建設業の労務管理

建設業の労務管理
2020年10月号 No.522

労働契約について

Photo・Text :
社会保険労務士法人アスミル
特定社会保険労務士 櫻井 好美

民間企業に7年勤務後、2002年櫻井社会保険労務士事務所(社会保険労務士法人 アスミル)を設立。
【主なコンサルティング・セミナー内容】
就業規則・労働環境整備、人事評価制度コンサルティング、賃金制度コンサルティング、退職金コンサルティング、働き方改革セミナー、管理職向け労務管理セミナー、建設業むけ社会保険セミナー、介護セミナー、WLBセミナー、女性の働き方セミナー、学生むけ働く前に知っておいてほしいこと 等

建設業の現状

働き方改革関連法が施行され、今まで労働時間に関心の低かった建設業界においても、労働法に目をむけなくてはいけない時期が迫ってきました。今後は、建設業界においても労働法が周知され、その結果、労働環境の法的整備がされていない会社では労使トラブルに巻き込まれる可能性がでてきます。無用なトラブルを防ぐために、まずは、基本的な労働契約書を作成するところからはじめてみましょう。

労働条件の通知

労働者を雇い入れる場合には、労働条件を明示しなくてはならないということになっています。(労働基準法第15条)明示の方法は、原則は書面での交付ですが、労働者が希望した場合はFAX、電子メール等でも可能です。ただし、出力して書面を作成できるということが条件になります。そして、労働条件の通知にあたっては、法律上、明示しなくてはならない内容が決まっています。

労働条件の明示

書面の交付による明示事項
  1. 労働契約の期間(有期雇用特別措置法による特例の対象者の場合、無期転換申込権が発生しない期間)
  2. 期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準(更新の基準)★参考
  3. 就業の場所・従事する業務の内容
  4. 始業・終業時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、交替制勤務をさせる場合は就業時転換に関する事項
  5. 賃金の決定・計算・支払いの方法、賃金の締切り・支払いの時期に関する事項
  6. 退職に関する事項(解雇の事由を含む)
口頭の明示でもよい事項
  1. 昇給に関する事項
  2. 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算・支払いの方法、支払いの時期に関する事項 
  3. 臨時に支払われる賃金・賞与などに関する事項
  4. 労働者に負担させる食費・作業用品その他に関する事項
  5. 安全衛生に関する事項
  6. 職業訓練に関する事項
  7. 災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項
  8. 表彰、制裁に関する事項
  9. 休職に関する事項

 

★参考
有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準

  1. 期間の定めのある労働契約については、労働基準法第14条第1項に定める「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」に基づき、労働基準監督署長等は、使用者に対し、必要な助言・指導を行います。
  2. 「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」では、期間の定めのある労働契約を締結、更新の際、あるいは雇止めをする場合の留意点を示しています。
雇止めの予告 雇止めの理由の明示 契約期間についての配慮

使用者は、有期労働契約を更新しない場合には、少なくとも契約の期間が満了する日の30日前までに雇止めの予告をしなければなりません。

※雇止めの予告が必要なのは、契約を3回以上更新している場合、または1年を超えて継続雇用している場合です。

使用者は、左記の雇止めの予告後に、労働者が雇止めの理由について証明書を請求した場合は、遅滞なく交付しなければなりません。 使用者は、契約を1回以上更新し、かつ1年以上継続して雇用している有期契約労働者との契約を更新しようとする場合は、契約の実態及びその労働者の希望に応じて契約期間をできる限り長くするよう努めなければなりません。

 

労働条件と雇用契約書

労働条件通知書も雇用契約書も、記載内容はほとんど同じです。違いは、雇用契約書には署名・押印があるということです。法律的には、労働条件を明示すればいいため労働条件通知書だけでも構いませんが、「言った、言わない」といったトラブルを避けるためには、双方の合意のある雇用契約書で労働条件を提示することをお勧めします。

有期契約と無期契約

労働条件明示の最初には「期間の定めに関すること」を記載しなくてはなりません。契約ですから、始まりがあれば終わりがあります。無期契約であれば、自分で辞める(自己都合退職)、会社が辞めてもらうことを通告する(解雇)、定年等が契約の終了になります。それに対して有期契約は、期間の定めのある契約となるため、その契約期間満了後の更新の有無および更新の判断基準がポイントになります。労働法では、簡単に解雇をすることはできません。労働契約を解消するためには、「客観的・合理的で社会通念上相当であるという理由」が必要になります。これは就業規則等で詳細に記載をしておかなくてはならず、現実的には解雇することはかなりハードルが高いことだと考えておきましょう。

有期労働契約の活用

実務上は、有期労働契約の活用もお勧めです。「試用期間中だからやめてもらう」という話をよく聞きます。しかし、試用期間といっても労働契約が成立している以上、簡単に辞めてもらうことはできないのです。そのため、有期労働契約(契約社員)の活用も1つの方法です。有期労働契約とは字の通り、労働契約期間を6ケ月とか1年とか期間を定めて契約する方法です。契約期間中に、適正を判断し、適正がないとすれば契約期間満了で契約を終了することができ、解雇といったトラブルはなくなります。また、一定の期間で様子をみられない場合は、再度更新をしても構いません。ただ、労働者側にとっては、正社員雇用と契約社員雇用であれば、やはり正社員雇用を望む人が多いため、求人においては不利に働くかもしれません。その際には、契約社員の募集要項に、一定要件を満たした場合には正社員への転換制度もありといった内容を記載しておくと、求人側としては、単に6ケ月等で契約が切られるわけではなく、「頑張れば正社員になれるんだ」という希望を持つことが出来ます。ただし、有期契約の際には、有期労働契約書に『契約更新の有無』という欄があり、こちらを「自動更新」にしてしまうと意味がありません。あくまで適正を判断する期間として使うのであれば「更新する場合がありえる」とすることが大事です。そして『契約更新の判断基準』という欄を有効に活用することをお勧めします。ここには、例えば6ケ月の契約の中で、最低限知識・技術としてこれはクリアしてもらわないといけないことや、会社として大事にしていることを守れているか等具体的に記載することにより、働く側も会社側も、どういう社員になってほしいかが明確になり、お互いの目標になるため、労使トラブルをさけるためにも、有期契約を上手に利用することをお勧めします。

 

「労働契約書」の記入例

 

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