特集

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2023年10月号 No.552

建設系専門高校の今を知る!

生徒に選ばれる企業の特徴とは?

谷)生徒から見て、今の建設業界はどのように映っているのでしょうか?建設業界の中でも“規模の大きなハウスメーカーなどは人気だが、公共工事などを請け負う地域の中小ゼネコンは厳しい”といった声を耳にしますが。

東)こちらも保護者の考え方が関わっている部分が大きいかもしれません。建設会社と一口に言っても、具体的にどういう仕事をされているのか、その実態がなかなか保護者に見えていない。生徒たちも、自らその企業を調べたりすることが少ないように思います。

谷)建設会社自体もたくさんありますし、扱う分野も多岐にわたりますからね。

東)そうですね。よく名前が通っている企業の場合は、おしゃれな印象だったり、給与も満足できそうだったり、安心感が強いといったイメージがありますが、建設会社それぞれの違いというのはなかなか把握されていないのかもしれません。

谷)建設業界への入職の活発化に向けて、受け入れ側が工夫する点や、注力するべき点などはありますか?

岡)求人を定期的に出せる企業というのは、1つの強みだと思います。例えば求人を出された年に、必ず希望者が来るわけではないんですよね。7月に求人公開をして、生徒と保護者とが話をするのは夏休みの期間、そして採用試験が開始されるのは9月16日からとなるので、実質1ヶ月程度で求人を見て判断することになります。その間にすべての求人を見るのは不可能に近いので、生徒たちは前年、あるいは前々年の求人を見て、“この会社が良いかもしれない”と判断しているわけです。企業側としても、毎年は出せないけれど、例えば3年に1回、2年に1回であれば出せる、というところであれば、私たちとしても情報を出しやすく、お話がしやすいかと思います。

谷)定期的に求人を出されるところであれば、記憶にも残りやすいですしね。就職希望先として生徒に人気の高い企業にはどんな特徴がありますか?

岡)例えば同じ部活動の先輩だったり、同じ中学校の先輩が勤めている企業ですね。“人のつながり”という面は非常に大きいです。

東)それは当校も同様です。人のつながりが就職に結びつくケースは非常に多いです。

岡)企業にもよりますが、ずっと社内で教育していくのではなく、採用後に1度外部の機関に出して技術や知識を学ばせ、一定期間学んだ後に会社に戻ってきて働いてもらう、といった教育体制をとっているところもあります。そうした教育面の手厚さは保護者にとっても信頼感・安心感につながるポイントとなり、就職に結びつくケースが多いです。

谷)入社後の社員教育の充実度ですね。そうしたところも保護者の皆様は見ているということですか。

岡)例えば宮崎県内では土木建設技術者を養成するための県立教育機関として宮崎県産業開発青年隊というものを設け、教育訓練を行っています。最近は九州エリアの企業も教育のためにそこへ1年間通わせる取り組みをされています。そうした機関があることで、企業側も安心して教育のために送り出せるようです。

谷)教育訓練というのは非常に大事になりますね。以前のように“先輩の姿を見て覚えろ”というのではなく、もっとシステマチックに教育や訓練の場をセットするということが、育成の面でも求人の面でも大切であるということでしょうか?

東)東京でも近年、採用した若手を2年ほど専門学校に通わせ、学費は企業が持つ、といった動きが増えてきています。個人の働き方が多様化する中で、1つの会社を選択した後、一生涯その会社にいるかどうかという見極めがしづらい、ある意味で困難な時代になっています。生徒や保護者に安心してもらえるような付加価値がないと、企業のほうもなかなか選んでもらえない時代になっているという見方ができます。

谷)建設業界で長く活躍していくための基礎的な技術や資格といったものを、企業が与えられるかどうかというところですね。

東)大学や専門学校への進学を希望される生徒・保護者も、おそらくそうした将来を見越して選択されているのだろうと捉えています。私たち教員も求人票を見る際に、定着率・離職率というのを大きなポイントとして見ています。しっかりと教育・訓練を行う企業なのか、働き手のことを考えたキャリアプランを立ててくれる企業なのか。将来に向けた道筋をいっしょに作ってくれる企業というのは、生徒にも保護者にも選ばれる傾向が強いと分析しています。

谷)企業としては、入職した若手一人ひとりを見つめたきめ細かな対応が必要ということですね。定着率・離職率という話が挙がりましたが、業界全体としても大きな課題です。将来を見すえた育成という点が非常に大事ですが、それ以外にも工夫できる点はあるでしょうか?

岡)例えば卒業間近の生徒たちにも伝えているのですが、職場での悩みごとがあるなら、卒業した後でも学校に相談しに来て、と声をかけています。実際に“今こういう状況なんだけど…”と、相談をしに足を運んでくれる教え子たちもいて、彼らの多くはその後も離職せず働き続けていくことができていますね。

谷)行き詰まったとき、相談できる相手がいるというのはとても心強いことですね。現在、建設業振興基金も厚生労働省の建設労働者育成支援事業を受託し、職業訓練を実施しているのですが、そこでいっしょに学ぶ方々の中に生まれる“横のつながり”というのも非常に大きいと伺っています。不満や悩みごとがあっても、周りに相談できる方がいれば“続けてみよう、頑張ってみよう”という気持ちになれるのだなと、改めて感じます。

東)そのとおりだと思います。個の力が重視されている昨今ですが、建設現場にかかわらず、仕事に関わっているのはやはり“人”。現場での困りごと、技術的な悩み、私生活と、多岐にわたる悩みを気軽に相談できる環境というのは、まさに人々が求めるところだと感じます。

谷)そうした意味でも、母校の存在や仲間とのつながりといったものは大切ですね。かつての建設業界はある意味でクローズドな世界で、企業の中でも縦のつながりが強く、“上にならえ”という意識がほとんどだったように思います。しかしお話を伺っていると、今の若手の方たちはそうした働き方ではなく横のつながりを大切にしながら、将来転職したとしてもしっかりと通用していけるような資格や経験を身につけようとしている、そんな意識が強いように感じました。

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