日本経済の動向
過去最大に開いた大企業と中小企業の収益力格差
日本の株価が最高値を更新する裏側で、大企業と中小企業の収益力格差が広がっている。中小企業の業績も改善しているが、大企業との格差拡大は、将来にわたる問題を生む。そこで今回は、企業規模間の収益力格差が拡大した要因を整理するとともに、今後を展望し、格差拡大がもたらす問題と対応策について解説する。
好業績を背景に株価は最高値を更新
今年2月、日経平均株価はバブル期につけた高値(1989年12月29日終値、38,915円87銭)を34年ぶりに更新し、翌3月には初の40,000円台に乗せた。
株価上昇の背景には、企業業績の好調がある。製造業では、コスト上昇分の国内の価格転嫁が進んだことに加えて、円安による輸出採算の改善、海外子会社からの受取配当金の増加などが業績を押し上げた。非製造業も、コスト上昇分の販売・サービス価格への転嫁、インバウンド旅行者の急回復などが要因となり、全般に好業績を記録している。法人企業統計調査(財務省)によれば、2024年1~3月期の経常利益(季節調整値)は、製造業・非製造業ともに過去最高を更新した。
過去最大に開いた企業規模間の収益力格差
その裏で、大企業と中小企業の収益力格差が鮮明になっている。同じく法人企業統計調査によると、2023年度の売上高経常利益率は大企業(資本金10億円以上)で10.6%、中小企業(資本金1,000万円以上1億円未満)では4.7%であった。中小企業の利益率も過去最高なのだが、大企業の収益力向上により、売上高経常利益率の差は約6%と過去最大に開いた。製造業・非製造業とも、大企業の方がコスト上昇分を販売・サービス価格に転嫁できたことに加え、製造業を中心に大企業の方が円安メリットを受けやすかったことなどが、格差拡大の要因になっている。
春闘賃上げ率の格差も拡大
収益力の差は、賃上げ余力の差にもつながる。2024年の春闘賃上げ率は5.10%(連合集計ベース)に達し、1991年以来33年ぶりに5%を上回った。このうち組合員数300人以上の企業の賃上げ率は5.19%、同300人未満の企業の賃上げ率は4.45%となっている。その差0.74%は、同一の基準でさかのぼれる2013年以降で最大である(春闘賃上げ率が5%を上回っていたバブル期は、企業規模別の利益率・賃上げ率の差が小さかったため、2024年の差は過去最大である可能性が高い)。
大企業と中小企業の格差が生む問題
先行きの経済環境を踏まえると、大企業と中小企業の収益力や賃上げ率の格差は、拡大しやすくなると予想される。固定費(売上の増減に関係なく発生する費用)のうち、代表的な費目である利払費や人件費の増加の影響が、中小企業ではより大きくなると想定されるためだ。
まず、利払費に関しては、すでに日銀がイールドカーブコントロールを廃止し、マイナス金利を解除したことにより、長期金利は1%近傍まで上昇している。政策金利の引き上げも近づいているとみられ、それは企業規模間の収益力の格差を拡大する要因となる。すなわち、大企業はこれまで有利子負債を削減してきたこと、受取利子も相応に大きいことから、金利上昇の悪影響を受けにくい。一方、中小企業は大企業に比べて借入金への依存度が高く、利払費の増加は業績の圧迫要因となる。
また人件費に関しては、人手不足の影響で、継続的に増加する可能性が高まっている。中小企業は最低賃金引き上げの影響をより強く受けるほか、一般に大企業に比べて労働集約的であることから、人件費の増加が業績を圧迫する度合いも大きい。
以上を踏まえると、企業が労働者に提示できる賃上げ率について、今後ますます大企業と中小企業の格差が開いていくと予想される。それは、大企業が人材獲得の面でより有利になることを意味し、さらなる収益力の格差につながりかねない。つまり「格差の再生産」とも言うべき状況が常態化し、企業の規模間格差が開き続けてしまうということだ。雇用の約7割は中小企業が担っており、大企業の労働者との間で所得格差が拡大することにもなる。
それを避けるには、中小企業の収益力向上を図るべく、M&A促進などの政策支援、金融機関による支援を強化する必要がある。各企業レベルでもソフトウェア投資や人材投資を通じて収益力を改善することにより、高い賃上げ率を実現すると同時に、賃金以外の労働条件(リモートワーク推進による仕事と育児の両立しやすさなど)を改善して、人材確保に努めることが求められよう。
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