特集
建設DXで働き方改革をどう実現するか?
【建設DXによって効果を上げるコツ】
2024年問題の解決は「早く帰る」を実現すること
ご存じのように、建設業の時間外労働時間に上限が設けられる「2024年問題」が、今年4月に現実のものになりました。先に述べたように建設DXによって「時短」と「省人化」を実現することが、2024年問題の解決につながると言っても過言ではありません。では、どのような点に着目して、実行していけばよいのかを考えてみましょう。
上図のように、今年3月までの建設業では、年間6カ月までは上限なしの時間外労働が可能でした。それが4月以降は年720時間、月100時間未満などと上限が定められ、これを超えると労働基準法違反として厳しい罰則を受けることになります。
一方、建設業の仕事内容を1日通じて観察してみると忙しい部分もある半面、生コンが届くまでの待ち時間や工程の合間などで、意外と空き時間もあったりするのではないでしょうか。そのイメージを単純化して描いたのが下の図です。
- ● 1日の仕事内容の内訳。上段は現状で時間外労働の規制をオーバーしている。
下段は時短した後、1日の仕事時間が減って上限をクリアしたイメージ
上の図の中で、仕事中の時間の使い方をよく観察すると、正味の生産時間に充てている部分(緑色)と、単なる移動や作業の手待ちなどで生産に役立っていない部分(赤色)があります。上段は緑色と赤色の部分を合計した時間が、2024年問題の上限を超えているというイメージです。
この問題を解決するためには、緑色の部分と赤色の部分をそれぞれ短縮することで、合計時間を上限よりも下げてやればよいことがわかります。平たく言えば、「毎日、できるだけ早く帰る」ことを目指せばよいのです。
「早く帰る」を実現するポイントとは?
「早く帰る」を実現するために、即効性があるのは、(1)赤色のムダな時間を大幅に削減することと、(2)緑色の正味の生産時間を減らすことです。
例えば、これまでは現場の作業が終わって現場事務所に帰ってから、日々の日報を書いたり、工事写真の整理をしたりしていました。この作業に、どこでもタブレットやスマートフォンで入力できるクラウド型施工管理システムを導入すると、現場のすき間時間を使って日報や写真整理ができるようになります。すると、事務所に帰ってからの作業がほとんどなくなり、早く帰れるようになります。筆者はITを使って作業を前倒しする時短策を「昼間シフト」と呼んでいます。
また、発注者にとって多くの移動時間が取られていた業務に、現場立会検査がありました。この業務に現場からのカメラ実況中継付きのオンライン会議として行える「遠隔臨場システム」を導入することで、現場までわざわざ出掛けずに、自席にいたまま遠隔地の現場を次々と仮想的に移動しながら、立会検査が行えます。すると発注者の方も早く帰れるようになるでしょう。移動時間などの「ムダ削減」も、建設DXで解決できるものです。
超人化やロボ・AIで生産時間も短縮
正味の生産時間を短縮する手段としては、IT機器によって人間の能力を高める「超人化」があります。例えば、図面通りに建物や構造物が出来上がっているかどうかを確かめる「出来形管理」は、3DモデルやCADデータと、実物を重ね合わせて比較できるAR(拡張現実)ゴーグルを使うと図面と実物の違いをスピーディーに発見できます。
また、鉄筋を結束したり、床に墨出しを行ったりする作業では、施工用のロボットを人間の“子分”のように使うことで、簡単な作業はロボットに任せて職人は難しい部分に専念するといった分業が可能になり、時短につながります。報告書の作成や、コンクリートのひび割れを図面化するなどの頭脳労働的な作業では、最近、話題の生成AI(人工知能)を使うことでかなりの自動化が図れそうです。
そして自分だけでは解決が難しい問題については、他人の業務効率化のために、自分がひと肌脱いで協力したり、逆に他人にお願いして自分の業務を効率化したりする「相互協力」なども、建設DXによって時短と省人化を実現するための狙いどころとなります。
これらの具体的な事例を紹介しましょう。