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2017年11月号 No.493

しんこうTODAY 振興基金の活動報告

私たちの主張 国土交通大臣賞 受賞作品

私の生涯をかける大工という仕事

ジロー・工務店 大澤 仁朗さん

受賞者のコメント


もともと文章を書くことが大好き。今回応募したのは、独立したばかりだったので自分や会社のことをアピールしたいのと同時に、これまでの自分の考えをまとめ、若手に向けてのメッセージを送りたいと思ったから。受賞を聞いてびっくりしましたが「やったー!」という気持ちでいっぱいです。業界には大工のいない建設会社もまだありますが、腕のいい大工を抱えられるような会社にして、人材育成にも力を入れていきたいと考えています。


高校を卒業してから、国土交通省による国家プロジェクトの大工育成塾に入り三年間の修行を終え、塾生時代の研修先だった北海道岩見沢市の武部建設株式会社に大工として就職した。二十名近い大工を社員として抱え、墨付け手刻みの新築から、古民家再生、大型木造建築物まで幅広い仕事をこなす会社だった。
そもそも大工になりたいという思いをずっと持っていたわけではない。やりたい部活の為に大学の指定校推薦を狙って必死に勉強していた高校三年生の夏、ちょっと器用だった私をみて同級生が「おまえ大工になればいい」と一言。口に釘をくわえて頭にネジリ鉢巻き、なぜか動き辛そうなダボダボの作業ズボンを穿いて屋根の上でトントントン、きっと口癖は「てやんでぇい!」。そんな大工のイメージを自分の将来に照らし合わせてみた。「悪くない。こりゃ楽しそうだ。」それまでやっていた勉強を辞めて、当時十七歳の若造が自分の将来をあまり真剣に考えず、安易に人生の大きな決断をした瞬間だった。
三十歳になったら独立する。とりあえずそんな漠然とした目標を掲げて大工の道に進んで一年目、建築現場は井戸の中の蛙に容赦なく現実を突きつける。北国の北海道とはいっても真夏の日差しが照りつける屋根工事は部活よりキツイ。真冬になれば連日の猛吹雪が現場を襲い、工期が迫れば親方の無言の圧力で吹雪の中に突入する。足場で作業をしていたら自分が何段目にいるのかわからなくなって遭難した。断熱材として使われるグラスウールは皮膚に刺さってとんでもなく痒い。楽しそうなイメージとはかけ離れた現実だった。
親方は自分の祖父ほどの年齢の口数の少ない大工だった。手取り足取りなんてもっての他。仕事は見て盗め、やれるならやってみろ、そんなスタイルの指導だった。だから細かい仕事はいつも兄弟子が教えてくれた。そんな親方が直接教えてくれたのが刃物研ぎだった。大工仕事は一年目の小僧にとっては本当にわからないことだらけで、成績表なんて無いから、自分がどのくらい出来るようになったのかわからないのがなかなかキツイ。それでもこのノミ研ぎは良かった。昼休みはもちろん、毎日作業が終わってから会社に残って研ぎ場で一人黙々と練習していると、先輩大工達がいつも見に来て評価してくれた。やればやるだけ上手くなるのが楽しくて、毎日必死にやった。自分の大工としてのスキルが目で見てわかるノミ研ぎが、仕事にのめり込んでいく理由の一つだった。
一つ一つの仕事を覚えていくと、少しずつ一人で任せてもらえるようになる。三年目くらいになると少しわかってくる。自信が付いてくれば自分から親方に「この仕事をやらせてほしい」と頭を下げる。やらせてもらえれば天狗になってミスをする。バレたら任せてもらえなくなるから、反省して夜や休日に出てきてコッソリ直す。わからないところがあれば休み時間にさりげなく先輩の仕事を見に行った。外で仕事をしている時に、親方が和室の造作仕事をやっていれば、窓からコッソリ覗いてやり方を必死にメモした。そんな日々の中で少しずつ、仕事を覚えていくのが楽しくてしょうがなかった。
七年目でようやく大きなチャンスがきた。お寺の納骨堂新築工事。そこまで大きくはない建物だったが、その現場の棟梁を任された。乗り込み初日にお客さんから念願の一言を頂いた。「棟梁!」嬉しくてしょうがなかった。そう呼ばれる日を待ちわびて頑張ってきたかいがあった。必死に頑張って、出来る限り丁寧に、けどお客さんに心配されたくないから平然を装ってなんとか一棟収めた後、次の現場の棟梁の話を頂いた。
それから年に二棟くらい、新築住宅を棟梁として建てた。棟梁は現場の作業責任者だ。墨付けから始まって、最後の仕上げまで気を抜くことはない。材料の手配や大工手間の金勘定、協力業者との打ち合わせなど大工仕事以外の業務も任される。毎日体も頭もクタクタになって、それでも一棟収めると爽快感で満たされた。
昔何かで聞いた「人生は一度きりしかないのだから、その大半の時間を過ごす仕事にやりがいが無くてはつまらない」という言葉、その通りだと思う。辛いこともあるし、逃げ出したくなる時もあるけど、仕事を通して人として成長し、そのプロセスの中で多くを学び、やりがいを感じながら日々を過ごすことが人生をより豊にするのだと思う。建設業界の仕事はとんでもなく幅広く、深さは底知れない。機械化が進む現代でも、建設業界はまだまだ人の手が必要とされている。3Kがなんだ、それを上回るほどのやりがいがある。これから仕事を始める若者もきっと楽しめる業界だ。仕事に生涯をかけて人生を全うしている頑固な大人達の魅力にきっと惹かれるはずだ。
三十歳になった今、私はこの業界の大工という分野に生涯をかける覚悟を決めて、三か月前に工務店を開業した。これからの人生が楽しみでしょうがない。

