建設業の労務管理

建設業の労務管理
2021年3月 No.526

今、取り組まなくてはいけないこと

Photo・Text :
社会保険労務士法人アスミル
特定社会保険労務士 櫻井 好美

民間企業に7年勤務後、2002年櫻井社会保険労務士事務所(社会保険労務士法人 アスミル)を設立。
【主なコンサルティング・セミナー内容】
就業規則・労働環境整備、人事評価制度コンサルティング、賃金制度コンサルティング、退職金コンサルティング、働き方改革セミナー、管理職向け労務管理セミナー、建設業むけ社会保険セミナー、介護セミナー、WLBセミナー、女性の働き方セミナー、学生むけ働く前に知っておいてほしいこと 等

働き方改革について

2019年4月から働き方改革関連法案が随時施行され、2年が経過しようとしています。みなさんは、どれくらいまで取り組まれているでしょうか?建設業においては、時間外労働の上限規制が、他業種より5年遅れということで、まだまだ先のことと考えてはいないでしょうか?確かに、どこから手をつけていいかわからないかもしれませんが、確実に期限は迫っています。再度時間軸で追いながら、取り組めていないことを確認していきましょう。

働き方改革 今後のスケジュール(中小企業の場合)

 

チェック1 労働時間の整理

会社の所定労働時間は、法定労働時間(1日8時間1週40時間)内で設定されていますか?もしくは変形労働時間制を導入していますか?

「現場は土曜日もやっているから、週休2日なんてできないよ」という声が、未だ多く聞かれます。働き方改革は週休2日にすることではありません。まずは、法定労働時間と残業時間(時間外労働)をわけ、どこからが残業時間かを明確にする必要があります。始業および終業時刻の記録といった適正な時間管理をすることが第一歩です。出面表の会社は、出勤簿やタイムカード等の客観的な方法で時間管理をすることをはじめてください。時間管理が出来ている会社は、その記録時間は本当に労働時間なのか?をしっかり確認をしてください。とりあえずタイムカードは打刻してもらっているが、その打刻時間は本当に仕事終了の時間なのか?なんとなく会社にダラダラいて帰るときに押しているのか?正確に見極めることが必要です。2020年4月からは賃金債権の消滅時効は2年から3年へと変更になりました。ダラダラとした残業も、その時刻を会社が放置しておけば、万が一未払い残業代請求が来た場合は、その打刻時間で支払わなければなりません。賃金債権の消滅時効が伸びることで、今後は労使トラブルも多くなると想定されます。時間管理は会社の義務です。「勝手に残業していた」は通用しませんので、まずは適正な時間管理を徹底させていきましょう。

 

チェック2 有給休暇の年5日取得義務

有給休暇は年5日以上取得できていますか?

年次有給休暇の取得義務も2019年4月からスタートしています。現実的に、有給休暇の取得率の高い会社は、特に気にする必要はありませんが、今まで有給休暇を実施していなかった会社は、まず、有給管理簿の作成と有給休暇取得のルールを決める必要があります。有給取得率を上げるには、運用のルールを明確にすること、取得しやすい雰囲気をつくることが重要です。

  1. 個人別の有給休暇日数の把握と付与日数の通知
  2. 有給休暇管理簿の作成
  3. 半日休暇制度、時間単位の取得制度の検討
  4. 計画的付与の検討
  5. 運用ルール簡便化のため会社統一の基準日設定の検討 
  6. 取得の運用ルール決め

 

チェック3 残業代の支払い

日給制の方も残業代を支払っていますか?

日給制であっても残業代の支払いは必要です。もし、現在の日給には残業代も込みの日給だとするのであれば、いくらが所定労働時間分の日給で、いくらが時間外分の日給なのかを内訳明示をすることが必要です。また、今までの日給を時間外労働込みの日給にすることは、労働者の方にとって労働条件の不利益変更となり、個別の同意が必要になります。この取り組みをするのであれば、専門家の方を入れ、しっかりと説明をして導入することが大切です。

令和2年 日給単価表

また、2023年4月以降は1ケ月の時間外労働が60時間以上になると、時間外労働の割増率が25%から50%以上の支払いになるため要注意です。

 

チェック4 就業規則の作成

従業員が10名以上の会社の方は、就業規則を作成、届出をしていますか?

従業員が10人以上の会社は就業規則を作成し、事業所の管轄の労働基準監督署へ届出の必要があります。「他の会社の就業規則をもらった」と言って、他の会社の就業規則を使ったり、インターネットで雛形を取り寄せて作成しているケースをよくみます。確かにインターネットからの雛形は法定をクリアした規則となっているものが多いので、法律的には問題ないと思います。ただし、法定以上の記載がかかれているケースも多く見受けられます。いざトラブルが起きた時には、就業規則にもどってきますので、自社にあった就業規則を作成する必要があります。また就業規則ができるということは、会社の労務体制ができてくることにもなりますから、安心して働ける職場づくりの第一歩になっていると思われます。

 

チェック5 雇用契約書の作成

雇用契約書を作成し、書面で明示していますか?

雇用契約書は従業員の人数にかかわらず、労働条件を書面で明示しなくてはいけないことになっています。労働条件が明示されなければ従業員の方も心配です。安心して働いてもらうためにも、労働契約書の整備をしましょう。

雇用契約書

 

働き方改革への取り組みについて

働き方改革関連法案には、時間外労働の上限規制、年次有給休暇年5日取得義務等の取り組み等があります。建設現場では未だ日給制や、土曜日に現場が動いていることから、他の業種より取り組みが遅れている傾向があります。ただ気をつけて頂きたいのは、「働き方改革イコール週休2日」と思っている会社があり、先日訪問した会社も「働き方改革というから週休2日にしたら、残業代だけ増えて大変なことになってしまった」というお話を伺いました。「働き方改革」は生産性向上が目的です。生産性をあげるためには、現在の業務の見直しをしなくてはなりません。業務改善もないまま、休日だけ増やせば当然残業だけが多くなります。労働時間を削減して、現状の仕事量(売上)を確保する、いわゆる生産性をあげることが本来の働き方改革です。言葉では簡単ですが、会社の風土をかえることは短期間でできることではありません。焦らず、まずは自社の課題を洗い出し、優先順位をつけて順番に取り組んでいくことが成功の鍵となってきます。建設業だけでなく、日本全体が少子高齢化で働き手が少なくなっています。このような中で選ばれる会社になるには、労務管理体制を整えることが必須です。また、労務管理は1つのきっかけであり、これをスタートに会社の取り組みを考えていくことが大切です。今回の取り組みは会社を成長させるチャンスでもあるのです。何度も申し上げますが、まずははじめの一歩を踏み出してみましょう。

 

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