建設業の労務管理
就業規則について②
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社会保険労務士法人アスミル
特定社会保険労務士 櫻井 好美
民間企業に7年勤務後、2002年櫻井社会保険労務士事務所(社会保険労務士法人 アスミル)を設立。
【主なコンサルティング・セミナー内容】
就業規則・労働環境整備、人事評価制度コンサルティング、賃金制度コンサルティング、退職金コンサルティング、働き方改革セミナー、管理職向け労務管理セミナー、建設業むけ社会保険セミナー、介護セミナー、WLBセミナー、女性の働き方セミナー、学生むけ働く前に知っておいてほしいこと 等
就業規則の構成
前回、就業規則の概要について解説をしてきましたが、今回は、就業規則の中身について解説していきます。就業規則を作成するにあたっては誰がどの規則に該当をするのか?雇用形態(正社員、アルバイト等)の違い、職種の違い(現場作業員、事務員等)ごとに労働条件の違いがあるかを整理していく必要があります。その条件の違いにより、就業規則を作成していきます。同じ会社であっても建設業の場合、作業員、設計、営業、事務等様々な職種に分かれることが多く、その職種ごとに労働時間や休日が違うことがあります。同じ会社だからすべて同じ条件ではなく、それぞれにあった規則を作成していくことが大切です。
就業規則の構成
STEP1 雇用形態により労働条件の相違を確認
労働時間 | 休日 | 退職金 | 異動 | ||
正社員 | 現場作業員 | 7時間 | 日・祝・他 | 建退共 | あり |
事務員 | 8時間 | 土・日・祝 | 中退共 | あり | |
嘱託社員 | 7時間 | シフト週2 | なし | なし | |
パート・アルバイト | シフト | 個別契約 | なし | なし |
STEP2 誰にどの規則を適用させるのかを検討
就業規則 | 育児介護 | 退職金 | 出張旅費 | ||
正社員 | 現場作業員 | 〇 | 〇 | 〇 | |
事務員 | 〇 | 〇 | |||
嘱託社員 | 〇 | × | |||
パート・アルバイト | 〇 | × |
労働時間・休憩・休日
❶労働時間
労働時間とは、使用者の指揮命令下にある時間のことをいいます。つまり、会社から指示をされ、業務に従事する時間のことです。始業および終業の時刻は就業規則に定める必要がありますが、朝礼や朝の掃除が必須の会社であれば、それは労働時間とカウントします。また法定労働時間(1日8時間1週40時間)の範囲で、会社の労働時間(所定労働時間)を定める必要があります。
❷休憩時間
休憩時間とは「使用者の管理下になく、自由に利用できる時間」のことをいいます。この時間は労働時間にはカウントされません。使用者の指示があった場合に即時に業務に就くことが求められ、労働から離れることが保障されていない状態で待機をしている時間は休憩時間ではなく、労働時間になります。建設業の場合資材の到着を待ったり、前工程を待つような手待ち時間は労働時間になりますので、注意が必要です。休憩時間は労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上となり、分割して取得しても問題ありません。現場作業員の場合、昼に60分、午前、午後にそれぞれ30分ずつとるケースをよくみます。この場合は休憩時間を120分とカウントします。
❸休日
法律では毎週少なくとも1回の休日、または4週間を通じて4日の休日を与えなければならないと規定されています。(法定休日)労基法では何曜日を休日とするとか、国民の休日を休日にするといった規定はありません。あくまで法定休日とは週1回の休日です。それに対して、所定休日は会社が決めた休日をいいます。一方で法定労働時間は1週40時間という縛りがあるため、現実的に1日8時間の会社は週休2日が必要になります。
例1 休日の規定例
第〇条(休日)
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休暇の種類
休暇には、法律で定められた休暇と任意で定める休暇があります。法的なものか任意なものかをしっかりわける必要があります。
法的 | (有給)年次有給休暇 (無給)育児休暇、介護休暇 |
任意 | 慶弔休暇等 |
就業規則には法的休暇については記載の必要がありますが、任意の休暇は会社として定めるのであれば記載の必要があります。一般的に慶弔休暇を定めているケースをよくみますが、これは任意であるため会社として定めがなくても、法律的には問題ありません。もし、有給の消化率の低い会社であれば、慶弔休暇を定めるより、何か慶事があったときのお休みはご自身の有給休暇を取得してもらい、会社としてはお祝金等を支給するというのも1つの方法です。年次有給休暇の取得義務が施行されているため、まずは有給休暇の取得率をあげてもらうことが優先です。
年次有給休暇
業種、業態にかかわらず、また、正社員、パートタイマー等の区別なく、一定の要件を満たした場合に与えなくてはいけない会社から賃金が支払われる休暇のことです。労働者には「時季指定権」といい希望の日に有給を取得する権利があり、会社には「時季変更権」といって、事業の正常な運営を妨げる場合には、他の時季に変更を依頼することができます。お互いが気持ちよく消化してもらうためにも、就業規則で取得のルールを決めておくことが重要です。また、就業規則には、有給休暇の賃金等の記載しなくてはならない事項もあります。
例2 年次有給休暇の規定例
第〇条(年次有給休暇)
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退職・定年・解雇
会社を辞めるときは❶自分から辞める意思表示をする自己都合退職、❷会社で定めた定年、❸会社から労働者へ退職を促す解雇の3つの種類があります。
自己都合退職、定年については大きな問題はありませんが、解雇については「客観的にみて合理的な理由が必要」とされ、社会通念上相当だと認められない解雇は無効とされます。未だ日本の労働法において解雇は難しく、そのためにも解雇をする事由として、より具体的に就業規則に記載しておくことが重要です。よく言われるのは「あいつは覚えが悪くて仕事ができない」という理由だけでは解雇はできませんので注意が必要です。
加えて、解雇の手続きとして「解雇予告手当」があります。これは解雇をする場合は少なくとも30日前に予告をするか、30日以上の平均賃金を支払わなくてはならないとされています。
建設業の就業規則
就業規則というと敷居が高いイメージを持たれるかもしれませんが、昨今の働き方改革関連法案の施行、労働者の賃金債権の消滅時効が3年に変更されること等、私達を取り巻く労働環境は劇的に変わってきています。またコロナ禍により、働き方のスタイルも多様化してきており、建設業であっても例外なく法律は適用されていきます。会社のルールを明文化し、働きやすい職場環境をつくることで定着率の向上、新規採用にむけての準備をしていきましょう。
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