建設経済の動向
「土木の自動化」が加速、トンネル無人掘削も
大規模土工や山岳トンネルなどの現場で、施工の自動化技術の導入が本格化しつつある。こうした動きを背景に、国も2024年4月に打ち出した「i-Construction 2.0」で建設現場の自動化への挑戦を掲げた。大手建設会社を中心に取り組みが加速する「土木の自動化」の現在地を探る。
建設業の人手不足が深刻になるなか、建設現場の生産性向上を実現する切り札として期待を集めるのが、施工の自動化技術だ。ダム工事など大規模土工の現場では既に導入が始まっているが、山岳トンネルの現場導入にもめどが付きつつある。
技術開発の先頭を走るのは鹿島だ。2024年7月、山岳トンネルの自動化施工システム「A4CSEL for Tunnel(クワッドアクセル・フォー・トンネル)」を完成させたと発表した。2017年に開発に着手し、岐阜県飛騨市の神岡試験坑道で検証を進めてきた。
検証したのは、山岳トンネル掘削で行われる6つのステップの自動化。(1)せん孔(2)装薬(3)ずり出し(4)アタリ取り(5)コンクリート吹き付け(6)ロックボルト打設——だ。一連の作業は大きく異なるため、個別に自動化技術の開発を進めてきた。
トンネル掘削の自動化で目指すのは、生産性向上だけではない。切り羽周辺での危険作業を減らして安全を確保することや、熟練作業員の経験に頼っていた作業を機械に任せることで品質向上させることも目標に掲げる。鹿島は今後、現場への導入を進めながら、機能改善を図っていく考えだ。
「i-Construction 2.0」で自動化後押し
建設現場の生産性1.5倍向上を目指す
大手建設会社が先導する形で土木の現場で加速する自動化。建機メーカーやソフトウエアベンダーも加わり、技術開発が進む。こうした動きを背景に、国も2016年から続けてきた「i-Construction」の取り組みをアップデートし、建設現場の自動化への挑戦を前面に掲げた新たな計画を打ち出した。
「無人で道路や橋を構築」「誰でも遠隔でロボット・建機を操作」「AIが工程・安全をコントロール」「遠隔・自動で完成検査」——。国土交通省が2024年4月に公表した「i-Construction 2.0」の計画で示した未来の現場像には、こうした言葉が並ぶ。
計画では、2040年度までに建設現場の生産性を1.5倍以上(2023年度比)に高める目標を設定した。柱は「施工」「データ連携」「施工管理」の3つのオートメーション(自動化)。例えば施工では、AIが自動的に作成した施工計画に基づいて、1人のオペレーターが複数の建設機械を操作できるようにする。データ連携では、建設生産プロセス全体をデジタル化、3次元化して、ペーパレス化を進める。施工管理ではロボットやウエアラブルカメラによる監督・検査のリモート化などを進める。
国交省は安全管理や施工管理の技術基準などを定め、施工の自動化に関連するシステムの開発や導入を後押しする考えだ。2024年3月に「自動施工における安全ルール」の初版を公表。2024年度には試行工事を発注し、基準類の検証や改善に生かす。
一方、中小規模の現場での生産性向上も進める。作業者の行動履歴や機械稼働状況などのデータを活用して工事全体の効率化を目指すICT施工「ステージ2」の試行を2024年度に始める。工種単位の効率化を図るステージ1から進化させる。建設現場の自動化は今後、地場の建設会社にも浸透しそうだ。
「A4CSEL for Tunnel」で用いる2ノズル自動吹き付け機。山岳トンネル切り羽へのコンクリート吹き付けを自動化する(写真:日経クロステック)
i-Construction 2.0の主な施策。2024年4月に公表した計画で、3つのオートメーション(自動化)が柱となっている(出所:国土交通省の資料を基に日経クロステックが作成)
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