連載

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2021年10月 No.532

評価制度②

社会保険労務士法人アスミル
特定社会保険労務士 櫻井 好美

profile:
民間企業に7年勤務後、2002年櫻井社会保険労務士事務所(社会保険労務士法人 アスミル)を設立。
【主なコンサルティング・セミナー内容】
就業規則・労働環境整備、人事評価制度コンサルティング、賃金制度コンサルティング、退職金コンサルティング、働き方改革セミナー、管理職向け労務管理セミナー、建設業むけ社会保険セミナー、介護セミナー、WLBセミナー、女性の働き方セミナー、学生むけ働く前に知っておいてほしいこと 等

評価制度と運用

前回、代表的な評価制度について解説をしました。今回は、評価制度の運用について説明をしていきます。どんなに立派な評価制度を導入したとしても、正しく運用できなければ、社員の人たちにとっては単に負担のかかる作業が増えただけになってしまいます。評価制度には、賃金を決めることと、社員を教育していく役割があります。そのため、適切な運用ルール、公平な評価の仕組みを決めていくことが大切です。特に、評価をする管理職の人たちが、人によって評価が甘い人と厳しい人が出たのでは、部下にとっては不満です。そのため、評価をする人たちの基準をあわせるための考課者研修、評価者面談等の運用が重要です。

評価面談にあたってのポイント

管理職者が評価をする際の面談で大切なポイントがいくつかあります。面談の時だけに思い出すのではなく、日ごろから下記のような点に注意をしておくと面談がスムーズになります。

①よく見ること

これまで以上によく見るという意識で臨むことが、大切です。そして、部下に「しっかりと見られている」と思われれば上出来です。そのような上司が下す評価に対しては、納得性が高まるからです。

②具体的事例をメモしておくこと

誰が、いつ、どこで、何を、どのようにしたかという4W1Hが基本ですが、具体化しすぎると記述に手間がかかったり、整理が大変になったりしますので、後で思い出して面談の際に説明のできるようなメモで大丈夫です。メモは所定の様式があれば、それを使えばいいのですが、なければ手帳やパソコン等を活用していきましょう。

③悪いところだけでなく、良いところもメモすること

評価というと、どうしても短所ばかりに目が行きがちですが、長所をつかむことも忘れずにメモしておきましょう。フィードバックの際、誉めるネタがたくさんあると、悪かった点も指摘しやすくなります。

④イレギュラー時の対応に特に着目すること

トラブルのときやものすごく忙しいとき、普段やっていない仕事を任せたときなど、非日常的な業務への対応時には、部下の実力・特性が表れやすくなりますので、その仕事ぶりを注意深く観察しておいてください。イレギュラー対応時は評価対象事例の宝庫です。

⑤その場で誉めたり注意したりすることも忘れないこと

メモをとることとは別に、感じたことや気になったことで伝えるべきことはその場で速やかに言う必要があります。これは評価面談とは直接関係ありませんが、管理者の基本として留意しておきたいことです。何か月も経過した後のフィードバック面談の場で、「あの時は○○すべきだった」と改善を求められても、部下にはピンと来ません。できるだけ時間をおかずに伝えるのが、部下育成の定石です。

 

  主な業務: 外装・塗装業  
  従業員数: 20名

問題点

評価にばらつき?若手社員からは公平な評価を望む声が…

リーダーによって評価の仕方が違うと若手社員からクレームが…
自分の給与が関わっているので、公平に評価してほしいという要望があがりました。どうしたらいいでしょうか?

改善後

公平な評価を望む社員に対する解決方法とは?

①考課者研修の実施

社内体制として3つのグループに分かれているため、3人のリーダーを集めて、考課者研修を実施しました。考課者研修では、ケーススタディで同じ事象に関してどういう評価をするのか?を考えてもらい、また、どういう基準で評価をしていくのがいいのかを話し合ってもらいました。

 人事考課の陥りやすいエラー

ハロー効果・・・一点が良い(悪い)と、他の点も良く(悪く)見えてしまう。
寛大化傾向・・・自分の部下を甘くみてしまう。
対比誤差・・・・評価者と較べてしまう。
中心化傾向・・・「普通」に集中してしまう。
極端化傾向・・・S、A、B、C、Dといった5段階評価の場合にSやDが多くなってしまう。
遠近効果・・・・最近のことは大きく、何ヶ月も前のことは小さくなってしまう。
        例えば直近にミスがあると、そのことだけを大きく評価してしまう傾向がある。

②評価者会議の導入

会社の運用として、評価シート(前回の評価制度① https://www.shinko-web.jp/series/8767/ の事例で紹介)をもとに、半期に1回部下と面談をし、評価をします。それぞれ3つのグループのリーダーが評価したシートを持ち寄り「なぜ、そのような評価をしたのか?」を話し合いします。例えば、「勤務姿勢」という項目に対して、1人のリーダーは遅刻があったとの理由で部下の評価を下げ、他のリーダーは、遅刻に関して事前に電話連絡をしてきたということで、よい評価を与えました。どちらがいいというわけではなく、同じ遅刻という現象であっても、どう評価をするのか?をこの評価者会議で検討し、会社としての「基準」を決めていきました。今後は、評価者会議で出てきた案件を議事録として残し、評価マニュアルを作成していくことになりました。評価マニュアルができることで、新しくリーダーとなった人も迷わず評価ができるようになっていきます。

③「いいね」ポイントの導入

SNSで、相手の投稿がよかった時に「いいね」のボタンを押しますが、この会社でも評価をもっと楽しみながら定着させていこうということもあり、「いいね」ポイントを導入しました。これは、社員全員が「いいね」ポイントを半期で10ポイント会社から付与されます。業務に直接ではないけれど、いいアドバイスをくれた、部門は違うけど協力してくれた等お互いに褒めるときに「いいね」ポイントをつけていきます。使う際には、いつ、誰に、どんな内容に対して「いいね」を付与するのかを会社に申請し、半期ごとにポイントを集計して、全員に公表します。加えて会社では賞与にこのポイントを加味していく制度です。この制度の導入で、社内で協力しあう風土ができてきました。

● 今後の課題

評価が定着するにあたって、今後は評価項目の見直し等も検討していく必要があります。そして会社が育ってほしい人材にするための評価項目にしていくことで、管理職者は評価シートをマネジメントのツールとして使いこなせるようになることが次の課題です。

1.やり続けることが大切!!

評価制度を導入すると、必ずといっていいほど反発する人が出てきます。これは日常業務以外の負荷がかかるからです。会社は反発で止めるのではなく、ルール通りやり続けることが大切です。どの会社でも定着までには時間がかかります。

2.評価で人材を育成!!

評価は「人材育成」であることを忘れないでください。どうやったら評価項目がクリアできるようになるのか、面談を通して一緒に考えていきましょう。

 

3.評価面談での心構え

評価は、具体的事実(行動)に基づいて話をしていきましょう。そのためには、普段から行動をしっかりみていくことが大切です。

 

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