建設経済の動向

建設経済の動向
2024年3月号 No.556

新たな教訓突き付けた能登半島地震

新年早々、最大震度7の揺れをもたらした地震が能登半島を襲った。揺れによる古い住宅の倒壊だけでなく、ビルの転倒、市街地を焼き尽くす大火、街並みをうねらせる液状化など多様な被害をもたらした。本格的な調査は執筆時点ではまだ進んでいないものの、震災直後の段階で目立っていた被害を紹介する。

2024年1月1日午後4時10分ごろに発生した能登半島地震。石川県の志賀町や輪島市で最大震度7を観測した揺れは、住宅の倒壊や大規模な火災、津波をもたらし、石川県内で240人を超える死者を出した(2月21日時点)。今回は、この地震がもたらした被害についてまとめる。

地震によって輪島市の市街地に壊滅的な被害をもたらしたのが火災だ。市内きっての観光エリアである「朝市通り」の一帯を中心に、焼失範囲は約5万m2に及び、約300棟の建物が失われたとみられている。火災発生時の風は弱く、火災はゆっくりと進んだとみられる。

しかし、消火栓が使えなかったり、防火水槽を使う際に道が倒れた電柱で塞がったりして、水利上の問題があった。さらに、人口の少ない地域なので、そもそもの消防力が小さかった点も鎮火を難しくした可能性がある。人口減少や高齢化が進む地方は多いので、こうした事情を踏まえて今後の防災体制を考えなければならない。

同じく輪島市内では地上7階建て鉄筋コンクリート造のビルが転倒した。メカニズムについては、本原稿の執筆時点ではまだ調査が十分に進んでいないものの、転倒方向の逆側の杭が引き抜け、反対側の下部構造に大きな圧縮力を加えながら転倒したとみられる。

このビルは、杭基礎の耐震性が考慮される前に建てられたビルであった。今後の調査結果などを踏まえ、建設年次が古い建物の杭基礎の扱いなどを議論していく必要がありそうだ。

 

津波による浸水は県の想定内
液状化で水平方向に2m動く

石川県珠洲市では、震度6強の強い揺れによる住宅倒壊だけでなく、津波の爪痕も大きく残った。能登半島の北側から回り込んできた波が、浅い海で反射や屈折を繰り返し、増幅することによって被害をもたらした。ただ、今回の地震による津波は、事前に県が想定していた最大津波による浸水域や浸水深の範囲内におおむね収まったとみられる。

それでも、そもそも住宅自体が揺れで倒壊するといった被害が出たので、津波に備えて迅速に避難することが難しかったケースも出ている可能性がある。

石川県内灘町では、県道8号沿いの広い範囲で地盤の液状化被害が生じた。道路や建物敷地が大きくうねった箇所は少なくない。大規模な側方流動が起こったとみられる。

震災直後に現地を調査した京都大学防災研究所の山崎新太郎准教授の速報としての見立てでは、側方流動が起こったエリアは長さ約150m、幅約100mほどに及び、水平方向の変動量は約2mだという。住宅の基礎や上部構造の損傷も相当程度発生していると考えられ、復旧費用がかさむ可能性が高い。

石川県輪島市の市街地では、広域にわたって建物が焼失した(写真:下2点も日経クロステック)

液状化によって道路だけでなく、宅地もうねっていることが分かる

津波被害を受けた石川県珠洲市宝立町の鵜飼集落の状況

 

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