FOCUS

FOCUS
2021年5月 No.528

課題研究で集めた「橋梁点検」の調査データを校内で蓄積するだけなんてもったいない!

収集した橋梁のデータを地域貢献に生かせないか?

道路や橋に亀裂があれば、幅や長さは何ミリなのか。またアスファルトが剥がれて穴が開いているところがあれば、深さは何センチなのか。スケールを当てながら測定し、現場の写真を撮っては地図に書き込んでいく。そうした地道な作業を繰り返し、生徒は自分たちの足でデータを集めていった。

「取り組みをはじめた年は、年度終わりに課題研究の成果として校内で発表するのみでした。しかし、せっかく集めたデータです。『何かに生かせないかな』と、生徒たちと話し合い、道路や橋梁の管理施設である県にデータを提供したら地元に貢献できるのではないかという結論に辿り着きました。そこで、2019年からは県と協働して橋梁点検を行っています」

県と一緒に取り組む課題研究が本格化するのは、県の予算が決まり入札をして、施工業者が決定する9月頃。まずは、勉強会からスタートする。メンテナンス作業とはどのようなことを行っているのか、メンテナンスサイクルは何年おきなのかといった基本的なことから、岩手県内の橋梁や道路のメンテナンスにはどのくらいの費用がかかるのかまで座学で教えてもらう。

「メンテナンスにいくら使うことができるかなど、県の財政面は私たちでは分からないことです。そういった我々教員では教えられないことを、県や企業の方から生徒たちに話していただければなと思い、『生徒たちには一社会人として、ありのままの姿で接してほしい』とお願いしました」

リアルなメンテナンスの現場・現状を目の当たりにできる環境が、ここには整っている。

生徒の成長の鍵を握る休憩中の社会人との会話

この橋梁点検の活動を通し、生徒たちにとって大きな収穫があったと大友先生は話す。

「たとえば授業でコンクリートや鉄筋の勉強を断片的にしますが、仕事でどう生きるのかよく分かっていないようでした。しかし、橋梁点検の課題研究で実際に作業をすることで、『ここでこういう知識が役に立つんだ!』と土木に対する理解が深まったのは、大きな学びだったのではないでしょうか」

また、大友先生は作業合間の“休憩時間”に、生徒の成長の大きなきっかけがあったという。

「生徒たちには、休憩時間も仕事の一環だと思って企業の方とできるだけ一緒にいて会話をしなさいと指導していました。休憩時間には、県や企業の方はまじめな橋梁点検についての話やたわいのない会話をされたりします。そういったやり取りの中から、社会人同士はどんな会話をしているのか、仕事上で上司と部下はどういう関係性なのかを知ることができます。そこから『あ、仕事ってこんな感じなんだな』と、自分が変わるきっかけを見つけて、将来をまじめに考え始めるきっかけになっています。今まではなんとなく『仕事ってこんな感じかな』と思っていたことが、具体化されたことは生徒にとって大きな成長ポイントになりました」

この成長を経た生徒たちは、求人票の見方にも変化があった。初めて求人票を目にする2年生の頃は、どこをどのように見たらいいのか分からず「給料はいくらだろう」と、分かりやすい部分に目が行く。しかし、学校以外の環境下で社会人とともに“作業”をすることで、「会社の雰囲気がわかり、求人票やホームページの記載内容や職種から、仕事をより明確にイメージできる」と、進路を考える際に参考にすべき材料が自分の中にできた。

「生徒たちは実際に作業することで、維持管理の重要性や社会人の仕事への姿勢を肌で感じていました。橋梁点検の企業に就職をしなくても、メンテナンスや土木の魅力に気づいたことは、とても意義のあることだと思います」

今後は大学とも連携し、一緒に点検を実施したり大学に訪問して高校生に高度な学びを体験させたり、協働を強めていきたいと大友先生。そこで学んだことを、高校生の手で小学生や中学生に伝えていく道筋ができるよう取り組んでいきたいと語る。

特技を生かした授業プリント

課題研究と同じく座学でも、“経験”を記憶として定着させたいという大友先生。その一環として、先生は特技である漫画制作を活かしたプリントを作成している。「たとえば橋梁点検のとき、木のかけらが橋に埋まっているのを見つけました。技術者倫理を問う授業で使えると思い4コマ漫画に。建設当時の作業員の対応をどう考えるかなど考える糸口としました」。生徒たちの直感に訴えることで、「これ、授業でやったな」と記憶にインプットさせる工夫をしている。

産学連携、地域協働に積極的な盛工。資格取得のための講習やドローン演習には、地元の専門学校と連携し実施

いかに心を込めものづくりするか、技術だけではなく技術者に求められる人間力を身につけてほしいと大友先生

岩山展望台

盛岡駅から車で15分ほどの場所にある「岩山公園」。小高い丘陵地の地形を生かした公園内にある「岩山展望台」からは、盛岡市内をぐるりと一望できます。日本の夜景遺産にも選定されるこの場所からの眺めは、「街に愛着が持てる景色」なのだそうです。

岩手県立盛岡工業高等学校

〒020-0841 岩手県盛岡市羽場18地割11番地1
WEB: http://www2.iwate-ed.jp/mot-h/index.html

 

◎本誌記事の無断転載を固く禁じます。

 

【冊子PDFはこちら

1 2

関連記事

しんこう-Webとは
バックナンバー
アンケート募集中
メールマガジン配信希望はこちら