マチナカ美術館
マチナカ美術館 ものづくりの拠点だった町の緑を守る庭の守り神
山手線に乗っていると、大崎駅と五反田駅の間、高層ビル群の中に不思議な像があることに気づく。長いうねうねとした赤い帽子をかぶり、ずんぐりとした人の形をした像、これは一体なんなのだろう?
この像は、ドイツのアーティストグループ、インゲス・イデーによる《グローイング・ガーデナー》(成長する庭師)というアート作品。2007年1月にオープンした超高層ビル3棟を中心としたアートヴィレッジ大崎の敷地内に置かれたものだ。インゲス・イデーは、青森県十和田市の十和田市現代美術館に隣接する「アート広場」に《ゴースト》という巨大なオバケの彫刻を設置したことでも知られている。
グローイング・ガーデナー
なぜ、この場所に不思議な像があるのか……、それは、かつてこの地に多くの工場があり、ものづくりの拠点となっていたため。再開発のときにほとんどが閉鎖してしまったが、その息吹を残しておこうと、再開発時に国内外の作家によるアート作品7作品を敷地内に設置が決まった。これがアートヴィレッジという名称の由来にもなったのだ。この作品のほか、公園内に設置された三澤憲司《光の滝》や、ピーマンの形をした大林組+アトリエ・ジーアンドビー《Street Pepper(Flowps)》など大崎のシンボルとしてアートヴィレッジ内に点在している。そのなかでも、やはり赤いとんがり帽子(フリジア帽)にあごひげを蓄えた年齢不詳のおじさん像は山手線内から見えるため特に人気。ちなみに、彼の姿はヨーロッパで庭の守り神として知られている「ガーデン・ノーム」の姿を下敷きにしたもの。ヨーロッパのガーデニングをする家の庭ではさまざまなタイプのガーデン・ノームが暮らしているといわれる。さながら彼は、広大なアートヴィレッジの緑を守ってくれているようだ。
「ストリート・ペッパー」 モニュメント型の防風装置
「スパイラル」 2014年に設置された同地の中でも新しい作品
「光の滝」 夜間はライトアップされる
このほかにも、アートヴィレッジ大崎ではものづくりの拠点であったときの気概を後世に伝えようと、パブリックアートの設置だけでなく、ビル内で奇数月と12月に若手演奏家による無料コンサートを行うなど、表現者への支援を続けている。再開発で変貌著しい大崎だが、かつて町にあったスピリットを新しい形で残そうとしている素敵な町だ。
(取材・文 浦島 茂世)
アートヴィレッジ大崎に行くには…
JR山手線・埼京線・湘南新宿ライン大崎駅下車 徒歩3分。2018年最初の無料コンサートは1月31日(水)に開催。入場は無料。詳細は同地のホームページにて告知される。
http://www.avoct.com/
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