特集

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2022年12月・2023年1月 No.544

持続可能な建設業にむけて

長橋:「持続可能な建設業に向けた環境整備検討会」は、先程挙がった担い手の確保や生産性向上といった従前からの建設業における課題や、昨今の建設資材の急激な価格変動といったことを踏まえ、将来にわたり建設業を持続可能なものとするための環境整備に必要な施策の方向性について検討を行うため設置したものです。建設業には様々な問題がありますが、まず考えねばならないのは、現場で働く方の賃金をいかに安定的に支払えるかということ。資材価格の転嫁などのしわ寄せを防ぎ、労務費がしっかりと現場の方々へ行き渡るような仕組みづくりを行うことが第一です。また、従来から問題視されている行き過ぎた重層下請構造もそうした課題と無関係ではないため、その適正化も含めた議論を行っています。今回の検討会では土木や建築といった建設生産システムに精通した方だけでなく、労働政策の専門家なども交え、雇用や需給調整といった様々な角度から検討を図っています。

谷脇:行き過ぎた重層下請構造は、以前から建設業が抱える課題の一つですね。建設業は受注産業なので仕事の波もあり、経営のためにはある程度スリム化を図ってアウトソーシングせざるを得ませんが、その流れの中で徐々に重層化が進んでいく…。問題は、そのしわ寄せが技能労働者の方に及んでしまう点ですね。

長橋:仰るとおりです。そうした働き手の雇用安定・維持を図る制度として「建設業務労働者就業機会確保事業」がありますが、送出事業主の許可基準など、まだまだハードルが高い面があると捉えています。たとえばアメリカの場合は公共事業受注者に対して一定の支払い賃金の義務付けがあったり、フランスの場合は労働協約に基づいた最低賃金を課すなどの法律による規制があります。日本においてもそうした法令による規制が必要なのか、日本に合った賃金を下支えする仕組みはどういったものなのかを考慮しながら、制度・運用の改善に向けて厚生労働省と継続的に相談していきたいと思います。

谷脇:建設資材価格の変動に関しては、公共工事の単品スライドの取り扱いといったことが課題として挙げられています。特に注目されるのは民間工事での受発注者間の契約の在りようだと思いますが、この点はいかがでしょうか。

長橋:民間工事についても基本的には建設工事標準請負契約約款がありますが、公共工事のように単品スライドを行うのは今の民間工事の契約の在り方では難しいと考えます。スライドするというよりは、契約時点でコストのリスクも考慮した上で合意を取っていく、積み上がるコストに対してフィーをあわせ、最後に契約を精算するような形も一つの手法です。工期が長期化する場合には、そうしたやり方も考える必要があります。特に近年は大規模な案件が増えており、施工が長期間に及ぶケースもあります。そうした場合には、新たな契約の在り方を考えることも必要だと感じています。

谷脇:発注者と受注者、元請と下請との間にそうしたリスク分担ができる構造に変わっていけば、賃金の下支えにもつながっていきますね。

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