特集

特集
2023年5月号 No.548

事業承継

公認会計士・税理士・行政書士
城所 弘明

はじめに

建設業の経営者向けの「経営税務セミナー」を行ってから今年でちょうど30年経ちました。その間、油圧ショベルやブルドーザの購入に関する税務等で、いろいろな経営者の方と出会うことができました。また、それ以前には、某県で建設業の事業再生にも取り組んでまいりました。

人の人生にとってお金はとても大事なものだと思いますが、これほど人間性を狂わせるものもありません。

「あんなに立派な人だったのに…」という経営者の方が、お金のために豹変する姿を目の当たりにするたびにとても悲しい思いをしたものです。

また、とても尊敬できる経営者の方が、事業承継に係る問題で、後継者である子供との確執や他の推定相続人の子供達からの突き上げなどで思い悩む場面に遭遇した時には、とてもお気の毒で何とかして差し上げられないかと心苦しい思いをしたものです。

しかしそんなことばかりではありませんでした。多数の建設業の事業承継のお手伝いを通じて、多くの立派な経営者や後継者と知り合うことができ、様々な勉強をさせて頂いたことに感謝しております。

「事業承継」は、経営者にとって人生の晩年における最後の経営課題だと思います。長年ご苦労されて築いた「事業と財産」を次の世代に円滑にバトンタッチするためには、早くからの準備と後継者への教育が必要です。

Ⅰ 事業承継に関する誤解

「事業承継」というと、経営者の多くは、「ああ、またか。俺はまだ引退する気はないから、まだ先のことさ。」と拒否反応を起こすことがあります。そして多くの場合、事業承継に対する誤解が原因となっております。事業承継に対する次のような認識を持つことが必要だと思います。

1.事業承継は簡単に「社長」を交代することではありません!

事業を人(ヒト)に例えるならば、事業の心臓部分にあたるのは社長であるあなたです。社長を交代するということは「企業の心臓移植手術」なのです。

そのため、すぐに簡単に行えるものではありません。手術前に「血圧、血糖値など」の検査が必要なように、後継者以外の親族や会社幹部の理解、取引先や取引金融機関の了解など、様々な確認や検討を行う必要があります。

事業承継ではこのようなすべての準備が万全に行われたとあなたが判断したときに、はじめて社長職を後継者に託すものなのです。そのため、社長であるあなたの総合的な経営力を後継者が受け継ぐ能力をもった時に、社長としての「免許皆伝」を与えてください。

2.事業承継は、「事業」をすぐに譲ることではありません!

事業承継をまだ先のことだ、俺はまだやることがあると、先送りしていませんか?
事業承継は事業をすぐに譲ることではありません。事業承継は事業を譲る「準備」を行うことなのです。

もしも、あなたが急に病気で倒れたときに、あなたの事業は大丈夫でしょうか?
1週間事業は持ちこたえられますか?1か月間も入院して大丈夫ですか?3か月間はどうですか?

まずその準備を行うことが、事業承継対策のはじめの一歩なのです。社長交代はすべての準備が完了し、あなたが安心して後継者に事業を譲ることができると判断したときに行うべきものなのです。

3.事業承継は「財産」を譲ることだけではありません。

事業承継は「相続」よりも広い概念です。

事業承継の対象となる構成要素は、人(経営)の承継、財産の承継、知的資産の承継の3つがあると言われています。

目に見えづらい経営者の人脈や信用などの人(経営)の承継や従業員の技術力などの知的資産の承継も必要なのです。つまり、企業における事業承継では、自社株式や事業用資産などの財産だけでなく、「経営者の経営力、人脈、信用、知的財産」など目に見えにくい経営資源も重要です。

かの有名な武田信玄が亡くなる前に、喪を3年間隠すように指示したと言われていますが、偉大な経営者の「経営力」を後継者が引き継ぐことは非常に長い期間と大変な努力が必要なのです。

1 2 3 4 5

関連記事

しんこう-Webとは
バックナンバー
アンケート募集中
メールマガジン配信希望はこちら