特集

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2017年4月号 No.487

建設業の環境整備に向けて 建設キャリアアップシステムの構築へ

建設技能労働者(技能者)一人ひとりの経験と実力に見合った評価と処遇が受けられるようにするため、いま新たなシステムが動きだそうとしています。それが「建設キャリアアップシステム」です。
当財団ではこの建設キャリアアップシステムの運営主体として、システム構築から運営を行うこととなりました。そこで、今回の特集では建設キャリアアップシステムの概要についてご紹介するとともに、このシステムがどのような効果をもたらすのか、運用にかける期待の声もご紹介します。

建設キャリアアップシステムを構築する背景

建設業が将来にわたって優良な社会資本整備の担い手としての重要な役割を果たしていくためには、これまで以上に若年層をはじめとする入職環境を整え、優秀な人材の確保・育成を図っていくことが不可欠です。特に、わが国全体での就業者人口が減少し、産業間での人材獲得競争が始まる中で若年層の入職を進めるためには、建設業において現場を担う技能者が適切に評価され、生涯を通じて魅力的な職業、産業であることを目に見える形で示していくことが大切です。
現実には、建設業の年齢別の賃金(いわゆる賃金カーブ)を見ると、ピーク時期が40歳前後となっており、製造業と比べても早くなっています。このことは、現場での本人の生産性に現れない管理能力や、後進の指導といった経験に裏付けられる能力が適切に評価されていないことの現れと考えられます。また、建設技能者は異なる事業者の様々な現場で経験を積んでいくため、一人ひとりの技能者の能力が統一的に評価される業界横断的な仕組みが存在せず、スキルアップが処遇の向上につながっていかない構造的な問題があります。
こうした現状を変革するため、一人ひとりの技能者の経験と技能に関する情報を業界横断的に蓄積し、適切な評価と処遇の改善、技能の研鑽につなげていく基本的なインフラとして「建設キャリアアップシステム」を作ることが官民からなるコンソーシアムで合意され、その運営主体として建設業振興基金が実現に向けた準備に着手したところです。

建設キャリアアップシステムの概要図

建設キャリアアップシステムのポイント

こうした目的を実現するため、建設キャリアアップシステムでは、一人ひとりの技能者がまちがいなく本人であることが確認され、IDが付与されたICカードを交付することが最初のスタートになります。ICカードが本人を証明する機能を担うことになります。その上で、どのような現場でどのような経験を蓄積したかの情報が、日々の就労実績として電子的に記録・蓄積されることになります。同時に、どのような資格を取得し、あるいは講習を受けたかといった技能、研鑽の記録も合わせて蓄積されます。そのようにして蓄積された情報を元に、最終的には、それぞれの技能者の評価が適切に行われ、処遇の改善に結びついていくこと、さらには優秀な技能者をかかえる専門工事業者の施工力が客観的に示せるシステムとなることを目指します。
その意味で、建設キャリアアップシステムは建設業や技能者にとっての基本的なインフラとなるものであり、インフラを活かして行政・業界が一体となってさまざまな取組を進めていくことが強く求められるのです。人材の育成評価に係るこうした横断的な仕組みができることは、優秀な人材にとって魅力ある産業であり続けるために重要なポイントとなります。

建設キャリアアップシステムの基本的な利用方法

①情報の登録・蓄積

建設キャリアアップシステムの利用に当たっては、技能者、事業者それぞれが登録の申請を行います。申請はインターネット、郵送、窓口のいずれかを選択することが可能です。本財団では、申請内容に間違いがないかチェックした上で、技能者に対しては、一人ひとりのIDを付したICカードを発行・交付します。申請の際には、本人に間違いないことを確認するため、運転免許証等の写しを提出していただくことになります。併せて保有する資格等の登録をすることも可能です(資格証等の写しが必要です。)。技能者登録の場合、所属する事業者等が代行して申請することも可能です。
なお、技能者に交付するICカードは、当面、通常のカードとゴールドカード(登録基幹技能者向け)の2種類とする予定です。
次に、元請事業者は、現場開設時に現場情報を登録します(インターネット等で登録が可能。現場登録の単位は任意です。)。併せて、現場への就労を記録するためのカードリーダー等を準備していただきます。技能者は、現場に入場する際にICカードをカードリーダーで読み取ることなどで就業履歴が蓄積されることになります。
なお、就業履歴の蓄積に当たっては、建設現場の入退場管理等に使われているさまざまな民間システムと連携することも想定しています。また、現場の状況はさまざまですので、カードリーダー等にかえて、事務所パソコンから入力することも可能となります。

