経済動向

経済動向
2021年6月 No.529

ワクチン普及で注目される消費の押し上げ効果

新型コロナウイルス感染症のワクチンの普及を背景に、経済正常化への期待が高まっている。そのけん引役と見込まれるのが、外食や旅行、娯楽サービスを中心とした「奮発消費」である。家計はコロナ禍の中で潤沢な資金を積み上げており、潜在的な押し上げ効果は大きい。ただその発現はワクチンの接種ペースに左右される。そこで今回は、ワクチン普及の消費押上げ効果について解説する。

新型コロナウイルス感染症との戦いに一筋の光明

新型コロナウイルス感染症との長い戦いにもようやく光が差し込み始めたようだ。その光の源は、いうまでもなくワクチンである。米国のファイザー社とドイツのビオンテック社が共同開発した新型コロナウイルスワクチンが世界で初めて承認されたのは昨年12月のこと。今では10種類以上のワクチンが承認され、80カ国以上でワクチンの接種が進んでいる。こうした状況をうけて、経済正常化への期待もにわかに高まっている。

経済の正常化に際して、回復のけん引役と見込まれるのが個人消費である。行動制限で旅行はおろか外食すらもままならなかったが、ワクチン普及によってそうした制限が緩和されるからだ。実際、読者の中には、「コロナが収束したら飲みに行こう」とか、「一緒に旅行しよう」といった約束を、友人・知人とされている人も少なくないだろう。

世界で積み上がる家計の貯蓄

もちろん消費を増やすには、その元手となる資金の確保が欠かせない。ただし今回は、その点も全く問題なさそうだ。事実、主要国では、コロナ対策と称して各種給付金が支給された一方、行動制約から消費支出は抑制された。その結果、家計の貯蓄は大きく積み上がっている。

みずほリサーチ&テクノロジーズの試算によると、その額は日本・米国・ユーロ圏でおよそ245兆円、日本だけでも約29兆円に達する。これは日本の年間消費額の1割に相当する額だ。もちろん全てが消費に回るわけではないが、消費を促す軍資金としては十分な資金が確保されていると言えるだろう。

拡大が見込まれる量より質の「奮発消費」

ワクチン普及後は、とりわけ行動制限によって抑制されてきた外食や旅行、娯楽サービスを中心に需要が回復するとみられるが、その回復パターンは量よりも質を重視する「奮発消費」の様相を呈するだろう。サービスはモノと異なり、消費に際して時間の制約からは逃れることができないからだ。

旅行を例に考えてみよう。観光庁の調査によると、コロナ禍前の年間平均旅行回数は2.5回(平均泊数2.3日)となっている。では、昨年1年間、コロナ禍で旅行の中止を余儀なくされたからといって、年間旅行回数を5回にできるかと言えば、そのハードルは相当高い。会社勤めの人ならなおさらのことだ。飲み会も同様に、増やせる回数には限りがある。このように数が増やしづらい分、奮発して普段より高めのホテルやレストランに行く人が増えるとの見立てだ。

ワクチン接種で出遅れる日本

けん引役として期待される「奮発消費」だが、その発現時期は国によって異なる。ワクチン接種ペースが各国で違うことが理由である。今年5月11日時点のワクチンを接種した国民の割合をみると、米国では5割弱の国民が少なくとも1回の接種を終えたことがわかる(図表)。

(注)2021年5月11日時点
(資料)Our World In Dataより、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

バイデン大統領は5月までには成人全員の接種を目指すとしており、夏休みまでには奮発消費が顕在化する可能性が高い。

一方、日本はまだ高齢者を対象とした接種が始まったばかりで、接種割合は3%程度にとどまる。こうした出遅れに加え、接種を担う医師・看護師の確保など、接種体制に課題を抱えており、今後の進捗ペースについても不透明感が強い。世界的に楽観ムードが高まりつつあるとはいえ、日本については、当面ウィズコロナを前提にした守りの戦略が求められることになりそうだ。

 

【冊子PDFはこちら

関連記事

しんこう-Webとは
バックナンバー
アンケート募集中
メールマガジン配信希望はこちら