日本経済の動向

日本経済の動向
2017年5月号 No.488

働き方改革が成長率を押し上げる

政府は2016年9月に働き方改革実現会議を創設し、「同一労働同一賃金」や「時間外労働の上限規制」など、9つのテーマの議論を重ね、今年3月に「働き方改革実行計画」を策定した。働き方改革は個人の生活の充実とともに、わが国経済の成長制約要因解消にとって重要な課題である。今回は、働き方改革がわが国経済に与える効果などについて解説する。

働き方改革が成長率を0.5~1.1%ポイント押し上げ

働き方改革は、日本が本格的な人口減少社会に突入するなかで問題となる、①労働力減少(→担い手の確保)、②最適でない労働時間(→ワーク・ライフ・バランスの実現)、③労働生産性の低迷(→労働の質の向上)といった成長制約要因の解消に向けた重要な議論である(かっこ内は政策の方向性)(図1)。そして、働き方改革においては、多岐にわたる課題に対応するパッケージでの取り組みが不可欠であり、労働投入量と生産性を高めるような、バランスのとれた施策の実現が必要である。
そのような働き方改革によって期待される効果を試算すると、わが国の実質GDP成長率は0.5~1.1%ポイント程度押し上げられ、その結果、人口減少による成長下押し圧力の大部分を打ち消すことが可能と見込まれる(図2)。自然体では、先行き10年間で労働投入量は年率0.8%のペースで減少し続けることになるが、幅広い改革の実現を通じ、労働投入量の落ち込みを抑制することで、生産性改善も期待される。
他方、持続的な経済成長(実質2%成長)のためには、更に少子化の克服や外国人材の活用、技術革新による第4次産業革命への取り組みが不可欠になる。第4次産業革命時代においては、持続的な経済成長を良質な雇用創出につなげていくための環境整備=「更なる働き方改革」が不可欠となる。

図1 持続的成長の阻害要因となる問題と背景となる働き方

 

図2 働き方改革によって期待される効果(試算)

求められる企業の積極的対応

以上のような大きな改革に対応するにあたって、各企業には単に受け身の立場ではなく、むしろこれを好機ととらえる視点も必要だ。そこでは人事制度の見直しや人材の有効活用のための従業員教育の充実など、働き方改革を通じた環境整備が求められる。同時に、新たなテクノロジーを最大限に活用する社会を実現するには、働き方改革の実現も重要になる。
今日のアベノミクスの成長戦略において働き方改革は重要な柱になっている。しかも、日本労働組合総連合会も含め、労働者側のニーズを取り込み、日本全体で成長に向けたインフラ作りを指向するベクトルがそろった状況にある。日本経済において誰もが認識する宿命的な悲観論は、少子高齢化による経済の停滞にある。こうした働き方改革による成長の底上げを地道に続けることが、日本に対する悲観を脱し、先行き期待を引き上げる上でも重要になる。

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