建設業バックオフィスDX・AI最前線
第5回 社長の決裁待ちで止まる会社と、社長がいなくても回る会社

前回までは、DXの全体的な進め方について述べた。今回からは、具体的な3つの事例を通じて深掘りしていこうと思う。最初に取り上げるのは、多くの企業で起きている「ハンコ待ち」問題である。
社長は忙しい。現場対応、見積確認、協力会社や金融機関との打ち合わせ、採用、クレーム対応。さらに発注承認や支払確認まで社長に集中している会社も少なくない。この機会に考えていただきたいのだが、その多忙な業務の内容を振り返ったことはあるだろうか。
「社長のみなさま。先週、本当に自分でしかできない仕事に何時間使えましたか?」
先日のセミナーでこの問いを投げかけたところ、即答された方はいなかった。
「社長がいないと会社が回らない」とは社員に頼られている証拠のようだが、実は大きな経営リスクを抱えているかもしれない。社長には本来、受注・撤退の判断、将来ビジョンの策定など、大事な経営判断を行う役割がある。今回は、ルールの見直しによって社長の時間を取り戻した事例を紹介する。「社長のみなさま。先週、本当に自分でしかできない仕事に何時間使えましたか?」
Case 承認のためだけに会社へ戻る現場監督
A社での発注は、すべて社長承認だった。現場監督は急ぎの資材発注が必要になると、直ちに事務所へ戻って申請書を作り、決裁BOXに入れる。社長が外出中なら承認は止まり、現場担当からは電話で急かされ、経理からは「承認がないと処理できない」と八方塞がり。誰も怠けていないのに、業務が滞る。このルールが悪いわけではなく、承認行為が紙で行われていたことが問題だった。
受領請求書の処理も同じで、経理から現場監督へ確認後、社長へ決裁を回す。紙の申請書がどこにあるのか誰もわからないこともしばしば。月末が近づけば「承認待ち」「差戻し」で溢れ、社長も山積みの書類を前にため息をつく。社長の時間が、判断ではなく処理に奪われていたのである。
会社が回らない原因は、人ではなくルールにある
A社はまず最初に、現状の業務フローに沿った承認の電子化をすることではなく、「何を社長が承認すべきか」を検討した。少額の消耗品や定例定額の発注まで社長確認が必要だろうか。「一定金額を超える、契約条件が変わる、利益に影響するもの」だけを社長承認にできないか。このような判断基準を作るところに時間をかけた。
次に、金額や内容に応じた承認ルートを設計した。現場担当、所長、部長、社長という流れを申請内容ごとに明確にし、不在時の代理決裁ルールも決めた。
社長の時間が戻ると、会社の空気が変わる
承認がリモートでできるようになると、現場監督は事務所へ戻るムダがなくなり、経理も回覧状況を探すムダが減った。これにより業務は流れ出し、社長が見るべきものだけが届く状態へと変わった。
そして、本当の効果はその先にあった。社長の時間が少しずつ増え、次の受注戦略、採用、協力会社との関係づくり、若手育成に時間を使えるようになった。社員側にも、何でも社長に確認するのではなく、自分たちが判断する意識が生まれた。以前は、社長が忙しいことが会社の安心材料だった。今は、社長が考える時間を持てていることが会社の安心材料になった。
DXとは、システムが社長の代わりに判断することではない。社長が見るべきものと現場で判断できるものを分け、会社のルールを明確にすることに意味がある。承認の電子化は入口に過ぎない。誰が、何を、どこまで判断するかを決めてこそ、DXは経営の時間を生み出す取り組みになる。

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