特集

特集
2018年6月号 No.499

働き方改革〜時短の実現に向けて〜

働き方改革 事例2
テレワーク導入で長時間労働を解消
社員の負担を軽減し生産性を大幅アップ

向洋電機土木株式会社(神奈川県横浜市)

長時間労働当たり前の社風を変える

向洋電機土木株式会社では、スマホやタブレットなどのモバイル端末とインターネットを活用し平成19年より「テレワーク」を推進。そこから生まれた時間を有効利用し資格取得に励む社員が増えるなど、独自の働き方改革の成果が各方面から注目を浴びている。
テレワーク導入前は、長時間労働が当たり前だったと、CHO(最高人事責任者)広報部 部長 横澤昌典さんは振り返る。工事作業現場と本社との長時間の移動や、日報を書くためだけに、わざわざ帰社するようなことも珍しくない状況。横澤さんが業務の実態を調査したところ、予想を超える移動時間やコストが費やされていることがわかったという。
「用がない時でも、仕事が終わると何となく会社に戻り雑談してから帰るなど、直行直帰の考え方も根づいていませんでした。そこで、改善にはまず従業員の意識から変えていく必要があると考え、『無駄な時間をなくしてはどうか』と提案したのです」。

CHO広報部 部長 横澤さん

当初、抵抗は大きかったが1人ずつ聞き取りを続けていくと、実は上司や先輩に気を使って自分だけ帰りにくいという声も聞かれたという。そこで、やみくもに考えを押し付けるのではなく、『あなた自身にこんないいことがある』という例を具体的に話し、自分から取り組む気持ちを持てるよう、さらに根気よく説得していった。
例えば、年輩者には「将来の親の介護に備えて、今から働き方を変えてみては?」、若手には「いつか結婚すれば、家族と一緒に夕食をとることや、子どもを休日に遊びに連れて行く時間も必要になる」と、年齢にあわせた具体的なライフプランを例に挙げ、従業員全員の問題だという意識を高めていったと語る。

「どこでも仕事できる環境」で社員の負担を軽減

こうした取り組みは、横澤さん自身が仕事と介護、子育てを両立させるために始めたものだった。さらに自身の闘病で、一時期入院生活を送っていた間も仕事ができるよう、いわば実験台となってテレワーク環境の構築を進めていった。
現在、同社では、ノートパソコンやタブレット、スマートフォンを全員に支給。現場と社内をインターネットで結んでの打ち合わせや、本社のサーバー内にある工事進捗管理、資材管理、仕様書作成などの各業務システムの利用が可能だ。様々な資料などもサーバー上に置かれ、分厚いバインダーなどを客先まで持ち歩く必要もなくなった。
「日報や細かい仕事のために会社に戻ることもなくなり、直行直帰が当たり前になった結果、残業時間は9割削減、売り上げは2倍になるなど生産性が向上しました」。
また長時間の移動がなくなり、従業員の肉体的・精神的なストレスが大幅に軽減。育児や介護退職を防ぐことができ、優れた人材の継続雇用を確保する備えも整ってきた。従業員は平成20年度に20名から37名に増え、1人だった女性社員も10名になった。

作業員のヘルメットにはウェアラブル端末などがつけられており
作業現場のリアルタイムな状況を本社会議室でも確認できる

こうしたテレワークに必要な IT システムの導入・運用コストは中小企業にとって高いハードルだ。そこで同社では、無料で利用できるソフトウェアやクラウドサービスなどを組み合わせ、大幅にコストを抑えることに成功している。
残業が減りワークライフバランスが改善したことで、資格取得に励む社員も増えた。会社側も社内勉強会を開催してバックアップした結果、通常2割程度の試験合格率が最大8割にまで上昇。有資格者が増えて公共工事への入札がしやすくなり、売り上げも倍以上に伸びたという。資格を通じて成功体験を積み重ねることが、さらなる本人のモチベーションにつながった結果だ。
こうした取り組みが評価され、厚生労働大臣表彰「輝くテレワーク賞」や横浜市「よこはまグッドバランス賞」などを受賞。「これらの取り組みは社長の理解も高かったから進められたこと。これでダイバーシティも含めたインクルージョンまでいける準備が整った」と横澤さんは語る。「テレワークは経営改革」を標榜する同社。テレワーク導入が会社の成長へ着実につながっている。

1 2 3 4

関連記事

しんこう-Webとは
バックナンバー
アンケート募集中
メールマガジン配信希望はこちら