サプライチェーン重視時代の建設工事契約のポイント
第5回 電子契約・電子発注における法務上の注意点

弁護士法人匠総合法律事務所
弁護士 秋野 卓生
東京・大阪・名古屋・仙台・福岡に拠点を設ける弁護士法人匠総合法律事務所 代表社員弁護士。
法務省司法試験考査委員(民法)等を務める。
建設業のDXが進み、注文書・契約書・請求書を電子データでやり取りする場面が一般化しています。
一般に民法の原則によれば、これらのやり取りは必ずしも書面による必要はなく、双方の合意のみで成立することとされています。
しかしながら、建設工事の請負契約のような特定の取引については、書面による契約が義務付けられている場合があります。
具体的な取引にどの法律がどう適用されるかによって電子化のハードルは変わるので、まずはこの点の整理が出発点となります。
中小受託取引適正化法(取適法)
はじめに、取適法(「中小受託取引適正化法」。旧「下請法」。詳細は第2回参照)の対象となる取引です。
建設会社でも、資材の製造委託や運送委託など、建設工事に当たらない役務の委託などは、取適法の対象となり得ます。
取適法では、発注内容を明示する4条書面(必要事項を記載した発注書や契約書)を電子メール等で提供することが認められています。
しかも従前の下請法と異なり、相手方(中小受託事業者)の事前承諾は不要となりました。
したがって、対象取引であれば電子発注書をそのまま用いることができます。
ただし、後に相手方から書面の交付を求められたときは、遅滞なく交付しなければなりません。
建設業法
これに対し、注意が必要なのが建設業法の対象となる建設工事の請負契約です。
建設工事の請負は建設業法で規律されているため、取適法の対象ではありません。
建設業法では、電子契約に相手方の事前承諾が不可欠です。
建設業法第19条第3項は、契約書面の交付に代えて電磁的措置を講じることを認めていますが、その前提として、あらかじめ相手方に対し、講じようとする電磁的措置の種類および内容を示したうえで承諾を得なければなりません(同法施行令第5条の5、施行規則第13条の6)。
取適法と同様に考えて、承諾を得ずに電子の発注書・契約書だけで建設工事の請負契約を締結しようとすることは、建設業法上は違法となりますので注意してください。
建設業法の電子契約では、システムが満たすべき技術的基準も定められています。
建設業法施行規則第13条の4第2項は、①出力して書面を作成できること(見読性)、②契約事項に改変が行われていないかを確認できること(原本性)、③相手方が本人であることを確認できること(本人性)の3つを求めています。
これを踏まえると、単にFAXやメールへのPDF添付のみで注文書・注文請書をやり取りすることは認められず、電子署名や電子証明書の添付等が必要です。
前回解説した、事業者署名型(立会人型)サービスを利用する場合も、本人性を担保するため2要素認証等を併用するサービスを選択することが望まれます。

特定商取引法(特商法)
建設工事の請負契約は事業者同士で結ばれるケースが多いですが(BtoB)、相手方が一般の消費者であるケース(BtoC)もあります(例:リフォーム工事を個人から受注する場合)。
リフォーム工事も通常は建設工事であり、建設業法の対象となりますが、これを消費者から訪問販売や電話勧誘販売の形で受注する場合には、建設業法に加えて特定商取引法の適用を受けることとなり、クーリング・オフ(書面受領から8日間)の対象となります。
特商法上、交付すべき法定書面(申込書面・契約書面等)を電子データで提供するには、あらかじめ消費者から真意に基づく承諾を得るなど、所定の手続を踏む必要があり、その詳細な要件は消費者庁「契約書面等に記載すべき事項の電磁的方法による提供に係るガイドライン」に定められています。
この手続に不備があると、その電磁的提供は書面の交付とはみなされず、書面交付義務違反として罰則の対象となるほか(特商法第71条第1号)、そもそもクーリング・オフ期間も起算されません。
なお、この承諾がどこまで有効かは、管轄行政庁によれば、対象となる契約の個数を基準に判断されるとされています。
契約変更については、同一工事の施工範囲や数量にとどまる場合は、当初の内容変更とみなされ、書面交付は不要で、クーリング・オフの起算日も変わらないと整理できます。
これに対し、工事種別や施工場所が全く異なる追加工事は、別個の契約と評価されるため、改めて承諾の取得と書面交付をやり直す必要があります。
判断は解釈に委ねられる面もあるため、当初の承諾書面で対象を包括的に記載しておくなどの工夫が望まれます。
建設工事における電子署名方式の選択と証拠力
ここまで各法律の要件を見てきましたが、これを実際のシステムでどうクリアするかも重要です。ここで、第4回で解説した電子署名方式の選択が問題となります。
建設工事の請負契約は金額が大きく工期も長いため、万一トラブルとなった際の「証拠力」が大きな意味を持ちます。もっとも、契約書面自体が存在しない口頭発注等の場合と異なり、電子契約システムを用いている場合には、契約者双方の情報はデータとして残っており、建設業法施行規則第13条の4第2項第3号、すなわち本人性(なりすましではないか)が大きなポイントとなります。請負金額が高額となる業界では紛争時の影響も大きく、証拠力の確保は軽視できません。
そこで、高額な取引や重要な契約において推奨されるのが、認証機関による所定の身元確認を経て発行される電子証明書を用いる「当事者署名型」です。電子署名法第3条の推定効は、事業者署名型であっても所定の要件を満たせば及び得ると整理されていますが、当事者署名型は本人の署名鍵による署名、すなわち本人自身による電子署名そのものであるため、同条の要件充足が直接認められます。万一の際にも、建設業法が求める本人性等の要件を満たしていることを証明しやすくなります。
建設業界において、この当事者署名型に対応しているシステムの代表例が、「CI-NET」です。取引の規模・重要性に応じて確実な証拠力を備えたシステムを選択することが、有効なリスクマネジメントとなります。
まとめ
このように、電子契約・電子発注の可否や手続は、取適法・建設業法・特商法のいずれが適用されるかで大きく変わります。
導入の際は、まず対象取引がどの法律の規律を受けるのかを見極めたうえで、承諾の要否・技術基準等の各要件を切り分けて確認しておくことをお勧めします。
次回は、「CI-NET」について解説いたします。
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