建設経済の動向

建設経済の動向
2024年5月号 No.558

新耐震でも危険、2000年以前の木造住宅

2024年能登半島地震では、11万棟を超える住宅に被害が出た(4月5日時点)。被害状況を詳しく見ると、1981年以前の旧耐震基準で建てられた古い住宅だけでなく、接合部の仕様などを明確にした2000年より前の新耐震基準の住宅でも被害が出ている。「新耐震なら安全」という常識は見直しを迫られている。

能登半島地震の被災地では、低層木造住宅を中心に建築物の倒壊や損壊が多発した。被害が広がった要因の1つに、この地域での耐震化率の低さが挙げられている。1981年以前の旧耐震基準の古い建物が多かった上、住民の高齢化が進んでおり耐震改修が遅れていた。

では、一般的に「耐震性あり」とされる1981年以降の新耐震基準の木造住宅に被害がなかったかというと、そうではない。被害の分かれ目は2000年だ。日経クロステックが現地を取材したところ、現行の耐震基準、いわゆる「2000年基準」を満たす木造住宅は外観上ほぼ無被害。一方、2000年改正以前に建てられた新耐震基準の木造住宅の一部には倒壊したものがあった。

金沢大学の村田晶助教は、今回の地震発生直後に現地調査を実施。石川県珠洲市正院町の木造住宅約100棟を調べた。村田助教は2000年基準の建物被害は軽微に見えたとしつつ、「全壊した40棟ほどのうち半数が1981年以降に新築・改築したものだった」と説明する。

1981年〜2000年の時期は、住宅耐震化に取り組む実務者の間で「新耐震グレーゾーン」と呼ばれている。この時期に建てられた木造住宅は、接合金物が不足していたり、耐力壁の配置バランスが悪かったりして、耐震性が不足しているケースがある。能登半島地震の被災地でも、その脆弱性が露呈した格好だ。

国土交通省は能登半島地震の被害状況の分析を進め、現行の耐震基準の妥当性を検証する方針だ。日本建築学会と共同で、被害が大きかった珠洲市や輪島市、穴水町などで悉皆調査を進めている。2024年秋ごろに検討結果をまとめる予定だ。今後、新耐震グレーゾーン住宅に対策を講じるかどうかも焦点になる。

 

東京都内に約20万戸と試算
新耐震グレーゾーン対策が始まる

新耐震グレーゾーンの問題がクローズアップされる契機となったのは、2016年の熊本地震だ。日本建築学会が熊本県益城町で実施した調査では、1981年〜2000年に建てられた木造建築物877棟のうち8.7%(76棟)が倒壊・崩壊した事実が判明し、業界にショックを与えた。

「新耐震なら安全」という常識を見直し、国に先んじて対策に取り組む自治体も出て来た。東京都は2023年度から新耐震グレーゾーン住宅の耐震化への助成を始めた。都は新耐震基準の住宅のうち約20万戸について耐震性が不足していると試算している。2024年1月時点で都内11区市が制度を導入しており、2024年度はさらに増える見通しだ。助成件数はまだ少ないが増加傾向にあり、いずれ耐震化助成の主軸が新耐震グレーゾーンに移ることが予想される。

木造住宅の耐震対策は道半ば。近い将来、首都直下地震や南海トラフ巨大地震など大地震の発生も懸念されている。災害に強いまちづくりへ、従来の取り組みから一歩踏み込んだ対策が求められている。

能登半島地震で倒壊した、石川県穴水町にある木造戸建て住宅。プレカットの加工などから、1981〜2000年に建てられた新耐震基準の建物と見られる(写真:2点とも日経クロステック)

倒壊した戸建て住宅の土台付近。土台と基礎は金物で固定されている。柱脚部にホールダウン金物などが見当たらない

東京都は2000年以前に建てられた新耐震基準の住宅のうち、耐震性がないものが約20万戸あると試算している(出所:東京都の資料を基に日経クロステックが作成)

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