭素化等の要素を考慮して総合的に価値の最も高い資材、機械、工法等について、経済性に配慮しつつ採用するよう努め、採用する際に必要な費用は適切に予定価格に反映させることが発注者の責務として盛り込まれました。これは単なるコスト縮減や維持管理を含めたトータルコストの縮減だけではなく、工期短縮、労働力不足対応、安全性向上、地球温暖化対策などの社会経済が必要とする要素を価値と認めて、これに資する技術を積極的かつ適正に採用することが求められているもので、まずは国において事例の収集や要領などの作成を進めていきます。これらの発注者の責務に加え、受注者についても「新技術を活用した資材、機材、工法等を効果的に活用する能力」の向上が努力義務として新たに盛り込まれており、発注者と業界双方において取り組んで行くことが重要と考えています。

谷脇:建設業に目を向けるスタートアップ企業も非常に多くなりましたね。それだけ新しい取組ややりがいがあり、業界全体に大きな可能性があるという見方ができそうです。続いてもう1つのポイント「地域における対応力強化」について、新たな取組としてはどういったものがあるでしょうか?

平田:地域の建設企業は社会資本整備の担い手であると同時に、地域経済や雇用を支え、災害対応や老朽化対策など“地域の守り手”として重要な役割を担っており、地元に精通した建設企業が維持されることは非常に重要な点と認識しています。一方で、そうした方々に対する公共側の“発注体制の整備”も非常に大きな課題と捉えています。公共発注者としての役割を担う地方自治体に対しては、これまでも国土交通省において都道府県と連携した市区町村職員への研修の実施(都道府県公契連)や、地方自治体向けの支援事業として専門家を交えた勉強会の実施(ハンズオン支援事業)などを行い、発注関係事務のノウハウを共有してきたわけですが、今般の改正品確法においても公共工事の発注体制の強化として、発注関係事務を行う職員の育成について国及び都道府県が支援を行うよう努めることとされました。これも踏まえ、引き続き都道府県と連携しながら発注体制の整備のための支援を行うとともに、その充実を検討していきます。また、現在改正検討を行っている品確法の基本方針や運用指針、入契法の適正化指針について、全ての公共工事において担い手3法の趣旨が徹底され、公共工事における適切な発注が行われるよう積極的な働きかけに取り組んでいきます。

谷脇:公共発注者の役割は非常に大切なものでありながら、特に小さな市町村では職員の方の数なども手薄で、なかなか手が回らない現実があるように思います。そうした部分を国や県といった立場から支援していく取組は大切ですね。

平田:今でも土木・建築の技術職員がいない自治体も相当数ありますが、今後、今は技術職員を確保できている自治体においても技術職員が不足する事態も懸念されます。自治体での対応が難しい所をどうカバーするかという視点が、年々重要になっていくかと思います。

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