FOCUS

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2023年10月号 No.552

ものづくりの楽しさを通じて、学びや意欲を深めたい。“誠実”を胸に、地域に貢献する土木技術者を育むベテラン先生。

生徒自身の手で構造を体感させる課題研究

 畠山先生が特に力を入れているのが、生徒にとって3年間の集大成となる課題研究だ。

「課題研究のテーマは“橋梁の上部工・下部工構造の配筋模型製作”です。橋梁で多く用いられている鉄筋コンクリート(RC構造)は、コンクリート打設後には内部の配筋構造を見ることができなくなります。しかし、将来的に道東地域をはじめとした各地域を支える土木技術者として活躍していく生徒たちには、学生のうちに社会基盤の構造を知識だけでなく体験的に理解してもらいたい。そうした想いから、RC構造の配筋模型を1/10スケール(高さ350mm)で製作する取り組みを通して、生徒たちが立体的なイメージを捉えることができるよう図っています。また製作する配筋模型も、北海道横断自動車道などの地元で用いられている橋梁の構造を取り入れるようにしています。特に釧路は湿原地として知られているように軟弱な地盤も多く、地盤改良を行ったうえで構造物を設ける必要があり、その場所ごとに求められる構造も様々。そうした構造をモデルとすることで、地域に貢献していける力を育んでいます」。

 人口減少が進む地域では、暮らしの守り手となる土木技術者の育成が今まで以上に求められている。畠山先生はそうした建設業の必要性を、工業教育の原点であるものづくりを通じて生徒たちに伝えたいという。

「生徒たちには、ただ授業を受けたり、黒板に書かれたことをノートに写していくといったことだけでなく、実際に形に残るものを生み出していく中で楽しさ・やりがいを覚え、ものづくりをもっと好きになっていってもらえたらと思います。自身の手で形あるものを生み出すことは、生徒にとっても私にとっても楽しく、学びのある体験です」。

 

様々な場面で“誠実”に取り組み地域に貢献したい

 土木に興味を持ったきっかけは、幼い頃の災害体験だったという畠山先生。

「地元である十勝に大雨が降り、地域に架けられていた橋が崩落したことがありました。雨が治まった後に両親や兄弟とともに見に行ったところ、その自然の脅威に圧倒されると同時に、地域住民の生活がままならなくなる現実を目にしました。高校進学の際、自分でもなんとか地域に貢献したいと思ったことが、土木科へ進学した大きな要因です。大学では橋梁を専門に学び、卒業後も橋梁関係の企業への就職を考えていたのですが、もっと多くの人々に、地域貢献できる土木の仕事を知ってもらうことも大切であると考え、工業高校の教員という道に進みました。今では日々生徒に囲まれ、地域に貢献する若手の育成に携わらせてもらえることに感謝しています」。

 アナログからデジタルへ、授業のスタイルは変化しても、教員として大切にしている根幹は変わらない。生徒に送りたい言葉は、自身のモットーであり、同校の校訓にもなっている“誠実”という言葉。

「なによりもまず“誠実”であること。仕事に、生徒に、教育に、地域にと、様々な場面で誠実に取り組み、ものづくりの楽しさを活かしながら、地域のために貢献していきたいです」。

 


中学生に向けた体験入学では、ジェットセメント(超速硬セメント)を使ったプランター製作体験などを実施。「中学生たちに少しでも土木に興味を持ってもらうため、製作や測量、製図といった体験を通してものづくりの楽しさを伝えています。特にセメントを使った作品は形としても残るし、持って帰って楽しんでもらえる点でも人気です」

 


教員となって32年目。受け持った多くの教え子たちが各方面で活躍している。「今ではインターンシップや出前授業、進路活動などで私が教え子たちにお世話になっています(笑)教え子たちも親となり、その子どもたちも本校へ入学して指導させてもらうことがあります。長く教員を続けてきたからこそ感じられる幸せですね」

 

幣舞橋(ぬさまいばし)

畠山先生が「釧路の街を代表する象徴的な橋」と語る幣舞橋は、釧路川に架かる全長124m・幅33.8mのヨーロッパスタイルの橋。札幌の豊平橋・旭川の旭橋と並んで北海道三大名橋のひとつに数えられ、現在の橋は1976年に完成した5代目にあたります。夜間には橋全体がライトアップされ、朝昼とは異なる幻想的な景色を見せます。

 

 

北海道釧路工業高等学校

〒085-0821 北海道釧路市鶴ヶ岱3丁目5番1号
WEB:http://www.kushiro-th.hokkaido-c.ed.jp/

 

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