俺…、感動している

矢作建設工業株式会社 紀伊 保さん

受賞者のコメント


私は会社で高校生向けの見学会やインターンシップ、中学生の職場体験など建設業の魅力を伝えるような仕事をしていますが、もっと建設業の魅力を伝えたい、イメージアップにつながるようなことをしたいと思って応募しました。受賞にはびっくりでしたがとても嬉しかったです。建設業という仕事は長年やっているといろんなトラブルを経験し苦労もしますがそれを乗り越えてきて今があり感動があります。そんな思いも作文から伝わればと思います。


「一身上の都合で会社を辞めさせてもらいます。」これは、今から25年前の私のセリフだ。時代はバブル絶頂期。「独立して、人の2倍働いて3倍稼いでやる!」それが辞表提出の真意だった。
結局、当時尊敬していた上司に慰留され、半年後にバブルがはじけた。世の中は一気に不景気になり、当時の「転職ブーム」の波に乗って、条件のいい会社を渡り歩いていた元同僚たちは、今では消息すら聞かない。
考えてみると、「転職ブーム」は現代でも、形を変えて若者の心に広がっている。バブル期のような、「2倍働いて3倍稼ぎたい」というものではなく、給料が同じなら、楽で休みが多いところに移りたいというように形を変えた新たな「転職ブーム」が、現代にも蔓延しているのではないだろうか。情報化社会の現代では、就職も転職もスマートフォンのモニターで「初任給、休み、地元」などのキーワードで検索され、ふるいにかけられる。企業理念やその会社の思いは、検索機能ではヒットしないのだ。
彼らは、この仕事を通じて世の中の役に立ちたいという「志」ではなく、単なる「比較」で仕事を決め、しばらく勤めてはまた次の「比較」によって転職しているように思える。
しかし、仕事とは、「比較」ではなく、「感動」するものではないだろうか。
私がまだ新入社員だったころ、鉄道の連続立体交差事業に携わっていた。その工事では、私がすべての測量業務を任されており、工期に間に合わせるために懸命にホームをつくった。しかし、検査では、わずか10mmの施工誤差のために不合格となり、ホーム先端の10数mをやり直すことになったのだ。職人さんに頭を下げ、何とか期日までに完成させた。
線路の切り替えは、12月9日。体の芯まで冷えるような午前5時2分。いよいよ始発電車が入ってきた。私は一人、自分がつくったホームの上に立っていた。再施工したホームの先端は、何度測量して確認しても、列車が衝突しないか不安でしかたなかったからだ。
始発列車がホームに近づいてきたとき、心臓の鼓動がにわかに早くなった。きれいに弧を描きながら滑り込む列車。そのとき、始発電車に乗っていたスキー板を抱えた女の子の姿は、いまも脳裏に焼き付いている。
その瞬間、なぜだか涙があふれてきた。嗚咽するくらいに、止めどなく涙が流れてきたのだ。そのとき、私は気づいた。
「俺…、感動している」と。
その後、現場監督として、たくさんの構造物をつくってきたが、あのときの感動は一生忘れられない。今まで仕事を続けてこられたのは、あの感動があったからだと思っている。
建設業のやり甲斐は、なんといっても完成の喜びだ。現場では苦労の連続だが、その達成感はどの産業にも負けないと思う。これこそが私たちの仕事の誇りだ。
いま、私は管理職として、技術系職員の教育担当責任者をしている。
また、同時に建設業の素晴らしさを学生や子どもたちに伝える活動も続けている。小学生を対象とした「夏休み親子体験会」では、建設機械の試乗や測量の体験をしてもらった。
中学生には、職場体験に来てもらい、高校生には、彼らの学校まで赴いて「出前授業」と称し、どんな仕事も尊く、その仕事を全力でやることで、自分のモチベーションも成果も大きく変わることを伝えてきた。
そして、今年の新入社員らには、新社会人としての抱負と両親に対する感謝の気持ちを言葉にしてもらい、それを動画で撮影した。新入社員一人ひとりの言葉を収録した29本の動画を編集し、ご両親に宛てて発送した。後日、ご両親から感謝の手紙が返ってきた。
『この度は心温まるDVDをお送りいただきありがとうございました。新社会人を心配する親の気持ちを察して下さり、研修の様子を御教え頂いてホッとするとともに両親へのメッセージにも感動し、涙しました。家族みんなで観ました。私は何度も観ました。人間関係に不安なく働ける職場であること、働き甲斐のある仕事であることが伝わって、とても安心できました』
私は、いつも彼らに言う。「転職発想」ではなく、「天職発想」でいようと。
「転職」を否定するつもりはない。でも、「比較」だけで移り変わる「転々・職」では、どこに行っても、自分の仕事を好きにはなれないし、自分の未来やそんな自分自身も好きになれないだろう。
それに対し、どんな仕事でも一生懸命やれば、その道のプロフェッショナルになり、「天職」になるのだ。
やはり仕事とは、感動するものだと思う。お客様も周りの人も家族も、そして自分自身も感動する、私はそんな建設業が大好きだ。