②情報の閲覧

登録・蓄積された情報は、技能者、事業者それぞれの立場で閲覧利用が可能となります。
技能者本人は、パソコンやスマホの画面でそれまでに蓄積された情報をいつでも閲覧でき、経歴等を確認し、または証明することが可能となります。
事業者については、それぞれの立場に応じて閲覧できる情報の範囲が変わります。技能者が所属する事業者は、所属技能者の情報を技能者本人と同様に閲覧できます。技能者本人が現場入場中(工事期間中)は、元請事業者や上位下請事業者は技能者情報を閲覧することができます。それ以外の事業者は、技能者本人と所属事業者が同意する場合に限り、技能者情報の閲覧を可能とする予定です(この場合でも個人情報の取り扱いには十分留意します。)。専門工事業者が施工力を積極的にアピールしたい場合、受注確保につなげていくことも可能となります。

建設キャリアアップシステムの利用について

建設キャリアアップシステムに期待される機能や効果

前述したとおり、建設キャリアアップシステムはインフラです。インフラを活用してその効果を十分に発揮していくためには、行政・業界一体となった取組が不可欠です。建設キャリアアップシステムでは、一人ひとりの技能者の情報が蓄積されていくことになりますが、こうして蓄積される情報をマクロ的に、いわばビッグデータとして活用していくことも可能となります。蓄積された情報やデータを活用して、技能者の評価基準や賃金体系をどう整備していくのか、専門工事業者の施工力をどう見える化していくかといったことが、重要な課題になっていくと考えています。行政、業界団体、事業者それぞれの立場での検討が進められることを期待しますが、本財団としても、これまでの活動の経験・実績も活かしながら、積極的に貢献していきたいと考えています。その際には、各団体・各事業者で行われている人材育成のための講習・研修等のさらなる充実・強化を併せて進めていくことも重要と認識しています。
その上で、現時点で考えられる機能や効果としては、たとえば、以下のような点が考えられています。

①技能者本人にとって

技能者としては、自身の経歴等が簡易に一覧の形で確認できることとなり、さらなる技能の研鑽につなげることができます。また、再入職する際などに、自身の技能や就業履歴を証明できるようになります。
さらに、システムに蓄積されたデータを基に統一的な能力評価基準や技能・職歴等に応じたきめ細かな賃金体系の検討が進むことにより(労務単価への反映を目指すこともその一例となります)、生涯にわたる適切な評価と処遇につながることが期待されます。

②事業者にとって

複数の現場における技能者の就業状況等を日単位で確認できるようになり、現場管理の効率化につながることが期待されます。自社に所属する技能者の技能経歴を顧客等にPRできるほか、優れた技能者を雇用する事業者の評価が進み、選定に活かされていくことが期待されます。
なお、元請事業者では、建設業退職金共済制度として交付される証紙の必要枚数の確認が容易になるとともに、技能者としても貼付状況の確認が容易となります。

運用開始までのスケジュール

建設キャリアアップシステムは、登録者は運用開始後1年で約100万人、運用開始後5年を目途にすべての技能者の登録を目指すとされております。
現在、システム関係の調達に向けた再公告手続きを実施中であり、運用開始までのスケジュールは、システムの開発期間等が決まった後、確定させることとなります。(参考に、再公告に当たって示した標準的な工程案を以下に示します。)
本システムが普及・定着し有効に活用されていくかどうかは、どれだけ多くの技能者、事業者の方々に登録・利用いただくかにかかっています。
ご利用頂く皆様にとって使い勝手の良い、付加価値の高いシステムにしていきたいと考えております。
今後、関係する方々のご協力をいただきながら、システムの周知、理解を進めてまいります。

建設キャリアアップシステム再公告に際しての標準的な工程案

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