特集
建設DXで働き方改革をどう実現するか?
【建設DXの進め方】
ITの導入と引き換えに「やめる仕事」を徹底
建設DXで生産性向上や働き方改革を実現するためには、単に「IT機器やソフトを導入する」というだけではなく、それと引き換えに「ムダな仕事や非効率な作業をやめる」ことをセットにして業務改革を進めていくことが大事です。
例えば、タブレットを使ったクラウド型施工管理システムを導入したら、図面はすべて電子化してサーバーに置いてタブレットで見るようにする。その代わり、紙の図面を印刷して配ることは徹底的にやめるようにするのです。タブレットを導入したにもかかわらず、紙の図面を印刷して配るという業務を続けていたら、逆に手間がかかるだけです。
中には「オレはITが苦手だから、オレの分だけ紙の図面でくれ」という人もいると思いますが、一人でもこうした例外を作ってしまうと、業務の効率化は進みません。そのためにも、ITの導入はできるだけ簡単なところから進めて、全員がそのメリットを享受できるようにすることが重要です。
複数の部署、会社全体を見渡してムダの削減を
業務の非効率やムダは、複数の部署や企業の間にまたがって発生していることもよくあります。例えば、紙の書類を複数の部署で二重に入力している、同じような内容の書類なのに現場ごとに少しずつフォーマットが違っているので作り直す必要がある、といったことです。
こうした部署間の非効率をなくすためには、業務の上流工程を担当する部署が自分の部署だけでなく、下流工程で必要なデータまで入力しておいてくれると、他の部署の業務が効率化される、といった解決策も出てくるでしょう。
その解決のためには、部署の業務内容を変えることも必要になってきます。現場だけでは調整が取れない場合も出てきます。そこで建設DXで成果を上げるためには、会社の経営者など、偉い人も積極的に課題解決にかかわって、会社全体の効率アップを実現することが欠かせません。仕事の流れや業務分担を見直したり、最適なIT機器やシステムを導入したりすることは偉い人でないとできないのです。そのため、建設DXは経営問題と言っても過言ではありません。
生産性は最低2倍アップを狙おう
建設業では「カイゼン」という言葉がおなじみですが、新たに「DX」という言葉が登場しました。どちらも業務の効率を上げるという点では同じだからです。しかし、効率アップの方法や生産性向上の上げ幅について、従来の常識を超えているのがDXと言えるでしょう。
カイゼンとDXの違いについて、正式な定義はありませんが、筆者の見方をまとめたのが下の表です。
まず、生産性向上の単位は「割」から「倍」を目指すべきでしょう。これまでは「生産性3割向上を実現した」と言えば大成果でしたが、今後、加速度的に労働者人口が減っていくことを考えると、割単位の効率アップだと常にカイゼンを続けていかなければならず、大変です。そこでDXでは最低2倍を狙うべきです。できれば5倍、10倍の生産性向上を実現しておけば、あとあと楽になります。
ワークフローについては、従来のカイゼンでは「P(Plan)→D(Do)→C(Check)→A(Action)」を回すという手法が主流でしたが、DXでは「ゼロから見直し」が基本となります。例えば、モノづくりには必ず図面がいるので、これまではいかに図面をスピーディーに作るかをPDCAでカイゼンしていたわけです。しかし、機械加工で自動的に部材が作れるようになれば図面はいらなくなります。不要になったワークフローは徹底的に「やめる」というのがDX流といえるでしょう。
このほか、働き手としては人間だけでなく、AIやロボットも加える、人間の能力はIT機器を装着することで高め“超人化”する、成功要因はこれまでのKKD(経験・勘・度胸)からデータに基づいて行動する「データドリブン」へ、そして働き手の評価は、長時間労働を偉いとするのではなく、いかに短い時間で成果を出せるかという付加価値ベースへと変わっていくのではないでしょうか。
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