特集

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2017年6月号 No.489

建設業×ダイバーシティで働き方も変わる

深刻な人手不足が続く産業界では、ダイバーシティ=多様な人材の活用等の推進が急務となっている。政府においても、「1億総活躍社会」や「働き方改革」を掲げており、各産業界においても、性別や高齢者、若者、障がいのある人など一人一人の状況やニーズに対応した柔軟な働き方を選択できる社会の実現に向けて動き出している。建設産業界においてはどう対応すべきなのか。
今特集では、職場で働く人の多様化により会社や現場の働き方がどのように変わるか…、実践している企業の事例も紹介しつつ、これらの働き方に関する考え方が、建設業界にとってどんな効果をもたらすのかを探る。

寄稿 ダイバーシティ経営に求められること


法政大学 キャリアデザイン学部 教授 武石 恵美子

Profile
専門は人的資源管理論、女性労働論。労働省(現 厚生労働省)、ニッセイ基礎研究所、東京大学社会科学研究所助教授等を経て、2006年4月より現職。博士(社会科学)。厚生労働省「中央最低賃金審議会」「労働政策審議会 障害者雇用分科会」「労働政策審議会 雇用均等分科会」など各委員を務める。近著に『ワーク・ライフ・バランス支援の課題』(編著、東京大学出版会、2014年)。

日本企業の多くが、多様な人材の能力を企業の成長やイノベーションにつなげる「ダイバーシティ経営」に取り組み始めている。こうした動きは、大企業だけのものではない。多くの中小企業では、特に「ダイバーシティ」と意識することなく、多様な人材に活躍の機会を提供している。中小企業には、高齢者や子育て後に再就職をする主婦、外国人など、特定の属性にこだわらずに経営にとって必要な人材を雇用してきた結果、実質的に「ダイバーシティ経営」を実践しているケースも多い。その意味では、ダイバーシティ推進は規模や業種を問わず、多くの企業に共通するテーマとなっている。特に日本の企業では、ダイバーシティの多様な側面の中でも、これまで対応が遅れてきた「女性活躍」に取り組む企業が多い。
建設業も例外ではない。建設現場は男性職場のイメージが強いが、女性にも門戸を広げ、女性が働く場として環境整備を進め、結果として男性にとっても働きやすい安全な職場環境に転換し、男女を含めて従業員の採用や定着につながっている職場が少なくない。
女性が活躍するためには、「働きやすさ」と「働きがい」の両方を同時に進めることが不可欠である。施設整備などのハード面での職場環境整備、労働時間や休暇制度などの人事諸制度対応は、女性活躍の必要条件であるが、それだけでは十分とはいえない。重要なことは、制度に過度に依存しない「働きやすさ」があり、かつ、将来のキャリアを見据えて今の仕事に「働きがい」を見出せることである。そのために重要なのが、適切な職場マネジメントである。職場マネジメント改革は組織全体を巻き込んで進めなくてはならず、それぞれの組織で課題を洗い出しながら丁寧に取り組むことが必要となるという点で難しい面も多い。
制度に過度に依存しない「働きやすさ」は、例えば育児や介護などの責任を担う従業員が、長期休暇取得や短時間勤務の長期利用などの特別な働き方をしなくても仕事の責任が果たせるよう、職場の中で業務配分や業務遂行面の工夫をすることである。労働時間の適正な管理、そのための仕事面での工夫が求められる。特に、育児や介護などの事情は個別性が強く、育児をしているから残業ができない、といった一律的な対応をしているとモチベーション低下を招きかねない。過度な配慮を排除し、個別事情を理解して丁寧に対応することが必要である。
将来を見据えた「働きがい」は、仕事を通じた成長や組織貢献が実感できることである。そのためには、職場の上司が女性部下を長期的な視点で育成する姿勢をもち、経験を拡大できるような仕事を与えることが重要である。女性は難しい仕事をやりたがらない、意欲が低い、とステレオタイプに女性をとらえてしまう傾向があるが、女性の仕事への意欲は、組織からの期待と比例する。長い間男性と異なる取扱いを受けていたとすれば、仕事への意欲は低下して当然である。女性の活躍への期待を明確にして、挑戦を後押しするマネジメントが求められる。
女性の活躍推進を含むダイバーシティ推進においては、従業員を同質なものととらえず、個々人のニーズや事情に向き合い、必要な支援を可能な範囲で提供し、同時に、仕事を通じた組織貢献を期待して仕事を任せること、が重要である。多様なニーズや事情、バックグラウンドをもつ人材は男性にも増えており、これからの人材活用策の基本形といえるだろう。

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