特集

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2024年5月号 No.558

建設DXで働き方改革をどう実現するか?

【建設DXによる時短の実践例】

昼間シフトによる残業削減
タブレットによる現場での書類作成や写真整理

これまでの施工管理は、昼間は現場に出て施工状況の工事写真を撮ったり野帳に記録したりして、夕方、現場の作業が終わってから現場事務所に戻り、残業によって日報を書いたり、工事写真を整理したりするという方法が多かったのではないでしょうか。

こうした夜の作業を昼間にシフトさせることで、確実に早く帰れるようになるのが、タブレットとクラウドサーバーを使った施工管理システムです。タブレットは画面が大きいので、パソコンのように使えて、作成した施工管理データはタブレットの通信機能を使ってクラウドサーバーに送り、リアルタイムで工事関係者とデータを共有できます。

  • タブレット型施工管理システムの現場での活用例(写真:筆者)
  • 頑丈なタブレットで工事写真を現場で整理できるシステムの例(写真:ルクレ)

具体的な使い方としては、現場で写真を撮ったその場で写真帳に整理する、品質管理用のデータを現場の計測器からタブレットに転送してそのまま施工管理帳票を作る、現場で撮った写真や計測したデータなどをどんどんサーバーに送って、テレワークの担当者が分業して整理する、などがあります。

タブレットとクラウドを使った施工管理システムは、非常に多くのシステムやサービスが提供されています。建築、土木、設備に向いたものや、複数の現場を掛け持ちする施工管理者向けのもの、写真整理に重点を置いたものなど、数多くあります。

導入にあたっては、まずは自分たちの業務に向いたシステムをピックアップして機能をカタログやソフト会社への問い合わせなどで調査し、いくつか試用してみて決める、といった方法がよいでしょう。

移動のムダ削減による時短
現場のデジタルツイン化や遠隔臨場で移動を削減

建設業のムダの中でも、ダントツに多いのが「移動のムダ」です。特に複数の現場を掛け持ちする現場監督や、発注者側の監督員は、車などでの移動の時間が多く、その間、本来の仕事はできません。

こうした移動のムダを削減するために、現場の状況を3Dモデルや360度写真などによって再現した「デジタルツイン」(デジタルの双子)や、現場を動画で実況中継しながら立会検査などを行う「遠隔臨場システム」を使うと効果的です。

例えば、周囲を360度ぐるりと撮影できる360度カメラを使って、現場の中を移動しながら動画撮影を行い、そのデータをクラウドに送って3Dモデルを作成できるシステムを使うと、現場監督はオフィスや出先にいながらクラウドにアクセスし、まるで現場の中を歩き回っているように施工状況を確認できます。確認が終われば次の現場の3Dモデルにアクセスして確認する、という具合にこれまで車などで移動していた時間を省けるので確実に時短につながります。

  • 360度カメラを持って室内を動画撮影する職人(以下、2点の画像:SoftRoid)
  • その動画データをクラウドにアップすると、360度モデルが自動作成される。現場監督は別の場所から現場の施工状況を確認できるので移動のムダがなくなる

また、現場への材料搬入や仕上げ状況などの立会検査を行うため、複数の現場を回る発注者に人気なのが遠隔臨場システムです。現場と発注者の事務所をオンライン会議システムでつなぎ、現場に行かなくても立会検査と同様な業務が行えます。現場側の人はカメラをもって現場を実況中継し、発注者はオフィスなどから映してほしい部分や寸法を測ってほしい部分を指示します。

  • 遠隔臨場システムのイメージ。発注者(左側)はオフィスにいながら、現場(右側)から送られてきた映像を見て、立会検査を行う(資料:福井コンピュータ)
超人化による業務効率化
IT装備で人間の能力をスピードアップする

IT(情報通信技術)ツールを人間が使うことで業務効率をアップし、スピーディーに仕事をこなして時短を実現する作戦です。

例えば、ARゴーグルです。この機器を頭に装着すると、現実の現場風景と設計図や3Dモデルを同じ大きさ、角度で重ねて見ることができるので、設計図と現場の違いがスピーディーにわかります。そのため、出来形管理などに使うと時短につながりそうです。

  • 現場と図面を同じ大きさ、角度で重ねて見られるARゴーグル(写真:筆者)
  • ARゴーグルを通してみた現場。CAD図面を現場と同じ大きさで重ねて見られるため、出来形管理をスピーディーに行える(資料:インフォマティクス)

