日本経済の動向

日本経済の動向
2024年6月号 No.559

米国の消費者が従来以上にインフレ・金利に敏感に反応

米国では好景気が続いているが、消費者心理は低空飛行を続けている。米国の消費者心理には党派性があることが知られているが、深刻な政治的分断が消費者心理低迷の原因ではなく、意外にも、コロナ禍当初のショックが未だに残っているほか、長年の低インフレと低金利に慣れていた消費者が、高インフレ・高金利に敏感に反応していることが原因だ。今回は、米国の消費者心理の動きについて解説する。

好景気の下、低空飛行が続く米国の消費者心理

米国では11月に大統領選が行われる。選挙が近づくとニュースで見聞きすることが増えるのが、「悲惨指数」(ミザリー指数)と呼ばれる経済指標である。失業率とインフレ率を単純に足し合わせたもので、大統領選の文脈では、政権の経済運営の評価指標として用いられる。

悲惨指数が注目されたのは、1976年の大統領選だ。当時、米国経済は高インフレと高失業というスタグフレーションに見舞われていた。民主党の大統領候補者だったカーター氏は、「フォード政権下の悲惨指数は平均16%に達し、過去半世紀で最悪の大統領」と批判し、大統領選に勝利した。4年後、カーター政権下では悲惨指数が20%を超え、レーガン氏の勝利の一因となったのは歴史の皮肉と言えるだろう。

一方、足元はどうか。悲惨指数は2022年6月に12.7%まで上昇したが、今年2月時点では7.1%まで低下した。コロナ禍前の10年間の平均値8.0%と比べれば、良好な水準と言えるだろう。こうした悲惨指数の低下に見られるように、米国経済は成長を続けているが、一部の指標では好景気とは思えない動きがある。それは米国の消費者心理だ。米国ミシガン大学が調査・公表している米国消費者態度指数の推移をみると、コロナ禍前の2019年の平均値を100として、今年3月時点でも80台に留まっている。

 

政権交代と共に起きる「気分の入れ替わり」

米国消費者態度指数には、支持政党の大統領であるかどうかで水準が異なるという党派性がある。すなわち、米国消費者態度指数を、共和党支持者と民主党支持者に分けると、共和党の大統領なら共和党支持者の指数が高くなり、民主党の大統領なら民主党支持者の指数が高くなる。平時はそうした「気分の格差」を保ちながら、両者はパラレルに動く。しかし、大統領選挙の年と翌年にかけて政権交代が起きると、新大統領の政党を支持する消費者の指数が上昇、対立政党を支持する消費者の指数が悪化し、両者の水準が入れ替わる。

景気動向とは無関係に、政権交代に伴って、支持政党によって消費者心理が変動するのである。例えば、オバマ大統領からトランプ大統領への移行では、民主党支持者の指数が低下、共和党支持者の指数が上昇し、上下関係が入れ替わった。次のトランプ政権からバイデン政権への移行時には、その逆のことが起きている。

米国の政治的分断の深さが、消費者心理にまで表れるのであるが、こうした「党派的な気分の入れ替わり」は、指数全体でみれば相殺し合う動きとなっている。そのため、政治的分断が、好景気下でも続く米国消費者心理の低迷の原因というわけではない。

 

米国消費者の心理にはコロナショックが残存、物価・金利への反応も敏感に

米国の消費者心理低迷の背景としては、意外にも、未だにコロナ禍のショックが持続していることと、インフレ・金利に対する反応が敏感になっていることが指摘できる。

コロナ禍初期、米国消費者態度指数は支持政党に関わらず大きく悪化した。このときのショックが、今なお消えずに残っている。コロナ禍は米国の消費者心理にそれほど深い傷を残している。

また、2008年のリーマンショックを境に、米国の消費者は、以前よりもインフレと金利に対して敏感に反応するようになった。長期の低インフレ・低金利に慣れ、以前であれば反応を見せなかった低い水準のインフレや金利上昇にも、米国の消費者は敏感に反応するようになった。そうした反応が、高インフレと高金利で顕著に表れているのである。

高インフレ・高金利は低所得層に負担が集中

高インフレ・高金利の下で、米国の消費者心理の低迷が続いても、米国経済は力強く拡大してきた。しかし米国経済に死角がないわけではない。高インフレ・高金利は低所得層への負担が大きく、その生活水準は悪化してきており、彼らを顧客に持つ米国の小売業の業績に影響が及び始めている。自動車ローンでは、信用度が低いサブプライム層の延滞率が、過去30年で最悪となっている。

米国大統領選本番に向け、「経済」は争点としての重要度を増していきそうだ。

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