連載

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2017年12・2018年1月号 No.494

かわいい土木 家康の瀬替えが生んだ“野外アート”

今回は、埼玉を流れる元荒川の支流に架かるドボかわいい橋を見て回った。田園地帯の小川にかかる小さな古い橋ながら、凝った意匠が施され、「野外アート」と評されているものもある。意外なことに、その生い立ちを遡ると、徳川家康の大事業「荒川西遷」が関わっていた。

Photo・Text : フリーライター 三上 美絵
大成建設広報部勤務を経てフリーライターとなる。「日経コンストラクション」(日経BP社)や土木学会誌などの建設系雑誌を中心に記事を執筆。広報研修講師、社内報コンペティション審査員。著書『土木の広報~『対話』でよみがえる誇りとやりがい~』(日経BP 社刊、共著)


アーチ・アーチ・アーチ・三角、アーチ・アーチ・アーチ・三角……と規則正しく穿たれた高欄の穴。ヨーロッパの古城のバルコニーみたいにメルヘンチックでドボかわいい。堀切橋は、埼玉県を流れる元荒川の支川・忍川に架かる橋長20mに満たない小さな橋だ。
橋台は鉄筋コンクリート、桁は鋼材でできている。橋脚のようにみえるのはラーメン構造の橋台で、流水側がアーチ型にくり抜いてある。近づいてみると、橋台の頂部や高欄の中柱の上には半球が載り、親柱の上部にも不思議な形の装飾が付いている。

堀切橋の全景。橋台は軟弱地盤に強いラーメン構造になっている。橋名は、戦国時代に石田三成が行田の忍城を水攻めした際、この近くで堀が切れて失敗したことに由来するという。

ちょっと切ない元荒川の生い立ち

堀切橋が完成したのは1933年。大正末から昭和初期にかけて埼玉県が実施した「元荒川支派川改修事業」の一環として建設された。
元荒川はその名が示す通り、元は荒川の本流だった。徳川家康の大胆な瀬替え事業「利根川東遷、荒川西遷」によって、荒川が上流の熊谷市で締め切られ、現在の流路になるまでは――。
家康は頻発する洪水から江戸を守るため、合流して東京湾へ注いでいた荒川と利根川の分離を計画。利根川は東側の銚子沖へ、荒川は西側の入間川から隅田川へと流れるルートに付け替えた。これによって洪水が減ると同時に、舟運や上流からの木材運搬が盛んになり、江戸は大きく発展した。
一方で、切り離された荒川の本流は「元荒川」となり、その水量は大幅に減った。「元何々」とは、ちょっと切ない呼び方だ。タレントのモト冬樹さんについて「元冬樹なら、今は誰なんだ」というギャグがあったが、まさにあれ。「昔は荒川だったんだがなあ」という元荒川のつぶやきが聞こえてきそうだ。
支派川流域の農村でも長い間、灌漑用水の不足に悩むことになった。また、これらの支派川は後に、水位の高い見沼代用水に連結されたことから、農業用水の排水も思うようにいかなかった。
そこで計画されたのが、支派川の拡幅や堰の改良などを一体的に実施する改修事業だ。元荒川の支派川は最終的に荒川、中川、利根川に合流することから、支派川の改修は、国が進めていたこれら3川の改修工事と同時期に実施された。

堀切橋の高欄にはアーチ型や三角形の穴が並ぶ。橋上の道路「館林道」が日光へ続くことにも、家康との因縁を感じる。

高欄の中柱は半球を伏せた下に丸太状のコンクリートが置かれ、側面にはレリーフがある。

親柱の上部にも装飾が付いている。

個性的な意匠で存在感を示す橋梁群

支派川改修と同時に、堀切橋をはじめ多くの橋が架け替えられた。星川に架かる馬見塚橋もその一つだ。このとき建設された橋や堰などの構造物は、どれも独特の意匠が施されており、80年以上たった今も、現役で使われているものがいくつかある。
馬見塚橋のドボかわいらしさは、何と言っても吊り橋を模した形の高欄にある。堀切橋とは対照的に、穴はなく全面がコンクリートだ。それでも重い印象にならないのは、高欄の高さが50cm程度と極めて低いからだろう。橋上を歩いて渡ると、ちょっとしたスリルを味わえる。
さらに、側面や中柱に施されたレリーフの味わいも捨てがたい。古びた黒っぽいコンクリートに浮き上がる渦巻きや縞模様は、縄文土器を思い起こさせる。
堀切橋は「野外アート風の橋」のデザインが評価され、2014年に土木学会の「選奨土木遺産」に選ばれた。馬見塚橋は「日本の近代土木遺産」だ。家康の命による瀬替えで元荒川が生まれ、そのために支派川改修が必要となり、結果として堀切橋や馬見塚橋といった個性的な橋がつくられた。つまり、家康こそが、これらの橋梁群の「生みの親」とは言えまいか。

堀切橋から7kmほど離れたところにある馬見塚橋。元荒川支川の星川に架かる。レリーフも面白い。

吊り橋を模したと思われる高欄の形は、ティアラのようにも見える。

アクセス

JR高崎線吹上駅から堀切橋まで車で10分、馬見塚橋までは県道66号を北上して25分。

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