FOCUS

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2020年9月号 No.521

将来味わう大きな達成感に向け、小さな達成感を積み重ね「喜びの練習」を

古くから桜の名所として名高い吉野山。そのふもとに位置する奈良県立吉野高等学校は、創立118年の歴史を刻む伝統校です。橋梁模型製作コンテストやコンクリートカヌー大会では、入賞常連校であり毎年好成績を収めています。「吉野ブランド」とも称される同校の技術力を支えるものは、一体何なのか。コンテストや大会を通して、土木工学科の中村名津子先生が生徒に伝えたいことについて伺いました。

失敗を乗り越えながら、喜びの段階を上ってほしい

「吉高に入学したのは兄の影響。兄と同じように、橋梁模型製作コンテストで入賞したかったから!」と語る生徒がいるほど、橋梁模型への取り組みが活発な同校。審査基準である仕上がりの美しさや載荷試験に耐える強度など、時間をかけて丁寧に追求し、「吉野ブランド」と一目を置かれている。長年、作品づくりを指導されている境山先生のもと、毎年のように上位入賞を果たしているが、もちろん最初から出来栄えのいいものがつくれるわけではない。「一旦ボロボロでもいいから、つくってみよう!」からはじめ、壊れてしまったらOBがつくった作品と見比べ、自分たちで改善点を探しながら仕上げていく。「失敗しても、最終的にいいものができることが大切だと指導しています」という中村先生は、技術的なことはもとより、「できた」という喜びを積み重ねることが、生徒のやる気を育てるためには必要だと考えている。

「長い期間をかけて作品づくりをしますが、数回の区切りを設けるようにしています。まずは、最初の期限を決めて自分たちが思ったとおりにとりあえずつくってみる。でも出来上がりはまだまだ完成品とはいえない。そこで、次の締め切りまでにはもうちょっと良いものをつくってみようかと促しています。そうすることで、今日はこのくらいの力に耐えられるものができた。次はもっと耐久性があがった。その次は見た目もきれいになったと、形になる喜びを段階的に感じ、一所懸命に取り組むことが楽しくなるようです」

こうしたものづくりを通し、生徒たちに「喜びの練習」をしてほしいと中村先生は言う。
「学生の間は、模型など小さなものをつくり達成感を得ています。これは社会に出て、もっと大きな建造物をつくるときに味わうであろう達成感や喜びの練習みたいなものです。例えば中学校へ土木工学科の案内に行くときに、橋梁模型を見せながらそういったものづくりの魅力を説明できたら、『工業高校は小さな達成感から大きな達成感に向かって学ぶ場』ということが想像しやすいのではないかと思っています」

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