事業承継

事業承継
2018年4月号 No.497

事業承継の重要性について(今なぜ事業承継なのか?)

藤原コンサルティング 代表 藤原 一夫
大手建設会社に30年勤務し、現場所長、内勤管理職を経て、藤原コンサルティングを設立。東京都、神奈川県等の中小企業再生支援協議会で建設関連の専門委員を務める。中小企業診断士・1級建築士・1級建築施工管理技士。一般社団法人建設業経営支援協会理事長。

連載開始にあたり

地域の「再生支援協議会」の専門家として、地域支援協議会発足当初(15年前頃)から建設業関連企業を中心に事業再生支援業務等を70件ほど担当した案件で、業績回復と併せて事業承継を実施したケースの中から、「成功事例」、「失敗事例」をあげながら、これからの建設業経営について考えて行きたいと思います。
1回目となる今回は、今なぜ「事業承継」が、中小建設企業の現経営者の課題として最重要業務の一つと捉えるべきかを説明させていただきます。
第2回は「事業承継の手順について」私見も交えてご説明し、3回目以降は、「成功事例」、「失敗事例」、「現在支援中の事業承継事例」等について紹介します。
自社の事業承継計画作成~実践等に既に取り組まれている経営者や今後取り組まなければ、と考えておられる経営者の方々等のご参考にしていただければ幸いである、と願い連載させていただきます。

大企業における状況

後継者育成に関しては中小企業だけの問題ではなく、大企業でも多くの問題があることが経済産業省の調べで明らかになっています。平成30年3月6日付日本経済新聞の記事によると、次期後継者人材が豊富なはずの大企業でも、3年前に「企業統治指針」で明示された後継者計画書を作成している企業は11%程度に留まっているのが実態のようです。(私は、現経営者への配慮が大きく影響しているのではないか、と分析しています。)
欧米では、「経営の業務も一つの機能」として考えられていて、次期経営者は他社、他業界等で実績のある人をスカウトし、CEO(最高経営責任者)として迎えるのが一般的です。日本企業も事業再生で外国人CEOを迎えて成功した日産自動車等の例もありますが、失敗した企業の方がはるかに多くなってきています。うまくいかない原因は、文化(農耕民族と狩猟民族)の違いではないかと思いますが、国際化の進展が著しい大企業においては、今後、経営陣の中に外国人を加えていくことは必要不可欠であると思います。

中小企業における確実な選択とは

しかし、日本の地域建設企業は日本文化そのものの面があります。しっかりと自社で「次期経営者」を育て、「事業承継」を実現することが「確実な選択」であると思います。
現経営者の多くは、自分の代で増えてしまった「借金」を自分の代で返済してから「事業承継」をしようと考えていますが、「借金」をゼロにして引き継ぐことができても、後継者の選定~育成に充分な力を割かないと、時間切れのまま、育成途中等の能力不足の状態で後継者に引き継ぐことになり、数年で「借金」が元の倍になってしまう可能性もあります。優秀な後継者を選定⇒育成して引き継ぎ、自分が実現出来なかった業績の回復と数年後の「借金」完済を目指した方が合理的です。人(特に若い人)は指導・教育環境で変わるのです。自分で教育するか、他者に任せるか等手段は問いませんが、現経営者が最後の経営者責任として取り組むべきは「次期経営者の教育」である! と認識すべきです。

中小企業白書のデータが示すもの

現在の日本は、人口減少の中、建設業だけでなく各産業において人手不足が年々深刻な経営課題になりつつあります。2017年版の中小企業白書の中では、「人手不足」と「事業承継」を大々的に取り上げています。白書と白書概要版からいくつか気になるデータを取り上げ、それらが示すものについて考えてみましょう。
図1は、中小企業経営者の年齢分布のピークですが、この20年間で47歳から66歳と19歳も高齢化したことは驚きで、正に日本の高齢社会を映しているともいえます。

図1 中小企業の経営者年齢の分布(年代別)

図2からは、同じ中小企業でも比較的規模が大きい方が、人材確保がしやすい状況にあることが覗えます。建設業界でも、近年の社会保険加入問題、生産性向上のための設備投資、受注平準化のための営業力強化、労働時間規制への対応、技術・技能の伝承等々を考えると、ある程度の企業規模がないと対応しきれない状況が年々増大してくるように思われます。

図2 従業者規模別雇用者数の推移

さらに図3、中規模法人の事業承継者の1/3が「親族外承継」となってきた事実から、今後、中小企業においても後継者選びにおける「能力重視」の傾向が強まってくると見ることもでき、今後、現経営者が後継者を選定する際の参考になると思います。

図3 後継者選定状況・親族外承継の現状(中規模法人)

※図はいずれも「2017年版中小企業白書 概要」から

経営の本質とは

我が国の加速度的な人口減少は、あらゆる産業の経営革新を要求します。かつての雑貨屋さん、酒屋さんはコンビニチェーンに変貌し、現在も変貌し続けています。生活用品の供給にとどまらず、金融サービス、行政サービス、宅配サービス等々、地域のサービス拠点へと業態転換しています。また、家電量販店等も住宅など建設業界の仕事に進出しています。こうした現状から今後の生産性革命が必要な日本において、地域建設企業が大いに参考にすべき経営戦略が既に多く存在している、と思います。経営とは「時代の変化に合わせた経営体を構築し利害関係者に貢献すること」です。自分自身で「変革の時代を生き抜く意欲が低下しているな」とか、「そろそろ疲れてきたな」、「年齢的に…」と感じたら、早期の後継準備に取りかかってはいかがでしょうか?

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