建設経済の動向

建設経済の動向
2017年11月号 No.493

業績好調も利益率向上はそろそろ限界?

建設会社の業績が好調だ。2016年度の決算に関する一般報道では「過去最高益」の文字が躍り、今後も東京五輪関連などの需要が旺盛。しばらくは安泰とも思える。一方、人手不足に端を発する人件費高騰などの兆しも見え始め、利益率の向上は限界に近付いてきた。比較的余裕がある今、社員の待遇改善など、人材確保のための手を打っておく必要がある。

日経コンストラクションが主要な建設会社を対象に今年夏に実施した調査によれば、2016年4月から2017年3月までに期末を迎えた主要建設会社の決算(2016年度決算)は、前期に引き続き利益が大幅に増加した。利益率の改善も顕著だった。
大成建設、鹿島、大林組、清水建設の大手4社は、いずれも2期連続で連結純利益が最高値を更新。単体の完成工事総利益率は、4社平均で土木が前期から2.8ポイント上昇の16.4%、建築が2.7ポイント上昇の13%。
土木では前期と比較して上昇した会社が76社、低下した会社が45社だった(下図)。利益の出ない工事を避ける「選別受注」に加え、設計変更や追加工事が利益拡大に貢献したとする会社は多い。
2014年の「公共工事の品質確保の促進に関する法律」(品確法)改正を受け、公共工事設計労務単価が5年連続で引き上げられたことや、設計変更ガイドラインの改定で、工費が増える設計変更にも適切に対応する機運が高まってきたことも、利益確保に寄与している。

図  土木の売上高と完成工事総利益率の関係

2017年度後半から労務費が上昇か
コストアップで減益を見込む会社も多い

今後の受注環境に関しても悲観的な見方は少ない。
各社の手持ち工事高が膨れ上がり、施工能力の面でむやみに受注を増やせないという事情もあって、今回の調査で前期より受注高が増加した会社は約半数にとどまった。ただし、建設需要は2020年の東京五輪まで高水準が続き、五輪後も急激に縮小するとは考えにくい。特に土木の場合、五輪に直接関係する案件は少なく、かつ首都圏の環状道路などの大型案件は五輪後もしばらく続くとみられる。
こうした建設需要の増加に伴い、数年前から労務費上昇の可能性が指摘され続けている。しかし、決算内容を見る限り、まだ利益を圧迫する状況には至っていないようだ。各社からは、「思ったほど労務費が上昇しなかった」との声が聞こえてくる。
ただ、2017年度後半には労務費上昇が顕著になるとの見方が大勢だ。多くの会社がコスト上昇を織り込み、次に期末を迎える決算では減益を予想する。利益率のアップも、そろそろ限界を迎える可能性がある。

人材確保は大手・中小問わず課題
若手に絞って待遇改善する会社も

好決算のなか、ここ数年、各社の経営課題となっているのが人材確保だ。採用に苦戦している会社は依然として多い。日経コンストラクションの調査によると、今年4月入社の新卒採用に関して、売上高1000億円以上の大手では、予定数を確保できなかった会社が45%に上った。中小の建設会社ではさらに厳しく、53%が予定数を採用できていなかった。同様に、中途でも思い通りに人材を採れなかった会社が多く、需給のアンバランスが続いている。
人材を確保する狙いもあり、各社は初任給の引き上げや給与のベースアップなどで社員の待遇改善に力を入れる。例えば、若手社員の待遇を改善したのが大成建設だ。全社員を対象とするベースアップとは別に、今年7月、20歳代と30歳代の社員に絞った賃上げを実施した。平均で基準内給与の6.7%、1カ月当たり2万3,300円引き上げた。

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