特集

特集
2022年10月 No.542

新しい時代の担い手を育む 工業高校の今とこれからのあり方とは

新たな担い手を
育んでいくために

東)実習に取り組む生徒たちの顔はいいものですよね。私も生徒と一緒になって取り組むうちに、工業高校の素晴らしさを感じましたし、いろいろな気づきを与えるきっかけになっているのだろうと思います。岡山工業高校も様々な施策に取り組んでおられると伺いました。

山)はい、本校ではSTEAM教育というものに取り組んでいます。もともと理系に向けた教育システムとして、科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、数学(Mathematics)の4つの学問に力を注ぐSTEM教育というものがあり、それにアート(Art)を組合わせて生まれた概念です。総合的な探究の時間の中にSTEAM教育を取り入れ、PBL(課題解決学習)を中心に推進することで、社会の第一線で活躍できる専門的職業人の育成を図っています。これらを科間連携・教科横断連携で進める一連の取り組みを「OCP(Okako Creative Project)」と名付け、バージョンアップを図りながら7つの専門科の枠を超えた連携をさらに進めているところです。

東)なるほど。社会基盤を作るには解決せねばならない難問はいくつもありますね。そうした課題解決を授業の中で実践されているのでしょうか?

山)はい。岡山工業高校に赴任して2年目ですが、今年から本校の授業の柱であるOCPを担当しています。1年生のロングホームルーム時にOCP入門を行った後、2年生の総合的な探究の時間の中でOCP演習に取り組み、小グループで課題解決を図っていくやり方や、チームビルディングとは何なのかを経験します。土木の仕事はチームで取り組むことですから、どうすればチームで円滑に進めていけるかをOCPで繰り返し行うことで理解を深めています。集大成として3年生の課題研究をOCP実践とし、社会貢献活動を中心とした取り組みにチャレンジしています。

東)とても魅力的な取り組みですね。そもそも建設業は、地域や地区の要請を受けて生活の基盤を作っていこうとするもの。そう考えると課題解決というのは、まさに土木・建築の原点であり、非常に理にかなった授業の構築のあり方だと思います。

戸)本校でもぜひ取り入れていきたいです。

山)以前は課題研究の時間も科でバラバラだったのですが、OCPにあわせてそれらを金曜の午後に集約することで、他学科との繋がりも育まれ、科を横断した取り組みなども生まれてきました。例えば地域の困りごとを工業の技術で解決しようという課題研究の中で、公園にベンチを作ることになり、生徒たち自らが行政や企業に働きかけて材料を集め取り組んだのですが、その過程でも機械科の生徒にアドバイスを受けながらベンチを補強するツールなどを作ってもらいました。そうした光景を目にするのは本当に気持ちがよかったですね。

東)生徒が一緒になって取り組み、物事を達成する様子を見るのは教員冥利につきますね!生徒にとっても、自分たちがやったことが形になり、地域の方にも喜んでもらえるというのは、たまらない経験でしょう。単学科だけでなく、他学科と協力したり、他学科の知識や技能・技術を取り入れて一緒に問題解決を図るというのも、工業高校の魅力と感じます。下館工業高校では、そうした他学科との取り組みなどはいかがですか?

戸)本校は学科ごとにクラス編成され、3年間同じ生徒たちと生活をするので、他学科との繋がりが薄い面があります。ただ生徒たちも、別の学科の取り組みに興味津々で、他学科の生徒たちも建設工学科の実習風景を見て「自分たちもコンクリートを作ってみたい」と声をかけてくることもあります。課題研究こそ、他学科の子たちとコミュニケーションをとれる時間にできたらと思います。

東)一方で、学校外の繋がりや地域の方と連携した取り組みなどはありますか?

戸)土木と少し離れてしまいますが、インターアクトクラブという清掃ボランティアのクラブで地域の方と一緒に清掃活動を行っています。また生涯学習フェスティバルというのが年に1度あるので、そこで生徒による実演や、小さなお子様と一緒に取り組む体験などを行っています。年齢の離れた人とはしゃべる機会のない生徒も多いのですが、社会に出たとき、土木の世界では必ずコミュニケーションが大切になります。クラブなりフェスティバルなり、自分から進んでやることで得るものがあるよ、ということは常日頃から伝えています。

東)そうですね。いま地域に求められている人材は、分野や領域を越えて取り組める人、周りの取り組みもよく理解した上で、自分たちのものづくりができる人なのかなと感じています。実際、様々な課題に直面した際、一つの視点や手段だけでは解決できない世の中になってきています。先生方が取り組んでおられる内容は、生徒がそうした場面に出会ったとき、必ず活きてくるもののように思います。教員の役割も今までは専門的な知識や技術を伝達することが中心だった内容が、一緒になって考えたり、ファシリテートやコーディネートの役割になっていくのかな、と。生徒自らが意見を出しあい、課題に積極的に取り組むことが求められている時代なのかなと思っています。

山)私も教員歴が15年目になりますが、最初は一方通行の授業ばかりでした。戸頃先生も仰ったとおり、土木はコミュニケーションありき。本校で取り組むPBLも、元をたどれば建設業の分野から広がったものと聞いていますから、建設業に関連する私たちや生徒にとっては非常に有効な授業手段だと考えます。ただ、専門的な知識も大切で、それをないがしろにすることはできません。それをどこで活かすかとなった際に、STEAM教育やPBLの取り組みがより広い範囲で役立っていくのではと感じています。本校で取り組むOCPは最終段階として「発展」があり、先だって「岡工 STEAM ラボ」という、学年や学科の枠を超えた同好会連携組織も生まれています。これは生徒の主体的な活動の場となりますが、この話を1年生の生徒に伝えたところすごく興味を持ってくれて、自ら全校生徒に向けて「プレゼンテーションをさせてください」と申し出てきました。そうした積極的な姿勢を目にすると、これまでの取り組みの成果を感じるとともに、今後生徒たちの能力も格段に上がっていくのではないかと期待してしまいます。

戸)すごい!絶対に楽しいものになりますね。

東)本当にすごいことですね。お二方の楽しそうな表情を見ていると、私たち教員がまず楽しく教えることができなければ、生徒や中学生に、工業高校の魅力を伝えることはできないということですね。知識として必要なものはしっかり教えていきつつ、それをどう活かすかを、授業の中で上手に誘導していくことが大切だと感じました。

専門科の枠を超えて取り組む岡工版STEAM教育
PBL(課題解決学習)を中心に推進する、岡山工業高校が取り組むSTEAM教育。
柔軟な発想による課題解決能力を身に付け、これからの時代に対応できる資質・能力を育成し、
地域社会の中核を担う人材の輩出を図っている。

岡山県立岡山工業高等学校ホームページ
「OKAKO CREATIVE PROJECT」より概念図(一部抜粋)

1 2 3 4 5

関連記事

しんこう-Webとは
バックナンバー
アンケート募集中
メールマガジン配信希望はこちら