女性親方に

新日本建工株式会社 宮本 亜衣子さん

受賞者のコメント


日頃からもっと建設業に女性が入ってくるようになれば…と思っていました。作文コンクールがあることを知り、建設業は女性でも働けるということを伝えたいと考え、応募しました。それがまさか受賞とは! 受賞が決まり「私でいいんですか?」と思いましたが、家族や友人、会社の人もすごく喜んでくれて良かったです。私の職業である「軽天・ボード貼り」を知らない人も多いので、この職業のこともわかってもらえるきっかけにもなればと思っています。


建設業と聞くと一般的に「男性が多い、体力仕事、汚れる」のようなイメージがあるのではないでしょうか? 私もそのようなイメージを抱いていた一人です。
父親が左官職人として働いていたため、いつも作業服で汚れて帰ってくる姿を見ていました。しかし、作業着が汚れていることが私には悪いイメージとしてではなく寧ろ、かっこいいとさえ思っていました。
職人という職業に興味はありましたが現実、働く機会や接点が私自身にありませんでした。そんな時に人伝えで、香川県に職人育成塾が開校されることを耳にしました。興味を持った私はすぐさま入塾希望を願い出たことを今でも覚えています。
縁があって職人育成塾に入塾することが決まり、入塾後は左官以外の内装業種を知ることになりました。今まで知りえなかった事を学ぶことが新鮮で毎日楽しみに通っていました。
その中でも私が興味を持ったのが「軽天」と呼ばれる仕事です。知れば知るほど、この仕事に興味を持ちもっと、学びたいと思うようになり軽天・ボードの内装工事業を担っている新日本建工株式会社への就職を希望しました。新日本建工株式会社の岡村社長との出会いで人生が激変しました。
働き始めて数カ月、職人育成塾にて一通りの基礎を学びましたが、実際の現場へ入ると現場で学ぶことが数多く、材料の搬入、力仕事が必要となる場合など大変なことが多々あります。大変ではあるけれど、物を作っていく楽しさ、達成感などは自分で実際に経験しないと分かりませんでした。一般的なイメージはまだ変わることは難しいかもしれないけれど、私が以前思っていた建設業のイメージとは違う、思っていた以上のことを今実感できています。
しかし、現状男性が多いこの仕事に、三十九歳の私が入って行く事には勇気と覚悟が必要でした。私は四歳の男の子と二歳の女の子、二人の母親です。今は二人の子どもをこども園へ預けて出勤していますが、作業現場によっては遠方になる事があり朝が早く子どもを自ら送って行く時間がありません。他に頼める人もいないため、割高になってしまいますが家事代行業者に子どもの送りをお願いしています。金銭面は厳しい状況ですが、会社の理解と家族の支えのおかげで少し無理はしていると思うけど、将来の夢と子どものために続けてられています。もっと女性として働きやすい環境、子育てしながら働いていける環境に変化していくことを切実に願うと共に、女性職人が増える事も願っています。建設業で女性が働けるのは難しいと考えている方が過半数以上いるのではないでしょうか。女性は「働きやすい環境」それと「職人になれるきっかけ」があれば、女性職人は増えていくのではないかと考えます。私にとっては、それらが『職人育成塾』でした。女性が現場で働くにはハードルが高いと不安がありましたが、内装業は女性にも活躍の場がある事を現場に実際に入る事で実感しました。
私の夢は、軽天職人として香川県初となる女性親方になること。親方としてバリバリ仕事をしながら子育てもするという両立は大変なことだろうけど、ものすごくかっこいいことだと私は思います。女性でも親方になれる、子育てしながらでも活躍している。というお手本になりたいと思っています。大切なのは自分の努力。努力次第で変わってくることを今の若い子たちへ伝えていくのと共に、「女性職人として活躍できる建設業」と、周りからそして社会から思ってもらえるように、これから先、日々努力し精進していきたいと思っています。

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