建設経済の動向
地震と豪雨、能登を襲った時間差の「複合災害」
能登半島地震の被災地を襲った記録的豪雨。河川氾濫や土砂崩れが多発し、道路が寸断されるなど被害が拡大した。地震発生後に建設された仮設住宅の浸水被害も発生。複合災害への備えの脆弱さが改めて浮き彫りになった。本稿執筆時点で判明している被害状況を踏まえつつ、今後の対策を考えたい。
2024年9月20日から約3日間にわたって日本海側を中心に降り続いた記録的な豪雨は、能登半島地震の被災地に甚大な災害をもたらした。河川氾濫や土砂崩れが多発し、石川県内では死者14人を出した。度重なる被災で復旧・復興の遅れが懸念される。
国土交通省の集計によると10月4日時点、石川県が管理する21水系28河川で氾濫による浸水被害が発生。うち2カ所で堤防決壊を確認した。土砂災害は石川県内で62件起こった。大雨特別警報が出た輪島市と珠洲市、能登町の3市町で特に被害が大きく、道路の寸断や集落の孤立も相次いだ。
輪島市町野町では中心部を流れる鈴屋川が越水し、集落に泥水や流木が流れ込んだ。様子を見に来た住民は日経クロステックの記者にこう話した。「地震で壊れた家を建て替えるため、更地にしたばかりだった。大量の泥やがれきが積もっており、どうしたらいいのか分からない」
土砂災害の多くは、地震で生じた地盤の亀裂や緩みによって引き起こされた可能性が高い。町野町の上流部では地震によって斜面崩壊が多数発生しており、大雨で再崩壊したと見られている。時間差で発生した複合災害が、被災者の生活再建を阻んでいる。
能登半島地震の復旧工事現場でも被害が相次いだ。護岸の損壊などで国交省が県からの権限代行を受けて復旧を進めている珠洲市の宝立正院海岸では、工事用道路の仮設材の大型土のうが約20mにわたって流出した。
輪島市の国道249号中屋トンネルでは、坑口付近で大規模斜面崩壊が発生。復旧工事に当たっていた建設会社社員1人と近くに住む住民1人が死亡した。同トンネルは9月25日に一部車両の通行を再開する予定だった。
地震後に建設された応急仮設住宅では浸水被害が多発。住民はさらなる避難を余儀なくされた。床上浸水があった6団地のうち、4団地は浸水想定区域や土砂災害警戒区域に立地していた。背景には、中山間地が多い能登半島では平らな土地が少なく、用地の確保が難しいことがある。石川県内に建設された仮設住宅159団地のうち54%が災害リスクのある土地に位置することも判明している。
気候変動で高まる災害リスク
複合災害への備え強化を
地震と豪雨による二重被災は防げなかったのか。地震発生後、能登の被災地ではインフラ・ライフラインの復旧に時間を要し、建物の公費解体の遅れが目立つなど、対応が後手に回っている。今回の複合災害から得た経験、教訓を踏まえ、災害対応の在り方を随時見直していく必要があるだろう。
複合災害は全国どこでも起こり得る。南海トラフ地震や首都直下地震といった巨大地震の発生が懸念される中、気候変動の影響で水害や土砂災害などのリスクが高まっている。連鎖、複合する災害に対し、備えを強化することが喫緊の課題となっている。
2024年10月に発足した石破茂内閣は「防災庁」の設置準備など災害対策の強化を打ち出した。実像はまだ見えないが、具体化に向けた動きに注目したい。
輪島市町野町の集落に泥水が流れ込んだ様子。地震で壊れた家屋などにも押し寄せたと見られる。2024年9月25日撮影(写真:下も日経クロステック)
鈴屋川に架かる五里分新橋から上流部を見る。橋には大量の流木が引っかかっている。
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