建設経済の動向

建設経済の動向
2021年2月 No.525

コロナ禍で有効な教育ツールに、伝承テック

国土交通省が掲げるi-Constructionは、建設工事などで数多くの先端技術導入を実現しつつある。一般的には「生産性向上」が目的と考えられる技術導入の本質は、建設現場における人材不足の解消や技術伝承にある。コロナ禍における教育などにも役立つ技術の最新動向を紹介する。

ICT(情報通信技術)やAI(人工知能)、ロボットなど先端技術を続々と建設現場に取り入れる理由として、効率をアップさせたり、必要な人手を減らしたりする生産性向上をイメージする人は多いだろう。確かに、効率化や省人化などが大きな狙いであることは間違いない。

しかしそれ以上に、建設事業に従事する技能者の人材不足が、先端技術を導入する根源的な理由だと理解する方が正確だ。建設会社で新技術導入を進める技術者たちの多くが、この点を強調する。建設技能者は高齢化が進むとともに、若手の入職が十分に進んでいない。建設現場では現状だけでなく、将来にわたる人材不足が深刻な問題となっている。生産性向上による効率化はその副次的な効果とも言える。技術導入による労働環境の改善によって、建設の仕事の魅力を高め、優秀な人材を獲得できるようにすることの方が本質的な狙いなのだ。

人材育成という観点では、建設技能者が持つスキルやノウハウを伝えるという視点で先端技術を用いる「伝承テック」は、これから注目される可能性が高い。

伝承テックとして分類できる技術には、いくつか種類がある。代表例の1つがモーションキャプチャーだ。人の動きをデータ化して解析する。

この技術を利用して、日本塗装工業会と名古屋市立大学芸術工学部の横山清子教授が、熟練の塗装工の動きを解析した例がある。塗装工の動きを棒の動きに置き換えて分析した。テクノロジーを使って分析すれば、何か特徴が見つかるのではと考えたのだ。だが、意外にも王道と言えるような決まった法則は見つからなかった。

それでも、これは1つの発見だ。様々な塗り方でも高い品質で施工できるという点が分かることで、「こうした塗り方でもできるのか」と気づく効果を期待できる。その人に合った方法を見つけるヒントになるのだ。

教えるきっかけ示す視線計測 感染リスクの高い高齢者も協力しやすい

アイトラッキング(視線計測)もスキルを伝えていくうえで有効な手段だ。これは医療分野などで用いられてきた技術で、ベテランが眼鏡型の端末をかけて作業を進め、その際にどこを見ていたかを計測する。ベテランが現場で何をどのタイミングで見ているのかを明らかにできる。

何もないところで、いきなり若手にノウハウを教えろと言われて、簡単に説明できるベテランは少ない。実際の作業で自分が見た映像などを基にすれば、この瞬間でここを見ているのはこうした理由があるなど、明確に伝えやすくなる。効果的な技能伝承に役立つ可能性が高い技術だ。

最近は新型コロナウイルスの感染拡大によって、業務のオンライン化や遠隔化などが求められつつある。ノウハウを伝えるための新しい技術はICTとの親和性が高く、遠隔からの指導も容易だ。ウイルス感染への注意がより必要となる高齢のベテラン技能者の協力を得やすくなる部分もメリットと言える。

塗装技能者のノウハウをモーションキャプチャーで可視化した結果。塗り方は千差万別であった(資料:日本塗装工業会、名古屋市立大学)

 

【冊子PDFはこちら

関連記事

しんこう-Webとは
バックナンバー
アンケート募集中
メールマガジン配信希望はこちら