特集

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2025年9月号 No 571

「複合災害」から国土を守る建設業の役割とは

「事前防災」が新たなミッションに

日本では今後、「防災庁」の創設が計画されています。今後、災害への備えである「事前防災」が、建設業界の重要な役割となっていくのは間違いありません。災害対策基本法の改正、能登半島地震の教訓を念頭に、政府の中央防災会議は25年7月、防災基本計画に次のような文言を加える決定を行いました。

「災害復旧や災害からの復興に必要な事前準備をするものとする」

「地域防災計画において公共的団体又は民間の団体が災害時等に担うべき役割、当該団体との連携体制の構築や役割分担等に関する基本的な方針を位置付けることなどによる災害応急対策又は災害復旧に係る事業者等との連携強化を図る」

これは事前防災を国の政策として正式に位置付けた決定と言うことができます。発生確率が高い災害、あるいは発生すれば日本が「国難」の状態に陥ってしまう大災害について、積極的な事前準備を進める方針を示します。

国交省は政府方針を踏まえ、これまで省の職員で構成してきた「緊急災害対策派遣隊(TEC-FORCE)」を増強、行政機関や民間企業との連携強化を図っていく方針を明らかにしました。国交省が25年6月に発表した新たな方針を最後に紹介します。

まずTEC-FORCEについて説明しましょう。これは08年に始まった取り組みで、大きな災害の際に技術職員を被災地へ派遣し、技術支援を実施する活動です。従来、国交省の各地方整備局などがこれを担ってきました。

新たな方針では、まず専門的な知識を持つ民間企業などの人材を「TEC-FORCE予備隊員」として募り、チームの母数を増やします。さらに建設会社など「TEC-FORCEパートナー」を事前に取り決めておき、広域に、一体的な災害対応を図っていきます。

国交省はこれらに加え、学識者による「TEC-FORCEアドバイザー」の助言を早急に得られるようにする、平時から各都道府県と合同研修・合同訓練を進めて連携を強化する、といった取り組みを今後進めていきます。


  • 新たなTEC-FORCEの枠組み。国土交通省の要請により活動する企業・団体などを「TEC-FORCEパートナー」と位置付ける。災害対応力を高めるのが狙いだ (出所:国土交通省)

特に建設業界に期待されているのが、TEC-FORCEパートナーとしての参画です。現行の災害協定に基づく枠組みは、管轄外への派遣などがあまり想定されていません。国交省や都道府県が協定に基づき支援を要請する先は、エリア内の企業などに限られてきました。国交省は今後、災害協定の内容を拡充することで、広域大規模災害における機動性を高めようとしています。

近い将来、広域災害が発生した際は、TEC-FORCEが都道府県と連携して速やかに調査を進め、ニーズの交通整理を行った上で、隣県の建設会社(TEC-FORCEパートナー)にも災害協定に基づく復旧支援活動を要請する、という流れになるでしょう。建設業界の社会的な役割は、これまで以上に大きくなるのです。

 

プロフィール

佐々木 大輔 日経クロステック 建設編集長

1976年生まれ。99年日経BP入社。「日経コンストラクション」「日経アーキテクチュア」「ケンプラッツ」の記者、デスクなどを経て、2019年12月に日経アーキテクチュア編集長。24年4月から現職。災害、事件・事故、建築行政・法制度、建築技術・生産などの分野を中心に建設産業を長年取材。


池谷 和浩 ライター

1970年生まれ。専門紙「住宅産業新聞」に記者として勤務後、98年からフリーライターに。「日経ホームビルダー」「日経アーキテクチュア」で長年、建築・住宅の設計実務、事件・トラブルなどを取材。建築訴訟、法制度に精通。

 

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