特集

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2017年12・2018年1月号 No.494

建設企業が行う工業高校生採用活動の取り組みについて その1

2 学校・生徒に選ばれる理由

1 継続求人・継続採用

学校の声
苦しいときでも継続して採用を続けてくれた地元企業に優先して生徒を送るのは当然だと思います。景気が上向きのときだけ「人材が欲しい」では信頼関係が成り立たない。進路指導をする上で重視しているのは、企業のトップ層の姿勢や考え方です。企業と学校とお互いが困ったときにはどう動くのか。その対応を見極めて生徒を送りたいと思います。生徒の人生に大きく影響することなので、進路担当を受け持ったからには企業研究をしながら指導していきたいと考えています。

企業事例
今ある関係性を大事にしながら採用を続けていきたいとの考えから、基本的には採用実績校から毎年1人ずつ採用しています。中には、10年以上も関係が続いている例もあります。工事の受注数が少ないときでも、欠かさず採用し続けることで、高校には求人票が毎年ストックされることから、就職に対して意識が高い2年生が早々に企業を調べる際に、過去の求人票があり先輩が採用されていることがわかるので、『毎年、安定的に求人がある企業』という印象を持ってもらえているようです。

ここがポイント!
進路指導教諭の多くから「不況の時なども継続して採用してくれた企業を優先している」との声が聞かれた。毎年の採用は難しいと考える企業については、「学校を訪ねていただき、『今年は難しいけれども』と、現状を説明していただくことも大切なのでは」との声も。
進路指導教諭は、継続して採用をしてくれた『企業』を優先しているのではなく、継続して採用をしてくれた『企業経営者の姿勢や考え方』を見ています。

2 地元企業・勤務地

学校の声
全国どこで仕事をしてもいい、という生徒は少数派です。地元での就職を希望するのは、生徒本人はもちろん、親御さんの意向も強い。地元の工業高校から他県への人材が流出しづらいこの傾向は、地元建設企業にとってはチャンスなのではないでしょうか。

企業事例
大手企業に入ると、どこに配属されるのかわからないという心配がつきものですが、弊社は配属決定時に自宅通勤の希望などもある程度考慮します。会社としては全国に広く展開をすることは経営的なメリットがあると思います。しかし弊社の場合、営業範囲がコンパクトであることは、若者を採用するという面では、アピールポイントになっています。

ここがポイント!
「地元から離れたくないと考える生徒は多くなっています。」との進路指導教諭の声。地元企業のメリットが高まってきている。一方、「どこでも行きます」という工業高校生もまだまだたくさんいることも併せてお伝えします。

3 PR資料

学校の声①
生徒たちは求人票で雇用条件を比較するだけでなく、会社案内にもじっくり目を通しています。文字でまとめられた施工実績より、図解で見せる年齢ごとの給与目安や高卒で目指せる役職、先輩の紹介、『ある社員の一日』などをよく見ています。
また、最近は生徒自身が企業名をネット検索するため、組合名簿しかヒットしないような会社は「情報が少なく、選ぶのが難しい」と感じているようです。

学校の声②
採用実績のない企業は、生徒にとっても判断材料となるものが不足しがちです。どんな仕事をし、どのようなライフサイクルになるのかを示す『先輩社員の一日の行動』のような資料は、生徒に会社を理解して貰う上でとても有効だと感じています。

企業事例
ホームページは、特に力を入れて制作し、高校生にも分かりやすい内容になるよう心掛けました。業務内容や施工実績の紹介ページでは写真を多く使い、また、施工現場やインターンシップ、社内勉強会などの様子も豊富に紹介。現場の様子や、入社後の業務がイメージしやすいように配慮しました。
さらに、若手先輩社員からのメッセージのページを設け、Q&A方式でインタビューを掲載。志望動機や仕事への思いのほか、休日の過ごし方といった項目も設けて、先輩社員が身近な存在に感じられるよう工夫しています。

ここがポイント!
社員がどんな仕事をしているのか、どんな人が働いているのかや給料など、生徒が知りたい情報と施工実績をアピールしたい建設企業の情報のミスマッチ。
生徒にとって、企業のホームページがあることは最低条件となっている上で、日常の仕事内容や社員を紹介するなど、『生徒が知りたい情報』の掲載に気を配りましょう。

4 求人票

学校の声
求人票は届いた順で管理し、進路指導室の壁に一覧を貼り出して、一年生でも閲覧できるようになっており、また、生徒が気になった会社のパンフレットは、紐づいた番号によってファイルから簡単に探せるよう工夫しています。
求人活動解禁の7月に入ると、1週間で500~600社もの求人票が郵送で届き、年間では2,000社近くになります。進路指導室では過去3~5年分を保管するほか、近年採用実績のある企業はカラフルなファイルで管理。直接受理した求人票は『持参』という印を付けて分かるようにしています。

求人票閲覧室(神奈川県立磯子工業高等学校 提供)

