FOCUS

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2018年5月号 No.498

専門工事事業者の目線で静岡県の若い建設技能者を育成

静岡県建設学院は、静岡県重機建設業工業組合が母体となって1981年に設立した技能者養成のための訓練施設です。同学院は、職業訓練法人静岡県建設業能力開発協会として、全国でも数少ない機械土工工事の実習ができる訓練施設であり、これまで組合員の新規入職者教育を中心に4,600名を超える多くの建設技能者をさまざまな建設現場の最前線に送り出してきました。

若い技能者の育成と資格取得の支援を後押し

静岡県建設学院の開設のきっかけは、1973年の静岡県重機建設業協会設立(静岡県重機建設業工業組合の前身)までさかのぼります。この時代は、日本の社会や産業全体が高度成長期を経る中で右肩上がりの成長を続けており、建設業界も、急速に人力から機械化への対応が必要とされていた時代でした。その一方、組合員の中からは、建設業の人気に陰りが出ており、いずれ人手不足になるのでは、という心配もありました。
そこで後継者育成のため、1年かけて組合員の職員を教育する訓練コースを開設。これは、従来ありがちだった現場で「見よう見まねで覚える」ではなく、「専門工事事業者が自身の目線で、系統だったカリキュラムに基づいた教育を」という思いがあってのことでした。 
設立当時について同学院専務理事の山川安豊さんは「建設技術者や技能者資格の試験制度が次々に導入され、業界としてもきちんとした教育体制を整える必要に迫られていました。しかし人材育成を個々の企業で行っていくのは難しい。ならば団体全体で育てていこうとしたわけです。また官公庁や自治体の工事などでは資格を持っていることが、その工事に参加できる条件となっていることも多く、現場技能者にとって、資格は必須と言ってよいでしょう。それだけに当学院も、できるだけ多くの資格を取得させることを重要な目標の一つに掲げています」と語ります。
卒業生の中には、現場のリーダーとして活躍している人も少なくありません。ある卒業生は、「大きい現場に入ろうと思うと、資格が求められることが多いので、将来のランクアップを考えている人などは、できるだけ若いうちに多くの資格を取っておいた方が有利だと思います」と振り返ります。

現場の目線で課題解決できる人材の育成を

訓練内容は新卒者から若手を主な対象としたため、基本的な技能訓練や知識の習得に重点を置いています。講師の一人は「仕事で最低限必要となる基本を重視しており、この基本を確実に身につけることが実際の現場での応用につながると、日頃から繰り返し指導してきた」と語ります。
また訓練にあたっては、言葉や知識だけを詰め込むのではなく、常に現場の作業に携わる人々の目線を大事にし、現場における課題を解決・改善していける人材の育成を心がけていると山川専務は強調します。
平成26年度までは、設立以来続けている1年間の「普通課程」と4か月の「短期課程」の2つのコースが設けられ、土木工学や測量、製図(CAD活用)、安全衛生といった基本の学習から、玉掛けや建設機械の取り扱い・運転などの実技まで、建設・土木に関する多彩なカリキュラムを用意。また取得できる資格等は、履修課程や学科によって異なりますが、合計で24資格の取得および受験を可能としていました。

建設労働者緊急育成支援事業に対応した特別コースを実施中

平成27年度からは普通課程の訓練は一時休止し、短期講習および建設労働者緊急育成支援事業に絞り、2つの訓練コース(重機オペレーターコース、建設多能工コース)を実施しています。現在の指導者は、非常勤の講師を含めて26名。全員、組合企業の職員であり、現場の一線で働いてきたベテランぞろいです。
「現場で活躍できる実践的な技術を持った若手を育て、送り出すという徹底した姿勢を業界からも認めてもらい、最近では多くの企業から求人を出していただけるまでになっています」(山川専務)。

建設労働者緊急育成支援事業「建設多能工コース」の訓練の様子

建設・土木業界を男女ともに魅力を感じる職場に!

あらゆる産業分野でデジタル化が進む現在、国土交通省が進めるi-Constructionに代表されるように、建設現場へのICT 技術の導入が急速に進んでいます。そうした時代の要請に静岡県建設学院も積極的に取り組んでいます。
「平成29年度からは、建設労働者緊急育成支援事業のプログラムにドローン講習を追加しました。最初は建設機械オペレーターコースだけだったのですが、建設多能工コースの生徒から『自分たちもやりたい』という希望が出て、現在では両コースで実施しています。みんな興味津々、楽しそうに学んでいますよ」(山川専務)。
一方、同学院では女性の技能者育成にも力を注いでいます。近年の建機はコンピューター化が進み、女性でも十分に操作が可能です。山川専務は、「ダンプカーや重機の操作にも女性は適していると思っています。女性はきめ細かな気づかいができるので、作業にムラがない。それに、資格さえ取れば結婚や産休後、一時的に現場を離れても戻りやすい。そういう意味でも、これからの建設業は男女機会均等の模範的業種になるべきだと考えています」と言います。
また今後については「人集めは大変ですが、今後も教育は武器になると考えています。過去に普通課程コースを学んだ組合員からは、もう一度やって欲しいという声もあるので、建設労働者緊急育成支援事業終了後は検討していきたい」と語ります。
建設業界は、もう昔のような泥にまみれて辛い仕事をする世界ではなく、男女ともに魅力を感じる職場となるべきだと力強く語る山川専務。生徒たちには「いい仕事だよ、誇りを持ってやれ」と伝えているとのこと。建設業の次代を担う若い後継者を輩出するため、その育成に力を注いでいます。

建設多能工コース訓練生と講師の皆さん

Column 卒業生には建設機械操作のテレビチャンピオンも!

静岡県建設学院の卒業生には、すばらしい腕前を持った建設重機の技能者が大勢いる。中には、かつてテレビ東京系列で放映していたテレビ番組で「ショベルカー王選手権」で優勝した人も。現在は本業に限らず、同学院の非常勤講師としても活躍している。地域のイベントではパワーショベルに筆をつけて習字を披露することもあるそうだ。他県でも人材不足が問題視されていますが、まず「動かなければ始まらない」そう思っています。

 

静岡県建設学院ホームページ http://www.s-juki.org/modules/information/index.php?cid=20

 

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