現場の安全12か月!
9月 高年齢者の労働災害防止―一人ひとりの体力、健康状態を踏まえる
建設現場での安全活動は日々行われているものの、それでも起きてしまう事故。
本稿では、四季の移り変わり、年中行事、1年の流れなどを踏まえ、毎月のテーマを掲げ、重点的に安全活動を行うことを提案するものです。現場の安全活動をより活発化させましょう!
9月 高年齢者の労働災害防止―一人ひとりの体力、健康状態を踏まえる
働く高年齢者は増加傾向にあり、令和6年の65歳以上の労働人口は、平成27年に比べ26.8%も増加しています。また、60代後半の死傷者数は、最も労働災害が少ない30代前半の2倍以上にのぼり(令和5年の死傷年千人率(男性))、被災の主な原因に、加齢に伴いバランス感覚、敏捷性、疲労回復力などの心身機能の低下があげられます。
難しいのは、高年齢になると心身機能、健康状態の個人差が拡大するため、それぞれへの的確な対応も異なることです。通称「エイジフレンドリーガイドライン」(厚生労働省・令和2年3月)では、そのポイントとして、高年齢者一人ひとりの体力や健康状態を把握し、それを踏まえた対策について示しています。
なお、改正労働安全衛生法では、高年齢者に対する労働災害防止措置が、来年4月から事業者の努力義務となり、今後、講じるべき指針も公表される予定です。被災の要因を理解し、企業や現場が一体となって取り組むことが求められます。
高年齢者の被災が多い主な要因は“心身機能の低下”
高年齢者に多くなる心身機能の低下と、これに起因する被災等の特徴には下記のようなものがあります。
対策例
■ ハード対策
「バランス感覚が低下し、すべると転倒しやすい高年齢者は耐滑性に優れた靴を履く」、「脚筋力の低下で足があまり上がらない高年齢者をつまずき転倒から守るためには、つまずきそうな段差などをなくす」などのハード対策が有効です。これは高年齢者に限らず、すべての労働者の安全確保に役立ちます。
■ 身体的要因を踏まえた対策
高年齢者については、ハード対策に加えて一人ひとりの身体的要因を踏まえた対策が求められます。
対策事例を以下に紹介します。
事例 体力チェック等(転倒等リスク評価セルフチェック票)
身体的要因を明らかにするには体力チェックが必要です。厚生労働省「転倒等リスク評価セルフチェック票」※は、転倒等リスクに対する客観評価(体力チェックによる)と主観評価(質問票による)を比べることにより、転倒等リスクの危険度を測るものです。体力が衰えているにもかかわらず、若い者には負けないと無理をする高年齢者は転倒等リスクが高くなりますが、このような人を見出し、リスクの高さを気づかせ、自覚を促し慎重な行動に努めさせるものです。
体力チェック(身体機能計測)には、2ステップテスト(歩行能力・筋力)、座位ステッピングテスト(敏捷性)、ファンクショナルリーチ(動的バランス)、閉眼片足立ち(静的バランス)、開眼片足立ち(静的バランス)があります。
事例 転倒予防体操等
高年齢者に多い転倒災害は、バランス感覚、脚筋力、股関節の柔軟性の低下などが関係しますが、それらを改善するため、現在、様々な転倒予防体操が開発されています。例えば、医師、理学療法士などが監修し転倒防止効果が認められたことを論文で発表された「アクティブ体操」(JFEスチール)※があります。
これらの体操を継続的に実施することで、筋骨格系疾患による休業日数が減少し、転倒災害発生件数も減少傾向にある論文も発表されています。
※【アクティブ体操®】(Part Ⅱ(JFEスチール)動画(約5分))
高年齢者に多い転倒しやすい姿勢(背中が丸く骨盤が後傾し、股関節が開かず足首が固いなど)の改善を目的とした運動で構成(10種目)。
*建設業振興基金でも、「けんせつ体幹体操」(初級編・上級編)(平成28年)を製作しています。転倒予防には、片足上げなどバランスを重視した体操がある初級編がおすすめです
事例 現場の健康対策
ある大手ハウスメーカーでは、建設業労働災害防止協会が推進する「健康KY」に基づき、朝礼時、職長が作業員に対し健康状態に関する問いかけをし、体調に不安がないかなどを確認しています。基礎疾患を有していたり、疲労回復力がかなり低下したりしている高年齢者には有効な取組みです。
※(一社)住宅生産団体連合会「低層住宅建築工事安全衛生ガイド これからの新しい労働災害防止対策 会員企業の取り組み好事例」
高木 元也 (たかぎ もとや)
独立行政法人労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所 安全研究領域特任研究員 博士(工学)
名古屋工業大学卒。総合建設会社にて施工管理(本四架橋、シンガポール地下鉄等)等を経て現職。現在、建設業労働災害防止協会「建設業における高年齢就労者の労働災害防止対策のあり方検討委員会」委員長等就任。
[主な著作等]NHKクローズアップ現代+(あなたはいつまで働きますか?~多発するシニアの労災他)、小冊子「現場のみんなで取り組む外国人労働者の災害対策・安全教育」(清文社)他。
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