建設経済の動向

建設経済の動向
2026年2月号 No 575

八潮陥没事故から1年、インフラメンテ大転換へ

日経クロステック 建設編集長 佐々木大輔

埼玉県八潮市で発生した道路陥没事故は、日本のインフラ危機の深刻さを突きつけた。2026年は下水道法の改正をはじめ、インフラメンテナンスの抜本改革が始まる。安全・安心なインフラを再構築する切り札として、センシングやAI(人工知能)といった先端技術の導入が加速しそうだ。

社会を揺るがした埼玉県八潮市の道路陥没事故から1年。事故現場では、破損した下水道管を迂回させるバイパス管の設置が完了し、破損した管内に新たな管路を構築する作業が続く。通行止めとなっている県道は、2026年4月から暫定2車線での供用が始まる見込みだ。復旧に当たって県が計上した予算は、周辺住民や事業者への補償を含めて約280億円に上る。

この事故が浮かび上がらせたのは、全国で進行するインフラ危機だ。国土交通省が要請した下水道管の全国特別重点調査によると、2025年9月末時点で判明した要対策延長は、1年以内の対策が必要な「緊急度I」が約75km、応急措置を実施した上で5年以内の対応が必要な「緊急度II」が約243kmに上る。

埼玉県八潮市で陥没した県道の復旧工事の様子。2025年12月1日に撮影(写真:日経クロステック)

老朽インフラ対策は待ったなし。陥没事故を受けて、国交省が設置した有識者会議は2025年12月、「信頼されるインフラのためのマネジメントの戦略的転換」と題する第3次提言をまとめた。下水道に限らず、インフラ全般の維持管理について戦略的転換を訴える内容で、5項目から成る。提言を受けた金子恭之国交相は、「法令を含む諸制度を見直す検討を加速するとともに、必要な予算をしっかりと確保する。『八潮』のような事故を二度と起こしてはならない」と強調した。

国交省は2026年、下水道法改正を含めて管路メンテナンスを抜本的に見直す。老朽化対策の強化に加え、上下水道事業体の広域化や水道料金の適正化など、持続可能なメンテナンス体制の構築を目指す。さらにインフラ全般の対策具体化へ、社会資本整備審議会・交通政策審議会の技術部会に「インフラマネジメント戦略小委員会」を設置し、議論を進める予定だ。

鍵は「見える化」と「メリハリ」
センシング、AIの新技術に注目

インフラ管理転換のキーワードが、「見える化」と「メリハリ」だ。点検・調査・診断における新技術導入、市民への情報公開といった「見える化」、点検・調査の効率化、対策の優先度設定や計画的な集約・再編といった「メリハリ」が、新たなマネジメントの柱となる。

その実現には、先進的なセンシング技術など、DX(デジタルトランスフォーメーション)が不可欠だ。国交省は技術開発から社会実装、ビジネス化まで一貫して支援する体制を整えようとしている。民間の技術開発も始まっており、2026年はインフラメンテナンスの技術革新が進む1年になりそうだ。

先行する下水道分野では、ドローンによる下水管点検、人工衛星を用いた漏水調査やAI診断技術の導入がすでに始まっている。今後、注目されるのが光ファイバー技術の活用だ。NTTと産業技術総合研究所は既存の光ファイバー網を使って地中の空洞を検知し、道路の陥没リスクを早期に予測する技術を開発。2026年度の実用化を目指している。

システム分散化の動きにも注目が集まる。例えば、国交省が2024年度から始めた「上下水道一体革新的技術実証事業(AB-Cross)」では、水処理技術開発のWOTA(東京・中央)と石川県珠洲市が共同で「住宅向け小規模分散型水循環システムの地域展開」を実証中だ。従来の管路の代わりに、家庭ごと・地域ごとに水の供給や排水処理を完結させる。

インフラ全般で本格化しそうなのがAI活用だ。政府は2025年12月に「AI基本計画」を閣議決定。国交省もAIをインフラ整備・維持管理を持続するための「不可欠な戦略ツール」と位置付け、徹底活用する方針を打ち出した。現実世界でロボットを自律化させる「フィジカルAI」の活用に向けた開発や実証も推進する。

人口減少とインフラ老朽化が進む日本。2026年をメンテナンスの「大転換元年」と位置付け、官民連携の挑戦と現場の技術革新をいかに加速できるかが問われるだろう。

国土交通省の有識者会議の第3次提言で示されたインフラ管理転換の5つの方向(出所:国土交通省の資料を基に日経クロステックが作成)

 

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