連載

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2022年10月 No.542

高所作業に応用された子どもの玩具は?

A アンサー    2. コマ

東京スカイツリーの高さは634m。「自立式電波塔として高さ世界一」を目指して決定された。広く一般に覚えやすい数字にしたいということで、「634=むさし」になったという。昭和33年に高さ333mを実現した「東京タワー」の跡を継ぐのにふさわしい語呂合わせだ。

単に高いというだけでなく、下部の平面が三角形、上部の平面が円という繊細な形状。しかも第1展望台が高さ350m、第2展望台が高さ450mの位置に、片持ちの状態でせり出す。

タワーの設計は日建設計、施工は大林組が担当した。施設(街区全体)は2008年7月14日に着工し、2012年2月29日に竣工した。

海外では800mを超える超高層ビルもあるとはいえ、日本では未知の高さ。地震もあるし、風も強い。その実現のために様々な施工技術が開発され、採用された。ここでは、その1つ、「吊荷制御装置」について紹介したい。

回転する円盤は軸の方向を維持

冒頭のクイズの答えを言うと、「コマ」である。正確に言うと地球ゴマだ。話を分かりやすくするために無理に例えているのではなく、地球ゴマとほぼ同じ仕組みを使っているのだ。

昭和30年~40年代、男の子の間で爆発的にヒットした玩具といえば、「野球盤」と「地球ゴマ」だ。「懐かしい!」と思う人がいる一方で「地球ゴマって何?」という人もいるかもしれない。簡単に説明しよう。

地球ゴマは「ジャイロ効果」を応用した科学玩具。ジャイロ効果とは、「物体が自転運動をすると、外から力を加えられない限りその自転軸の方向を変えず、また回転速度が速いほどその特性は強まる」という原理だ。

通常のコマは、全体が回転しているが、地球ゴマは回転する円盤と軸が分かれている。そのため、回転を止めずに本体に触ることができ、軸を傾けたり、綱渡りをさせたりできる。この商品はタイガー商会が大正時代から製造していたもので、戦後に世界に広がった。なぜ「地球ゴマ」かというと、地球が23.4度傾いたまま自転しながら公転することを、このコマの仕組みで説明できるからだという。

地球ゴマを応用した「スカイジャスター」

大林組は、東京スカイツリーの施工にあたり、地球ゴマを応用した「スカイジャスター」を初採用した。

タワークレーンで揚重を行う際に、風の影響やクレーンの慣性力により、吊荷が空中で回転してしまうことがある。東京スカイツリーの場合、高所で風が強い上に、筒状に風が巻いて向きが変化しやすい。一発で所定の位置に移動させるのは至難の技だ。

大林組は、従来型よりも高機能の吊荷方向制御装置の開発に取り組んだ。生まれたのがスカイジャスターだ。これは実にシンプルな仕組みで、四角い箱の中に、角度を変えられる巨大な回転円盤(フライホイール)が入っており、それを吊荷の上もしくは下にぶら下げて吊荷を安定させる。

役割は大きく3つある。
①回転している吊荷の動きを止める。
②吊荷の姿勢を保つ。

これは前述した地球ゴマの原理で想像がつくだろう。「なるほど」と思うのは、3つ目だ。
③能動的に吊荷を回転させる。

スカイジャスターは遠隔操作によって、箱の中にある円盤の角度を変えることができる。角度を変えると、ジャイロ効果によって円盤を元の位置に戻そうとする力が働くので、結果的に箱の角度が変わる。つまり、タワークレーン自体を動かさなくても、吊荷の角度が変えられるのだ。

東京スカイツリーの建設現場では、風への対応に加え、この「向きを変えてすっぽり納める」機能が活躍した。ジャイロ効果を用いた吊荷制御装置は現在も高所作業に使われている。

 

参考文献・資料:
企業ルポ 翔 魅力ある愛知の中小企業 株式会社タイガー商会、大林組WEBサイト「東京スカイツリー®を築いた技術6.吊荷の向きは自由自在」、日本建設業連合会 建築省人化事例集

 

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