日本経済の動向

日本経済の動向
2021年3月 No.526

バイデン新大統領誕生は米国、世界をどう変えるか

1月20日、ジョー・バイデン氏が米国の第46代大統領に就任した。昨年11月の大統領選挙後、選挙結果を巡る訴訟問題、トランプ前大統領支持者による前代未聞の議会占拠と前大統領への弾劾訴追など紆余曲折を経ての新大統領誕生である。バイデン新大統領によって何が変わり、何が変わらないのか。今回は、米国新政権発足の影響について展望する。

米国政治の混乱は続き、公約は規模縮小へ

バイデン新大統領は議会での基盤が必ずしも強くなく、「弱い大統領」としての船出となる。民主党が下院だけでなく実質的に上院も制する形(共和党との同数議席。議長の副大統領票も加えれば過半数)となったが、政権発足時の多数派の規模は上下両院とも歴史的には小さい。

 

(注)政権発足時の所属政党の対立政党に対する議席差
(出所)Brookings資料より、みずほ総合研究所作成

共和党との勢力拮抗だけでなく、民主党内でも左寄りのリベラル派と中道派をまとめていく必要がある。新大統領の強い指導力に期待したいが、前途は多難と言えそうだ。

新政権は先ずは外交よりも内政を優先することになる。新型コロナウイルスの感染抑制が喫緊の課題であることは言うまでもなく、ワクチン接種の早期普及に注力する。

経済面では短期的には現金給付や失業給付の拡充などの追加策によって景気の下支えを行う。また、中長期的にはバイデノミクスとも称される経済政策では、歳入、歳出を大胆に組み換えつつ、米国の経済・社会の格差と分断の問題に取り組む。富裕層を対象とした所得増税やキャピタルゲイン課税強化、法人税率の引き上げなどによって歳入を拡大させ、一方で、インフラ投資の拡大、医療や社会保険の拡充、中低所得者層の高等教育無償化などの歳出拡大が計画されている。競争政策では、大企業による独占・寡占問題において従来以上に踏み込んだ対応を行い、大手のITプラットフォーム企業に対する規制強化が検討される。

もっとも、こうした政策には共和党が強く反発することが予想され、党派対立に基づく政治の混乱が続くだろう。また、バイデン大統領としては民主党中道派への配慮も求められる。結果としてバイデノミクスは相当程度の規模縮小、実質的な骨抜きを強いられる可能性がある。

劇的に変化する環境政策

他方で、新政権発足に伴い最も大きく変化するのは米国の環境政策である。新大統領は地球温暖化対策の国際的な枠組みである「パリ協定」に即座に復帰することを宣言し、2050年のCO2排出ネットゼロを目標として掲げることになる。米国の政策転換に伴って脱炭素社会の実現に向けた主要国の足並みが揃い、各国の取り組みが今後加速していくことになる。米国は日本企業にとって最大の投資先であり、また、輸出先でもある最重要市場だ。米国における環境政策の変化が事業・規制環境に及ぼす影響を見極めつつ、気候変動への対応がもたらす新たな需要の捕捉にも努めていくことが求められる。

外交政策ではアプローチ手法が変わることに

バイデン政権下でもトランプ前政権での「米国第一主義」が変わることはないはずだ。バイデン新大統領は国内経済の立て直しを優先させる結果、国内企業を優遇する米国第一の政策目標を引き続き維持するだろう。しかし、目標達成のためのアプローチ手法は前政権と変わってくる可能性が高い。すなわち、これまでのような米国による単独主義ではなく、多国間の協調が重視されると考えられる。一方的な措置が強硬されるのではなく、同盟国との協調や多国間のルールを活用するアプローチがとられよう。

近年悪化の一途を辿ってきた米中関係も、短期的にはやや落ち着くこともあるのではないか。もちろん、中国を米国の国際的な地位を脅かす「戦略的な競争者」と捉える基本的な認識は変わることはないが、対話による問題解決や特定分野での協力によって中国との共存を模索する機会も増えてくるものと見られる。一方で、実利重視のトランプ前大統領と異なり、バイデン政権では、人権や民主主義にかかわることでは譲歩が難しくなることに留意が必要だ。香港などの情勢次第では米中対立が激化するリスクは残存しており、米中関係の真の改善は容易ではないと思われる。

 

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