また、ICタグを工具に張り付けて管理するシステムは、現場での作業終了時に、持ち出した工具がそろっているか、足りないものはないかといった確認を瞬時に行えます。

このほか、現場でちょっとした運搬に使う「ねこ車」のタイヤを電動化するキットや、電動キックボードは、人間が重量物を運んだり、現場内を移動したりするスピードをアップさせるのに役立ちます。こうしたちょっとした作業に要する時間を少しずつ、短縮することで時短につなげることができるでしょう。

  • ねこ車電動化キットの効果。通常のねこ車で斜面を登るときは力がいり遅くなる(左)が、電動化キットを取り付けたねこ車はらくに早く運搬できる(右)(写真:CuboRex)
ロボット・AIによる省人化
人間以外の労働力を活用し時短を図る

働き手となる15歳から64歳の生産年齢人口が減少する中で、新たな働き手として期待されているのが、ロボットやAIです。これからの建設業では肉体労働はロボットに、頭脳労働はAIに手伝ってもらう働き方改革が増えていくでしょう。

ロボットと言えば大手建設会社などが特別に開発するものというイメージがありましたが、最近は買って使えるロボットやレンタルできるロボットが続々と登場しています。

その一つが、鉄筋結束ロボットです。橋梁の床版や工場の床スラブなど、広大なコンクリート版の施工では、縦横に並んだ無数の鉄筋交差部を、焼きなまし鉄線で緊結していく単純作業が大変でした。その単純な部分の作業を担ってくれるのが、鉄筋結束ロボットです。

平行に並べられた鉄筋をレール代わりに使って移動しながら、鉄筋の交差部を見つけて自動的にクリップで結束していくという作業を延々と行います。その間、鉄筋工はロボットの働き具合を時々、チェックしながら難しい部分の施工を行います。

建物の床に、仕切り壁や建具、設備などの取り付け位置を原寸大で描いていく「墨出し」の作業用にも、続々とロボットが登場しています。CAD図面などをロボットにインプットしてスイッチを押せば、自動的に墨出しを行ってくれます。鉄筋結束ロボットと同じように、簡単な部分の墨出しはロボットに任せて、職人は難しい部分の墨出しを行うという分業で時短を実現したり、現場の作業が終わった夕方に墨出しロボのスイッチを入れて早く帰宅したりといった使い方ができそうです。

  • 単純な床スラブ部分で縦横の鉄筋交差部をクリップで緊結する鉄筋結束ロボット(写真:建ロボテック)
  • 現場の床に設備の取り付け位置などを描く「墨出しロボット」の例(写真:未来機械)
相互協力でWin-Win
他人のために協力し合うDX

自分だけの力で実現できるDXには限度があります。そんな時、「他人のDXのために、自分が協力する」という相互協力は、どんどん進めていくべきでしょう。

例えば、現場をデジタルツイン化してクラウドにアップする作業は、現場にいる人にとってはある意味、負担となります。しかし、現場外にいる工事関係者にとっては、現場に行かなくても現場のことがわかるので、今後のスケジュールを計画するうえで移動のムダをなくせるといった効率化につながります。遠隔臨場も発注者の効率アップのために、現場の人が動画中継の準備などで協力するという意味では、相互協力の一環と言えるでしょう。

最近の工事では、プレハブ化も進みつつあります。そんな場合には、BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)による相互協力も有効でしょう。

例えば、配管やダクトなどの部材を工場で製作するとき、建設会社が施工用に作成するBIMモデルでは、配管の中心線やバルブなどの取り付け位置などが入っていれば十分です。一方、工場側では、パイプとフランジを溶接する際の開先寸法や、フランジの間に入れるパッキンの厚さ、曲管の間をつなぐ直管の長さなど、細かい寸法が必要になります。

そこで、建設会社側での設計に使うBIMモデルに、工場製作に必要な細かい寸法を内蔵したものを使ってあげることで、工場側の作業効率がアップできます。建設会社から渡されたBIMモデルに、既に細かい寸法が入っているので、工場側ではすぐに製作に入れるからです。

  • 工場製作で使われる詳細な寸法に基づいた配管BIMモデル(資料:フカガワ)
  • 様々な形状の配管部材に対応したBIMモデル(資料:フカガワ)

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