企業事例
仕事の内容について、高校生には『総合職、技術職』といった求人票の記載では、ハッキリと仕事がイメージ出来ないものがあることから、土木の現場監督、建築の現場監督など「職種別に求人票を出してはどうか」という、ハローワークからのアドバイスを受け、具体的な職種を記載して求人票を出すようにしました。

ここがポイント!
事例調査の企業の多くが7月1日の求人活動開始日に学校に求人票を持参している。学校の中には『持参』と『郵送』を区分している学校もあることなどから、『持参』が望ましい。ただし、この時期は進路指導教諭が多忙な時期であることから、込み入った話が出来る可能性は低い。あらかじめ進路指導教諭の時間のとれそうな時期に予約を入れ、自社の説明をしっかりすることが大切です。

5 現場見学会・現場実習

学校の声
生徒たちは自分に合った仕事や就きたい仕事について、デュアルシステムで経験をしながら1年次からしっかりと考えています。そこで私たちは、生徒たちの希望や関心の対象を重視しながらも、教員からの目線で個々の能力が発揮できるような会社を紹介します。早期離職をさせない、地に足の着いた技術を身に付けてもらいたいという思いからです。

企業事例
現場見学に来た学生には、できるだけ若い社員が対応するよう努めています。世代の近い社員が現場の案内や説明をしながら様々な話をしています。参加した高校生からは、「現場について職場についての率直な話が聞けて良かった」、「志望する企業として確信が持てた」などの声をもらっています。

ここがポイント!①
1年次、2年次などを対象とした現場見学会や現場実習は、職種などを具体的にイメージするきっかけとなっている。一人でも多くの生徒に『まず、建設業に興味を持ってもらう』ために、団体や企業が連携し、講師の派遣や見学現場の提供などの体制を構築する必要があるのではないでしょうか。

ここがポイント!②
3年次の求人解禁後の応募前職場見学は、直接の接触が禁じられている高校生と触れあえる貴重な機会となっていることから、高校生が不安に思っていることを少しでも解消することがスムーズな入職につながると考えます。

現場見学(馬淵建設株式会社 提供)

6 資格取得

学校の声①
『2級建築施工管理の資格は建築の仕事をする上で絶対に必要である』という指導方針もあって、資格を取得した生徒たちは、建設業への就職を強く意識するようになります。この就職に対する意欲をいかに育てモチベーションをくすぐっていけるかが課題です。

学校の声②
17歳から2級建築施工管理学科試験が受験可能になったことを知らない企業が多いのではないかと思います。生徒が面接の際に話をして、企業側が知ることもありました。高校生も、高い志を持ち、しっかり勉強をして受験しているという事実を企業にはもっと知っていただきたい。そういうことが浸透していけば、高卒採用数も、もっと増えるのではないでしょうか。

企業事例
工業高校を卒業して入社2年で2級土木施工管理技士を取得、4年後には1級土木施工管理技士を取得するという、明確な目標を設定しています。この間は、仕事の合間に社員が講師となって指導時間を作り、さらに試験が近づけば、外部で研修を受けさせるなど、『受かるため』の支援をしています。

ここがポイント!
高校在学中に取得できる資格を生徒にしっかり取得させたい。と多くの工業高校が「2級施工管理技術検定学科試験」などの資格取得に取り組んでいる。在学中、特に2年次に合格することにより、建設産業界へ就職するイメージを高校生個人が持てるようになるという。入社後のキャリアアップや資格取得をどのように支援していくのかなどを学校にしっかりと説明しましょう。

年齢にあわせた目標年収や資格などを明記したキャリアパスの例(株式会社鈴木組 提供)

7 内定から入社式までのフォロー

学校の声
内定後、いかに生徒が気を抜かず過ごせるかで、入社後の意識も大きく変わると考えています。企業からの要望があれば車の免許も含め、必要だと思われる資格は取っておくよう指導しています。できることなら内定した企業で研修やセミナーを受けられると生徒のモチベーションも上がってくるのですが、現状のルールでは不可能です。
入社までに身につけておくべきことを伝えたり、企業が求める人材像を再度学校側に説明したりするなど、内定後も、企業側が積極的に進路指導担当とやりとりする価値は大いにあります。

企業事例
大学生と違い、高校生は内定式に参加できないことから、内定者全員の自己紹介文をまとめて内定者全員に送付することで、高校生も同期の仲間を知ることができる。こうした地道な積み重ねが、新入社員のモチベーションを高め、定着につながる第一歩となると考えています。

ここがポイント!
「卒業前実習、教育、研修等にあたっては、学校教育に支障をきたすことが考えられるので、教育等は入社後に事業主の指揮命令のもとで実施すること」との申し合わせにより、生徒たちは内定をもらっても卒業までの期間、内定式も研修もないため、就職への意識が低下してしまうのが現状。原則入社まで企業が生徒に直接接触することはできないが、「入社後を考えて、内定の決まった生徒に対して準備して欲しいことなどを学校に相談する意味は大いにある」という先生の意見がありました。

入社式(大豊建設株式会社 提供)

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