魅力ある建設業界へ

魅力ある建設業界へ
2021年6月 No.529

キャリアアッププラン

社会保険労務士法人アスミル
特定社会保険労務士 櫻井 好美

profile:
民間企業に7年勤務後、2002年櫻井社会保険労務士事務所(社会保険労務士法人 アスミル)を設立。
【主なコンサルティング・セミナー内容】
就業規則・労働環境整備、人事評価制度コンサルティング、賃金制度コンサルティング、退職金コンサルティング、働き方改革セミナー、管理職向け労務管理セミナー、建設業むけ社会保険セミナー、介護セミナー、WLBセミナー、女性の働き方セミナー、学生むけ働く前に知っておいてほしいこと 等

キャリアアップとは?

キャリアアップとは、特定の分野について専門的な知識を身に付け、能力を向上させて、自分の経歴・価値を高めることをいいます。最近の若年者の仕事に対する価値観として、その仕事がいかに自分のキャリアアップにつながるか?というところに重点を置く傾向がみられます。

若年者の退職理由

「若年者の離職理由と職場定着に関する調査」をみると、離職の決め手が、仕事上のストレス、給与や労働時間といった労務管理面の不満、それに加えて「会社の将来性・安定性に期待がもてない」といった理由があげられています。インターネットの普及により、労働環境が劇的に変化をする中で、すでに終身雇用という考えは神話化し、1つの会社に勤めあげる時代ではなくなってきました。そのような環境下で、働く人も「この会社で自分はどう成長していくのか?」「収入はどうなっていくのか?」といったことを早い時期に見極めていく傾向が強くなっています。そのため、若年者の離職を防ぐためには、会社も働く人に対して、標準的な成長モデル、給与水準等を提示していく必要があります。

(資料出所)労働政策研究・研修機構「若年者の離職理由と職場定着に関する調査」 (2007年)
(注1)前職については、非正社員を除く。
(注2)前職の離職理由については、回答数の多いもののみを記載。

人事管理システムの変遷

人事管理の話と、日本の歴史的背景には関連があります。古くは、戦後の日本にもどります。日本は高度成長期に入り、急速な経済発展をしてきました。この当時は「終身雇用」「年功賃金」が確立をし、長期雇用により、年齢・経験を積み上げていくことで習熟度が増していくという考え方でした。その後、1990年代に入りバブル経済の終焉を迎え、大量に採用された団塊世代が、管理職適齢期を向かえたのですが、ポスト不足と高い人件費という問題が顕在化してきました。そのため、今までのようにみんなが年功的に昇格して、処遇を高めていくことが不可能になり、そこで生まれたのが「成果主義」です。成果主義とは「成果を上げた者は処遇を確保するが、成果の上がらない者はそれ相応の処遇に下げる。」という考え方で、競争意欲を煽りながら、優秀な人材の選別をおこなってきました。そして、2011年頃からは、絶対的な人材不足という重大な問題に直面していきます。会社が社員を選別する時代は終わり、社員が会社を選別する時代に突入しました。そして現在は、「失われた20年」の親達をみて育ってきた子供の世代が社会人になり、彼等のモチベーションは「高い給与」より「安定した労働環境」を求める風潮が高まってきています。また少子高齢化による人材不足から、多様な働き方を導入せざるをえない状況になってきており、このような状況の中で、役割をより明確にした制度、職務給への傾向が強まってきています。

職能給と職務給

職能給とは、仕事をするために必要な能力(職務遂行能力)をベースにした制度のことをいいます。これに対して職務給とは、職務(仕事)ごとの具体的な定義を決めて、その評価に従って決めていく制度をいいます。職能給とは「人」にお金がはりつき、職務給とは「仕事」にお金がはりつくといった考え方です。

 

 某工務店 

  社員規模:12名

問題点

若い人が入職して喜ぶのも束の間。
すぐ退職してしまうのはどうしてなのでしょうか?

若い人は入ってくるのですが、すぐに退職してしまいます。離職理由をきくと「この会社にいても将来がみえない」と言われてしまいます。給与水準は低くないと思いますが、どうしていったらいいかわかりません。

改善後

職種・部門ごとに仕事の基準を検討し処遇をみえる化!
(年2回、上司との面談でキャリアプラン等についての意思疎通をはかる)

①成長モデルを検討

理想の社員像について検討をすることからスタートしました。会社には職種として、大工、施工管理、設計の3部門があり、それぞれの部門ごとに、経験年数に応じた会社の求める基準(会社での役割・仕事の能力)について検討しました。

そして、さらに成長過程として4つのレベルわけにしています。これは会社によって多く分けることもあります。

②キャリアイメージと給与との連動

社員のあるべき姿とそれに対してどれくらいの給与が妥当であるかを検討していきました。給与水準が低いわけではありませんでしたが、どこまでの仕事が出来ればどれくらいの給与が支払われるかを具体的に見える化していきました。この基準書を作成するためには、仕事にはどのような業務があるのかを洗い出しをし、業務内容に難易度をつけていきます。その上で、どのレベルで必要な項目なのかを決定していきました。この会社の場合、ベテランの大工さんに協力を得て、新人さんに教えるときにどのレベルから教えるか?ということを念頭において細分化して頂きました。またこの細分化した業務の洗い出しは、いずれ会社のマニュアルとなりますので、会社の業務を整理する上でも非常に大切です。

③面談ルールの決定

せっかく形をつくっても、運用されなくては意味がありません。この会社では、年に2回(6月、12月)この基準書に基づいて、上司との面談を実施することを決定しました。この面談では、自分がどの立ち位置にいるのか?何を頑張れば次のステップにあがれるのか?また何をやりたいのか?ということを面談で話をすることを決めました。

● 今後の課題

会社として、社員のキャリアアップの仕組みと求める基準については見える化ができてきました。今後は会社としても、社員としてのあるべき姿へ成長させていくための教育をしていかなくてはいけません。また、頑張った分が給与へしっかり評価をしていかないと不満の要因になってきます。今後は適正な評価の定着と教育体制の充実が検討課題です。

1.頑張った人が評価される仕組みを!!

キャリアアップの仕組みを作っても適正な運用をしていかなくては意味がありません。せっかく制度をいれても今までの年功に左右されていては、不満がでます。きちんと頑張った人が評価され、それが給与に反映できる仕組みが大切です。

2.評価者の教育がポイント!!

仕組みをつくって、いくら本人にヤル気があっても、評価をする人がそれをしっかり見極めてあげないと人は育ちません。評価の仕組みは賃金を決定する仕組みであると同時に、人を育てる仕組みでもあります。運用していくには、評価者の方の教育も必要です。

3.教育の体制づくりを!!

建設業の場合、多くの資格を必要とします。ステップアップのために必要な教育を洗い出してみましょう。その中で資格取得に関する教育については、助成金を活用できるケースもありますので、上手に活用していきましょう。

建設事業主等に対する助成金のご案内

URL:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000201717_00007.html

 

【冊子PDFはこちら

関連記事

しんこう-Webとは
バックナンバー
アンケート募集中
メールマガジン配信希望はこちら