建設経済の動向

建設経済の動向
2024年7・8月号 No.560

「脱炭素住宅」開発競争、3Dプリンター住宅も

日経クロステック 建設編集長 佐々木大輔

2025年4月、すべての新築住宅に省エネ基準への適合が義務化される。環境性能向上に対する関心がますます高まる中、一歩先行く「脱炭素住宅」が続々登場している。これからの住宅はどこに向かうのか。3Dプリンター住宅、オフグリッド住宅といった先端事例から読み解く。

土でつくる3Dプリンター住宅——。熊本県山鹿市にある住宅会社、Lib Work(リブワーク)が2024年1月に発表したモデルハウス「Lib Earth House “modelA”」が、国内初の事例として話題を呼んでいる。

建物は円筒形の平屋で、高さ約3m、延べ面積約15m2。構造体は木造で、建設3Dプリンターで非構造部材の土壁を印刷した。イタリアWASP製の建設3Dプリンターを使用。材料の開発や構造の検討などは英Arupの東京事務所が関わっている。使用した主な材料は土、もみ殻、わら、石灰などの自然素材で、セメントを配合した。二酸化炭素(CO2)排出量を可能な限り抑える方法を模索したという。土壁の印刷時間は延べ72時間だった。

リブワークは今後、延べ面積100m2程度の新たな3Dプリンター住宅の開発を進める。2025年にも販売を始める計画だ。瀬口力社長は、「米テスラが『未来のクルマ』を世界に示したように、『未来の家』を提案したい」と意気込む。

 

太陽光発電や蓄電で自給自足
参入相次ぐ「オフグリッド住宅」

こうした取り組みの背景には、断熱や省エネといった環境性能に対する消費者の関心の高まりがある。2025年4月の改正建築物省エネ法の全面施行によって、住宅を含む新築建築物の省エネ基準適合義務化がいよいよスタート。これに先立つ2024年4月には、新しい「建築物の省エネ性能表示制度」が始まった。

一方、足元の住宅市場は物価上昇に伴う消費者マインドの低下で、新設住宅着工の冷え込みが長期化する懸念が強まっている。厳しい事業環境が見込まれるなか、いかにして差別化するか。「超高断熱住宅」「ZEHリノベーション」といった脱炭素を切り口にした新タイプの住宅が続々と登場している。

なかでも注目を集めているのが「オフグリッド住宅」だ。太陽光発電設備や蓄電池、水処理システムなどを搭載し、電力やガス、上下水道などの公共インフラに頼らず居住できる住宅を指す。インフラから独立しているが故に、建てる場所を選ばないのが売り。エネルギー価格や資源価格の高騰を背景に、大手企業やスタートアップ企業の参入が相次ぎ、急速に進化を遂げている。

例えば、「無印良品の家」を展開するMUJI HOUSE(東京・文京)は「インフラゼロでも暮らせる家」の実用化を進めている。試作版が千葉県南房総市で完成し、2024年5月から一般参加者による1〜3泊程度の宿泊実験が始まった。木造トレーラーハウスを2台組み合わせた住宅で、居住ユニットは高気密・高断熱仕様。屋根や壁と一体化した太陽光発電設備を設置し、蓄電池や水循環システムも備える。カーボンゼロ、災害リスクゼロの実現などを目標に掲げており、2025年の実用化を目指している。

不動産サービス大手のLIFULL(ライフル)のグループ会社LIFULL Financial(東京・千代田)など4社は2024年4月、栃木県那須町にオフグリッドのグランピング施設を開業させた。ミサワホームが開発したトレーラーハウスを採用し、太陽光発電システムやV2H(Vehicle to Home)スタンドなどを搭載する。このほかソフトバンクとスタートアップ企業のWOTA(ウォータ、東京・中央)も、伊豆諸島の利島でオフグリッド型居住モジュールの実証実験を進めている。

脱炭素をめぐっては、省エネ基準適合義務化以降も、ホールライフカーボン算定の制度化や、新築におけるZEH義務化などが控えている。不動産協会が「建設時GHG(温暖化ガス)排出量算定マニュアル」を策定するなど、民間主導の動きもある。こういった制度や社会情勢の動きと併せ、脱炭素住宅の開発競争が急加速しそうだ。

Lib Workが開発した3Dプリンター住宅「Lib Earth House “modelA”」。土を主原料とした材料を積層して造形した。建物内部には、木や土などの自然素材に囲まれた空間が広がっている(写真:日経クロステック)

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